MY LIFE AS A DOG

ワイングラスの向こうに人生が見える

アメリカと銃規制に関する備忘録

2005年05月15日 01時38分28秒 | アメリカ
テキサスに来て早5ヶ月が過ぎた。
とにかくテキサスは広い。土地がふんだんにあるため建物同士の間隔にもずいぶんと余裕がある。ときどきアパートの周囲をぶらりと散策するのだが、所々に小さな噴水が設えてあったり、よく手入れされたきれいな生垣があったりして、見る者の目を楽しませてくれる。
しかし、うっかりすると知らぬ間に個人の私有地に足を踏み入れてしまうことがあるので注意が必要である。

先日ある人から半ば冗談交じりにこんな注意を受けた。
「私有地に無断で入り込むと、撃たれることがありますから気をつけてくださいね」と。
なんとも物騒な話であるが、しかし、これが時として冗談でなくなるところがアメリカの怖いところでもある。

テキサスに来て驚いたことの一つは、病院などの公共施設の入り口に必ずといっていいほど“銃持ち込み禁止”の標示があり、場所によっては金属探知機が設置されているということだ。
テキサス州法では公共施設への銃の持ち込みは禁止されている。したがって公共施設に入場する際には金属探知機によるチェックを受けなくてはならない場合も多い。
もちろん、9・11の影響がまだ色濃く残っているせいもあろうが、
ここアメリカには、こういった日本人にはおよそ想像もつかないような影の日常が未だ存在しているのである。

1992年10月。ルイジアナ州バトンルージュでおきた日本人留学生射殺事件は、銃社会アメリカの抱える深刻な闇の一面を、はるか海の向こうに住む我々日本人に突きつける結果となった。

ハロウイーンの夜、訪問先を誤った留学中の日本人高校生がその家の住人に玄関先で射殺されるという事件が起きた。その後の陪審裁判では、加害者の家人に正当防衛が認められ、彼は無罪となるのであるが、この事件をきっかけに、被害者の高校生の両親がアメリカでの銃規制を求める署名運動を展開し、日本国内にも大きな議論を巻き起こしたことは未だ記憶に新しい。

翌1993年にアメリカでは有名なブレイディ法が成立し、未成年者や犯罪前科のある人間、精神病患者、麻薬中毒患者に対する銃の販売が禁止された。ちなみにブレイディとは81年に起きたレーガン暗殺未遂事件の際、頭部に銃弾を受け半身不随となった当時の大統領補佐官の名前である。
この法律の施行以降、銃の所持率や犯罪率はともに低下傾向となり、ブレイディ法の効果について一定の評価がなされるようになったのは事実のようだ。
しかし、残念ながらその後も99年の“コロンバイン高校事件”に代表される銃による悲劇はあとを絶たない。
そして、アメリカ政府がこの問題に対して抜本的に取り組む気配も今のところはなさそうである。

では何故アメリカ政府は銃規制にここまで消極的なのだろうか?

そもそも、アメリカ国民に銃の所持を認めているとされる合衆国憲法修正第二条には以下のように記載されている。

A well regulated Militia, being necessary to the security of a free State, the right of the people to keep and bear Arms, shall not be infringed.
(規律ある民兵は、自由な国家の安全にとって必要であり、国民が武器を所有し携帯する権利は、損なうことができない)

この条文の解釈には、“well regulated Militia”すなわち、州により組織された民兵に対して銃所持の権利を認めたものであるとする集団的権利説と、“right of the people to keep and bear Arms”すなわち人民の武装権そのものを認めたものであるとする個人的権利説の2通りがある。強力な圧力団体として知られるアメリカライフル協会(NRA)は後者の見解を取っている。

NRAの主張は「人間を殺すのは人間であって銃ではない」という彼らのスローガンの中に顕著に見て取ることが出来る。
彼らはこうも言う。
「銃が非合法化されたなら、無法者だけが銃を持つ」
「ヒトラーはまず銃の登録からはじめた」と。

ご存知の通りNRAはアメリカ国内に350万人もの会員を抱える巨大な射撃愛好者のための団体である。設立は1871年で、合衆国憲法修正第2条の擁護を活動の主な目的としている。NRAのアメリカ議会に対する強大な影響力に関しては今更多言を弄する必要もないだろう。歴代のアメリカ大統領の多くがNRA会員であったというし、それ以前にほとんどすべての大統領がNRAからの献金を受け取っている。
ただ、見落としてはならないのは、このようなNRAの考えに賛同しているのは必ずしもこの350万人の会員だけではないということである。実際にはNRAに所属していないアメリカ人の多くが、銃規制にはある程度賛同することはあっても、銃所持そのものに対する非合法化には反対している。このようにアメリカ人の銃への愛着は、ある人の表現を借りれば「日本人が「白米」を食べたがるのと同じで、理性を超えた情緒的性格」なのだそうだ。

なるほど、確かに前述の如き「銃が非合法化されたなら、無法者だけが銃を持つ」などといった文言のいくつかにはそれなりの説得力があるようにも思える。
たとえば、日本人留学生射殺事件のおきた1992年当時のバトンルージュでは、月250件以上の強盗事件が発生していた。事件直前の二日間で発生した8件の強盗事件のうち2件は犯人が家人を殺害している。あの事件はそのような状況下で起こった。
公判の具体的内容が分からないのでなんともいえないが、このような状況下において加害者側に正当防衛が認められたというのも無理からぬ話のように思われる。

では、問題の修正条項をはじめとする武装権の思想が広く受け入れられるようになっていったアメリカの歴史的な背景とは果たしてどのようなものであったのだろうか。

などと言いつつ、それについて書き出すとまたとんでもなく時間と紙数がかかりそうなので今日はこれでやめておくことにして、次回、時間と余力があれば続きを書くことにする。
ちなみに、以上はあくまで個人的な備忘録にすぎないことをお断りしておく。
 

参考文献;小熊英二 「市民と武装」
       ピートハミル 「アメリカライフル協会を撃て」
 参考WEB  http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%8A%83%E8%A6%8F%E5%88%B6 
        http://pine.zero.ad.jp/~zac81405/gun_shooting.htm
         http://www.nra.org/
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10 コメント

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気をつけます! (れもん)
2005-05-15 05:08:24
kazu-nさん

こんにちは。

1992年の事件はとてもよく覚えております。

あのとき日本で聞いたニュースを、こちらに住んでみて再び思い出すとゾッとします。

怖いですよね。ついつい忘れがちになりそうなこと、思い出させていただいてありがたいです。こちらGAでも、中心地のアトランタは犯罪王国(全米でも最悪)なので、いちお安全なところに住んでるのですが、油断せずに気をつけたいものです。

身の引き締まる記事、アップしていただいて感謝です。
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コメント有難うございます。 (kazu-n)
2005-05-15 05:44:46
れもんさん



「むむっ!この時間帯のコメントはさてはアメリカ国内か?」と思ったらやっぱりそうでしたね(笑)



アトランタはたしか全米でも犯罪発生率の高い都市ですよね。実は、僕も昨年メリーランドからテキサスに引っ越してくるときに車でGAを通ったのでアトランタのコカコーラ博物館に寄ろうかどうか迷ったんですが、以前アメリカ滞在20年というあるお方から「アトランタは地図なしで走っちゃだめ!あぶないから」と言われていたことを思い出し結局やめたという情けない思い出があります。



ちなみに、僕の住むヒューストンは全米でも安全な都市にランクインしています。僕はその中でも特に安全な地域に住んでいるのですが、それでもときどき怖いなーと思うときがありますね。



ここはアメリカなんだということを忘れないようにしないといけません。

ということで、今後ともよろしくお願いします。
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同じ時間帯! (れもん)
2005-05-15 06:11:10
kazu-nさん

同じ時間帯を共有できてうれしいです。



そうですか~。やはり・・・怖いですよねー。アトランタ。わたしもまだコカコーラ博物館には行ったことがないんです。ちなみに「風と共に去りぬ」の書かれた舞台ですし。差別的なものも、きっとたくさんあるのだろうと思います。自分が外国人意識をしっかり持ってないといけないと、改めて感じました。



その点、ヒューストンは大都市なのに「安全な都市にランクイン」だなんてー、知りませんでした。すごいですね。



こうやってアメリカ情報を発信してくださり、

わたしの方が今後ともよろしくお願いします。です!また、伺いますね。
返信する
よろしく! (kazu-n)
2005-05-15 10:57:58
たびたびありがとうございます!

そうそう、アトランタといえば「風」の舞台でしたね。大のお気に入りの映画の一つです。(原作は読んでないんですが、、



ところでれもんさんのジョージア便りもいずれ見てみたいですね。

僕のはアメリカ情報などと偉そうにいえるもんじゃないですが、まあ思ったことをあれやこれや勝手に書き込ませていただいております。



ちなみにそちらとこちらでは時差はあるのかな?
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安全の定義 (ダイアン)
2005-05-16 06:31:41
日本に居ると安全という言葉が麻痺した形で蔓延していると思うんです。「Hotel Rwanda」なんかを観るとこの「安全」という言葉の定義が変わってくると思うんです。

私がイギリスに最初に住んだときは丁度IRAがキャンペーンをしていた頃で、普通に爆弾と隣り合わせに生活していた気がします。それは後になっても、SASキャンプがある地域に住んだので、その緊張感は平和協定が結ばれたすぐ後でもありました。実際小型の爆弾が破裂したこともあるし。

「自分が安全である」という定義が私の中ですっかり変わった気がします。普通に生活していること自体が不思議なときもありました。



人は安全を作ることも壊すことも容易に出来るんだと思います。

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安全 (kazu-n)
2005-05-16 07:52:38
こんにちは。

確かに日常生活においては“日本ほど安全な国はない”と言われつづけてきましたからね。



日本人は、安全が当たり前という現在の状況に慣れっこになっているので、尚のこと「武装権」などという概念には無頓着にならざるを得なかったのでしょう。

事実この問題は、民主主義の発達とアメリカ独立戦争前後の歴史と切っても切れない関係にあるようですが、そもそも民主主義なんてものが存在しなかった日本においてこのような概念が根付く余地は端からなかったのではないでしょうか。



ところで、昨今では、民間における銃規制という問題もさることながら、ダイアンさんのおっしゃるようなテロリストによる無差別な武器の使用という問題もクローズアップされることが多くなってきましたよね。



日本には、ヨーロッパほどの血で血を洗うような民族闘争や宗教闘争の歴史もほとんどありませんから、この問題についてもまともに考えるチャンスはほとんどなかったと言っていいと思います。でもこれはある意味ではとても幸せなことだったのかもしれません。



ただ、実際にいざ海外に住むということになると、突然避けては通れない問題になりますし、これから国際化がさらに進むと日本人もこの問題についてしっかり考える必要が出てくるかもしれません。

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野蛮国アメリカ (たかし)
2006-08-13 11:52:12
世界の先進国の中で銃の野放しをしているのは米国のみ、実に野蛮な国だ、銃規制法が起こると必ずNRAこれをつぶす強力な団体なのである、銃が人を殺すのではなく人が人を殺すのだあると奇妙な詭弁を弄している、何故銃規制に反対するのか、答えは簡単自らの産業を守るため、政府も年間1000万ドルの政治献金を受けているから規制できない、この件に限らず米政府は利権政治そのものなのだ、あるテレビ局でカナダ人の男性の米国の銃規制問題にこうコメントしていた[銃を持つことで身の安全がたもたれるのなら米国は世界一安全な国であるはずだ」と。
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たかしさん (kazu-n)
2006-08-13 13:58:24
コメントありがとうございます。



アメリカ議会には多くのNRAロビイがいるでしょうから、銃規制など夢のまた夢というところでしょうか。

最近ではクリントンが銃規制に取り組む姿勢をみせましたが、最終的には潰されましたね。申し訳程度に、月に購入できる銃の丁数を、一人当たり10丁まで(正確な数字は忘れました)に制限する法律を作ったそうですが、言うまでもなく全く無意味です。



ということで、また遊びにいらしてください。
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銃規制は難しい (まっつん)
2011-05-29 10:50:41
んー、大変な問題ですよねこれ。
確かに銃規制によって銃をなくしたら多くいる
まっとうに生きている狩猟や銃が好きな人が迷惑するし、それに今現在では不法に銃を持つギャングなども多いからNRA等の言っているように「無法者だけが銃を持つ」ことだけになりかねない。
かといって合法的な銃ではまったく犯罪が起きないかといえばそうでもない。
んー、大変だ。
私個人としては登録と免許制を厳しく行えばいいと思うんですけどねー。
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まっつんさん (kazu-n)
2011-05-30 14:46:38
コメントありがとうございます。もう6年も前のエントリーになります。

最近コーエン兄弟の「トゥルー・グリッド」という映画を見ました。
アメリカの歴史が常に銃とともにあるんだなーということを実感させられる映画でした。
同様に、クリント・イーストウッドの「許されざる者」とか「ペイル・ライダー」などをみていても、アメリカ人が銃に対して持っているある種の憧憬が伝わってきます。

まっつんさんがおっしゃるように、せいぜい出来ることといえば、登録を厳しくするということになるのでしょうが、「ティーパーティー」みたいなガチガチの保守運動の高まりなどを見る限り、現在のアメリカではそれすらも難しいのではないかと思ってしまいます。
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