一般病棟での看護師の勤務体系は日勤と夜勤に別れているようだ。それ以外の勤務体系もあったのかもしれない。
朝9時に日勤の看護師がベッドサイドにやってきて、入院患者に「日勤担当の**です」と挨拶にくる。そして、夕方5時に同様「当直担当の**です」と挨拶にくる。つまり、各患者に担当看護師が設定されており、シフトが作られているようだ。私の担当と隣の入院患者の担当が必ずしも一致するわけではない。
この病棟で働いている看護師は若い女性が多い。そこでXさんだ。
看護師が来ると、Xさんは話しかける。
「看護さんの仕事は大変でしょう?!」といった感じで会話が始まる。その流れの中で「彼女は何歳なの?」と。
カーテン越しに会話は筒抜けなので、私は心の中で「セクハラじゃん」などと呟いていた。そこで看護師が「27才です」などと答えるのだ。私はズッコケていた。なんせ当たり前のように答えるというよりは、嬉しそうに答えるからだ。その後が調子いい。
「ついこの間まで付き合ってた娘が27歳だったんだよ」と。
ホントかウソかは知らないが、その娘がどんな人であったとか、ことば巧みに話すのだ。正直言うと、ウソだと思う。このような話は1人の看護師だけにするわけではない。何人にも話をするのだけれど、内容が微妙にずれていたからだ。
看護師は他の仕事もあるはずだが、会話に巻き込まれて行くというよりは、その声のトーンから喜んでいるようだった。
この流れで、「退院したらデートしようよ」とナンパをはじめるのだ。多分、7〜8人は声をかけていたと思う。いつも、妻と一緒にこの会話を聞いていたのだが、二人で目を合わせて声が出ないように笑っていた。妻は「よくやるよねえ」といいネタとして毎回毎回楽しんでいたようだ。
あるいは看護師が仕事中だというのに、「1階の喫茶店でお茶しようよ」などと声をかけるのだ。私からすれば、単なるセクハラ発言なのだが、看護師は大抵喜んでいる。流石にその場で、仕事を中断して喫茶店に行く者はいなかったが、退院したらデートすることに同意した者は2〜3人ほどいたと思う。これは話を合わせたということではなく、結構ガチな反応のように感じられた。「これじゃ、簡単に騙されるんじゃないか」と心配になるぐらいだ。
また、「近く舞台をやるのでチケットをプレゼントするので、来てよ」と業界関係者らしいナンパを見せていた。胡散臭い興行師という感じしかしないのだけれど、やっぱり喜んでいるのだ。
一番Xさんの言葉を喜んでいたのは、少し地味な感じの薬剤師さんだったように思う。薬の説明に来ただけである。退院時に私も説明を受けたが数分で済んでしまったのだが、Xさんとは30分ぐらい話し込んでいた。
「AVだと」いった話をしていたぐらいだ。流石にやばい話だと思ったのだろう、小声になって二人は話し込んでいたのだ。少し聞こえて来る感じでは猥談だったと思う。
「薬剤師、仕事中だろう」と無言でツッコミを入れていたが、当の彼女は高揚した感じであったように思う。特にデートに誘われ、チケットをもらえるなど、また業界の話なんかもあったので、興味津々だったようだ。
働いている女性にセクハラに対する意識は希薄であった。というより、女性として扱われているように感じていて、それを喜んでいたのだと思う。こういう意識の有り様がデフォルトだとすれば、残念なことである。