明海大学大学院応用言語学研究科

Meikai Graduate School of Applied Linguistics

研究紹介(早坂直記‐言語景観)

2010年03月04日 | 研究紹介
大学院生の研究テーマ紹介その2です。

今回は博士前期課程1年に在籍の早坂直記さんの研究テーマ「言語景観」についてです。
多くの人にとっては耳慣れない言葉であろう「言語景観」とは、一体どのような学問なのでしょうか。

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研究紹介「言語景観」

1.「言語景観」とはどのような学問なのでしょうか。

一言で言えば,身の回りにある言葉の研究です。「景観言語」と呼ばれたりもします。英語では,「Linguistic Landscape」と呼ばれています。
この「言語景観」ですが,身の回りの言葉の研究なので,「視覚景観」はもちろんのこと,「音声景観」も含まれています。この「音声景観」は調査が難しく,そこまで調査されていません。ですから,今回は「視覚景観」の方を中心に考えていきます。
「視覚景観」,つまりは,目に見える言葉のことです。それは,街中の看板に始まり,パンフレットやチラシ,点字などを含みます。先行研究を見ていくと,看板を取り扱ったものが多いです。日本で言語景観を研究し始めたのが正井(1969)※であり,その後様々な調査がなされています。始まってから約40年,比較的若い研究分野と言えます。
 「言語景観」を調べることで,地域や業種での文字の使われ方の差などがわかってきます。ある文字があった時に,どのような意味を持っているのか,対象者は誰なのかなど,詳しいことも見えてきます。このように,今の日本の言葉の使用状況が見えてくる訳です。そして,それは,現在,多民族社会になってきたと言われる日本で,どのような言葉を使っていけば良いか,また日本人として気を付けなければならないことは何か,ということの発見につながっていくと,私は思っています。

2.「言語景観」の調査方法
 
一般的には,看板を写真に撮るという手法が取られます。今でこそ,デジタルカメラの普及や携帯電話の機能が上がったおかげで,誰でも簡単に撮影できますが,以前はフィルムのカメラだったので,枚数を多く撮るのがとても大変だったようです。その意味で言えば,今は恵まれた環境と言えます。
 また,もう一つの手法として,ビデオカメラで撮影するという方法もあります。こちらはカメラとは異なり,連続して撮ることができるので,撮影場所が特定しやすいというメリットがあります。ただ,集計の際,一枚一枚写真のように見ることができないので,少し面倒な点があるのも事実です。
 この2つの手法を取り入れれば,場所はわかりやすく,集計もしやすい,データも2つ残る,といった問題の少ない調査方法になると思います。
また,博士前期課程2年生本間勇介さんの「グーグルストリートビュー」を使った手法も新しい方法として挙げられると思います。現地に行かず,家に居ながら,誰からの干渉もなく調査できるのは,画期的な方法です。

3. 「言語景観」の調査内容
 
看板に書かれている言葉の種類を,表記法(縦書きか横書きか)・言語種(何語なのか)・文字種(漢字・ひらがな・カタカナ・アルファベット・それ以外なのか)の点から調べていきます。また,言語外の点からも比較をします。基本的なものとして,地域・業種での比較が挙げられますが,これ以外にも,時代・地価・文字の大きさ・看板の色,で比較するなど,色々な見方ができます。

4.「言語景観」の問題点

身の回りの言葉はたくさんあるので,あるなりに問題点も出てきます。それは,対象の範囲です。先程言ったように,「身の回りにある言葉」でしたら,なんでも良い訳です。例えば,Aさんはお店の看板だけを調べよう,Bさんは案内標識だけ調べよう,などとなった場合,同じ研究分野でありながら,異なるものを対象にしているため,比較ができないのです。
また,仮にA・Bさんがお店の看板を調べることになったとしても,これまた比較することが難しくなる場合があります。それは,A・Bさんの考え方が異なってきた時にわかります。例えば,以下のような看板があったとしましょう。


             「 明海ビル5階
               韓国家庭料理・お酒
                   母の味     」

            
その場合,Aさんは,「明海ビル」も含めた文字全てを一枚の看板と見るのに対し,Bさんは,「明海ビル」はあくまでビルの名前だから,範囲に含めないとなったら,そこで結果は,ずれてきます。このようなケースはほかにもあります。外来語なのか外国語なのか(「カフェ」は,フランス語なのか,皆がわかるから日本語なのか),日本語なのか中国語なのか(「山海楼」漢字で読めるから日本語なのか,意味がわからないから中国語なのか)といった具合に,挙げればキリがありません。
このように,一人ひとりの研究対象が異なっているために,研究結果を比較することができないのが,現状です。様々な観点から見ていくことは重要ですが,追調査できる,ということも重要です。こうした現状を打破する何か画期的な研究方法を見つけることも今後の課題の1つではないか,と私は考えています。

5.まとめ
 
「言語景観」の紹介ということで,今まで述べてきました。そんなに難しく考えることはなく,気楽に考えてもらいたいです。例えば,外国に行った,もしくは外国の番組を見た時に,「この看板の日本語は間違っているよ」とか「あんなところに日本語が書いてあるよ」と思った。そう思った時点で,「言語景観」に足を踏み入れているのです。また,国内でも『VOW』を読んで思わず笑ってしまったとか,なんでこんな看板がここにあるのと疑問を抱いた,といった経験がある人もいるでしょう。そのような人も意識していないところで「言語景観」について考えているのです。誰しもが通る「言語景観」,さぁ,あなたもやってみませんか?

※ 正井泰夫(1969)「言語別・文字別にみた新宿における諸設営物の名称と看板広告」『史苑』29-2,pp.166~177

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