MY LIFE AS A DOG

ワイングラスの向こうに人生が見える

世界は分けてもわからない

2010年03月14日 20時21分27秒 | 読書
福岡伸一氏の「世界は分けてもわからない」を読む。
下手な推理小説より100倍面白い。

毎度、福岡氏の美しく叙情的な文体には終始魅了されっぱなしなのだが、今回の、この本の後半部分は、その美しい文体に加え、まるでサスペンス小説の如き異様な緊張感に満ち満ちているのである。

本の後半では1981年に科学雑誌“Cell”に掲載され世界に一大センセーションを巻き起こした、ある論文をめぐる騒動の顛末が語られているのであるが、これがめちゃめちゃスリリングで面白いのだ。

アメリカ、コーネル大学の分子生物学の当時世界的権威であった、エフレイム・ラッカーのラボにある日、新参者の大学院生、マーク・スペンサーがやってくる。そして、スペンサーはそれからわずか数ヶ月のあいだに、癌発生のメカニズムに関するとてつもなく偉大な発見を次々を行い、世界を驚嘆させたのである。
世界中の誰ひとりとして、ラッカーらのノーベル賞受賞を疑う者はいなかった。

ところが・・・。

この先は是非、実際に読んで確かめてみることをお勧めしたい。


人類はミリの世界から、ミクロの世界、ナノの世界へと探求の触手を伸ばしてきた。
その流れは細胞一つ一つの立ち居振る舞いに始まり、細胞膜内におけるシグナル伝達のメカニズム、ヒトの全ゲノム配列の決定、そしてゲノム一つ一つの発現のプロセスとそのfunctionの解明にまで至ろうとしている。

その営みはあたかも、人類の生命の有り様を10のマイナス何乗かの微小環境(局所)の総体として捉え、神の領域で生命の全貌を俯瞰しようとする傍若無人な企みに似ている。

福岡伸一は、しかし、これを嗤ってこう言う

「この世界のあらゆる要素は、互いに連関し、すべてが一対多の関係でつながりあっている。つまり世界に部分はない。部分と呼び、部分として切り出せるものもない。そこには輪郭線もボーダーも存在しない。~中略~、つまり、この世界には、ほんとうの意味で因果関係と呼ぶべきものもまた存在しない。世界は分けないことにはわからない。しかし、世界は分けても分からないのである」と。

最高に面白い一冊。是非ご一読を!
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