MY LIFE AS A DOG

ワイングラスの向こうに人生が見える

フランス人は議論好きか?

2005年03月27日 17時59分39秒 | 雑感
先日、同じ職場のフランス人、トルコ人夫妻に誘われて日本料理店へ行った。
「料理の選択は任せた!」とのことなので、まずビールと枝豆を注文。その後焼き鳥と日本酒を注文し、〆にすしを注文した。焼き鳥とすしを一緒に注文するのは本来は邪道なのかもしれないが、まあそこはアメリカなのでお許しいただきたい。
いずれにせよ久々に日本食にありつけて個人的にはとってもハッピーな一晩を過ごさせてもらった。

「会社帰りに仲間と一緒にパブに寄って枝豆をアペタイザーにしながらビールで一杯やるのが典型的日本人ビジネスマンのやり方だよ」と説明してあげたら「何故、家に真っ直ぐ帰ってあげないのか?」とフランス人女性フェローからの痛ーい突っ込み。
「多くの日本人男性は奥さんを自宅に残したまま飲みに行っちゃうんだよ」と言うと少々不満気な表情を見せていたが、、、まあ嘘じゃないんだからこればっかりはしょうがない。

一方トルコ人夫妻の旦那のほうは現在ミシガン州立大学で経済学を教えているプロフェッサーなのだそうだが(奥さんのほうは僕と一緒に働くクリニカルフェロー)3年前まで日本の東大で教鞭をとっていたということで、二人でローカルな話題で妙に盛り上がった。僕も日本での職場が東大の近所だったので東大周辺には詳しいのだ(あくまで周辺だけであるが)。
ちなみに彼は英語とトルコ語のほかフランス語にも堪能で、彼の奥さんはプルーストを原語で読む彼に惹かれて結婚することにしたのだそうな。

そして、しばしの歓談のあと話題はおのずとポリティックスに移り、通り一遍のアメリカ、ブッシュ批判のあと何故か彼らの関心は日本に向けられた。
これには正直参った。なぜなら、僕はまだまだ英語がおぼつかないし、かれらを納得させられる自信が僕には全くといっていいほどなかったからである。しかし、好奇心旺盛な彼らのことである。情け容赦はない。
以下に彼らとのやり取りを一部再現してみる。

まず「日本はイラクに軍隊をだしているのか?」という質問。
もちろん答えは「イエス」
次に「日本国民はそれを支持しているのか?」ときたので
「多くの国民は支持していないと思う」と答えると(そもそもこの答え方がまずかった)
「じゃあ、政府の支持率は低いんだな?」と当然予想された質問が飛んできた。
「うーん、、。それが、、、政府の支持率は結構高いんだよ、、、」と答える僕。
「何故だ???」という彼ら。
「他にいい候補がいないんだって、、」と僕。
「じゃあ他の政治家もみなアメリカ支持ってわけか」
「いや、そんなことないよ。そうじゃない政治家もたくさんいるよ」
「じゃあ、何故そいつを選ばないんだ?」
「・・・・」(内心、知らねーよ。俺の方こそ教えてほしいよと思いつつ。。)
「今の日本の首相には政策的な魅力があるのか?」と彼ら。
「基本的に、今の日本全体にはアメリカに逆らっては生きていけないんだっていう思い込みがある。その理由の一つは北朝鮮だ。アメリカとは安全保障条約があるので(偶然安全保障条約という単語を知っていたのがこんなところで役立った!)アメリカに逆らうと守ってくれなくなるんじゃないかってみんな心配なんだよ」
「え?本当にそう考えてるのか?アメリカが自国民の命と引き換えに日本を守ると日本人は信じてるのか?」
「俺は信じてないよ。安全保障条約がまともに効果を発揮するとは僕は思わない。しかし、、明らかに現在の日本ではアメリカに追従せざるを得ないという意見が支配的だ」
「おい、だったらおまえの言ってることは矛盾してないか?国民はアメリカに追随してイラクへ軍隊出すのは反対してるんだろ?国民の真意はいったいどっちなんだ?」

まあ、終始こんな感じである。元来こういう類の議論が好きな人々なのかも知れないが、それにしても彼らを納得させることが一朝一夕にはいかないのだということはよくわかった。
特にフランス人は議論好きといわれるが、彼らの質問はするどい。
僕が「日本にももちろん、政府のやり方に批判的な政治家はたくさんいる。とくに小泉のネオリベラル政策に対してはなかば国を2分した議論が起こっている」というと、
「それは興味深い。どういう議論なのか?」と聞くので。
「アメリカ的市場原理主義のおかげで、日本にあった従来の商店街などを中心とする小さなコミュニティーが完全に破壊された。これを悲しむべきことだと考えている政治家が小泉と対決しているのだ」と答えると。
「では、その政治家たちが唱える理想の社会とはどんなものか?」と聞いてくるのである。そこから先は僕の知識の範囲を超えていると思いながらも何とか食い下がる。
「言ってみれば反グローバリズムだ。地域の共同体に根ざしたより自治的な組織を想定しているのではないか?」と答えると。
「なるほど。それはおもしろい。では、その共同体では基本的に自給自足を目指すということか?人々は共同体内で就業するのか?共同体外での就業は許されないのか?共同体どうしはどのような関係性を保つのか?それはsocialismやcommunismとはどのように違うのか?」と。
この矢継ぎ早な質問には恥ずかしながらギブアップせざるを得なかった。
「ごめん、僕も詳しくは分からないんだ」と。

はたしてこいつらは何者か??というのが僕の正直な印象である。
彼らは、決してその道の専門家ではないし、普段は(それぞれの配偶者は別として)一緒に働く仲間である。
果たして、これは彼らのインテリジェンスが個人的に高いことに起因するだけなのだろうか?あるいはヨーロッパにおける知識層の多くがこのレベルなのだろうか?

とどめには「日本のfolkloreについて教えてくれ」といわれ。僕はあえなく撃沈。
「folkloreってなんだっけ???」てな感じ。

田中康夫曰く「フランス人の多くは、自分が観たこともないのに、例えば日本の歌舞伎について平気で1時間ぐらいしゃべりたおす能力を持っている。それは彼らの博学さを意味するのかもしれないが、考えようによってはただハッタリが強いだけとも言えるかもしれない」のだそうだが、同席したトルコ人フェロー曰く「バカロレアで、わけのわからない哲学の問題を解かされてるからフランス人はこうなっちゃうのよ」とのこと。

確かに、フランスのバカロレアにおける哲学のテスト問題はあまりに難しいことで有名だ。
高校生の8割が受験するというバカロレアにおいては、受験生は理系文系の違いにかかわらず約15科目からなる共通テストを受ける。そのうちの一つが哲学である訳だがこの哲学の問題がめちゃめちゃ難しいのだ。

というわけで、最後に近年のバカロレアにおける哲学の問題をいくつかご紹介しよう。

1. 弱者保護と環境保護は両立するか?
2. 絶対的真理は存在するか?
3. 哲学は諸科学についての考察なしに済ますことが出来るか?
4. 人は自分自身に嘘をつくことが出来るか?
5. 人は何によって出来事が歴史的であると認識するのか?
6. 人は美を判断するのかそれとも感知するのか?

なるほど、こんな問題を解かされていたら議論好きにもなるわな、、、。
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6 コメント

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わっはっは~ (ダイアン)
2005-03-28 08:15:10
フランス人は論じるの好きですよね~ってか、ヨーロッパ人は往々にして「論じること」をとおしてコミュニケーションをとってますよね。さすが、プラトンが居ただけある・・・フランスって哲学の中心地のひとつですよね・・・。ヨーロッパ人は張ったりも多いと思います。でも、同時に「論じる」ということを基本的に身に着けていると思う。だから、論じることを通して又知識を吸収しているんだと思う。自分と意見が違ってもそれで良しで、別に言い負かしたいとかじゃないと思うんですよ。ただ単に「論じる」ことが楽しいんじゃないかなぁ・・・



そんな私も、論じ合うの大好きですよ。これが無いと、ペーパーが困るし・・・。



ところで模様替え、なかなか素敵ですよ!!
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そうなんですよ (kazu-n)
2005-03-28 09:37:22
ダイアンさんこんにちは。



結構この模様替えいいでしょ?

僕もかなり気に入ってます。



いやー、議論の熱っぽさでいうとフランス人のみならずその場にいたトルコ人もなかなかのもんでしたね。

これが俗に言う議論好きなヨーロッパ人なんだなーっとちょっとものめずらしさすら感じましたよ。



僕も議論するのは好きですがちょっとあのペースでこられると言葉の壁もありたじたじです、、、(T_T)

ちょっとハッタリをかますには話題がヘビーすぎました。
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テク? (ダイアン)
2005-03-28 12:57:11
張ったりやら突っ込みやらのスペースを自ら作るテクが・・・

「どうしてあなたはそう思うの?何が根拠なの?」の突っ込みをすると、なんとなく自分のペースに持ってきながらも、相手の答えに対して突っ込み続けることができる・・・そしてワキが甘くなったところをついてちょっと張ったりをかましてみる・・・狡いですよね・・・反省・・・
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結局のところテク (kazu-n)
2005-03-28 14:11:33
なんでしょうね。



こっちで仕事してると話のテクについていろいろ学ぶことが多いですね。特にアメリカ人はマニュアル大好きですからなんでもかんでもマニュアル化しようとしますよね。それはそれは本当に笑っちゃうくらいまじめにマニュアル化に取り組みます。



こっちで何度かプレゼンをする機会がありましたが、もうボロボロでした。みんなからかなりきついお言葉を頂戴しました。はじめのうちはずいぶんへこみましたが、そのうちにみんなが言っていることは結局マニュアル的なことばかりだということに気づきました。



たとえば、プレゼンのはじめには必ずジョークを混ぜろとか、1枚のスライドには5つ以上の項目を入れるなとか、原稿を見るなとか、プレゼンの売りが何なのかをプレゼンの最初にもっとアピールしろとかなんとか、、、



で、そういわれてよく見てみると、よくトレーニングされている他の人たちのプレゼンのパターンってみなすごく似てるんですよね。



人と議論をするテクっていうのもこれと同じで、きっとトレーニングの賜物なんでしょうね。
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変なフランス人 (o_sole_mio)
2005-03-29 00:15:01
こんにちは。



10年以上前に1ヶ月ほどバンクーバーにいたときに行動をともにしていたフランス人を思い出しました。日本に対して興味深々で、「お前、カマスカって知っているか。」と聞くのです。私が「知らない、なんだそれ?」と答えると「お前、日本人のくせに本当に知らないのか?!芸者が夜の接待をするやつだよ。」と。他にも私の知らない日本と得々と語ってくれました。



出身地を聞くと普通国名を言いますが彼は「パリ出身である。」といい続けました。かといって洗練されたパリジャンでもなく、せんだみつおのフランス人版といった風情で本当に変な奴でした。



彼がフランス人の代表サンプルとするのはもしかしたら他のフランス人に失礼なのかもしれませんが、適当に情報さえあれば(たとえ間違っていても)、自分達の論理を構築できる人種ではないかと思っていましたが、今回の記事を拝見してなるほど、と納得した次第です。
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フランス人 (kazu-n)
2005-03-29 16:15:12
o_sole_mioさん

こんにちは。コメントありがとうございます。

なるほど、o_sole_mioさんにも似たような経験がおありのようですね。

ということは、やっぱりそういうことなのでしょうか。

いくらなんでもたったこれだけの経験だけでフランス人論を語るのはどうかと思いますが、でもやはりそういう傾向は多少なりともあるといっていいのかもしれませんね。



ただし、これって逆にいうと日本人は議論下手のコミュニケーション下手ってことになっちゃうのかもしれませんが。。。
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