【22】へ
そこで、ふと沈黙が降ってきた。
「……」
わずかな間が開く。初めは手塚の喉の調子が悪いせいかと思った。
でもすぐに柴崎は悟る。
閃きよりも、もっと確信に近いもので。
多分、いま携帯の向こうで手塚は口づけを刻んでいる。
触れてもいないのに、唇を何かがかすめたような感触がして、思わず柴崎は硬直する。
頭がくらくらしてそのまま枕に倒れ込んでしまいそうだった。が、何とか持ちこたえた。
そして、
「……おやすみなさい」
柴崎も同じようにキスを返した。携帯にそっと口づける。
手塚に気持ちが届けばいいと思った。自分に伝わったように。
目には見えなくても。
「じゃあ」
「うん」
名残惜しかったが、二人は通話ボタンをオフにした。
切った途端、天地が逆になった。ぐらりと目眩がして星が散った。
でもえらく幸福な気持ちで柴崎はばたんと枕に倒れ込んだ。
きっと携帯の向こうで手塚もおんなじなんだろう。そう思うと口が笑った。
「ただいまー。買ってきたよ、って柴崎だいじょうぶ!?」
戻ってきた郁がベッドに突っ伏す柴崎を見て駆け寄る。
柴崎はぴくりとも動かない。伏せたまま、
「んー……。大丈夫じゃないかも」
弱弱しい声で返した。
「びょ、病院行く? 救急車?」
「いや。そう言う意味じゃなくね。……平気。なんでもない」
顔を上げ、ほつれ髪を掻き上げて微笑む。その仕草がとても綺麗で、郁がどきっと手を止めた。
「何かあった? 柴崎。あたしがいない間」
ぎく。
「え、何で?」
「いや。なんとなくさ、……雰囲気が、さっきとは別人ていうか」
しおらしいというか。くたりとしているというか。
柴崎ほど語彙が豊富でない郁は、はんなりとしている柴崎の今の様子を上手く伝えられない。
結局具合が悪いんだろうなという結論に落ち着かざるを得ない。
ベッドの端に腰掛け、細い背をそっとさすってやった。
「可哀相に、絶対イブの日に引いた風邪だよー。あんなに雪が降らなきゃちゃんと夜のうちに寮に帰ることができたのにね。寒い思いもしないで。ほら栄養ドリンク飲んで」
柴崎は言われたとおりにした。そしてまたベッドにもぐりこむ。
「少し眠る? 電気消そうか」
「うん……」
「あ、雪」
郁が窓の外へ目をやる。
柴崎もつられて閉じかけていた瞼を上げた。
夜が迫る薄紫の夕闇に、ちらほらと白い欠片が舞い始めた。
粉雪。
ひとひら窓に貼り付いて部屋の中の二人を窺っている。
「また降って来たね」
今夜は積もるかな。郁が呟く。
「ん……」
睡魔の手に抱かれ始めた柴崎の声は甘い。
郁がベッドの端から立ち上がった。
「カーテン閉めるね。寒いでしょ」
「……ううん、そのままで」
「え?」
窓辺に行きかけた郁が足を止めた。
まどろみかけた柴崎の声に耳を澄ます。
「雪、見てたい」
嫌いじゃないのよ、雪は……。消え入るような低い声で言った。
郁は思い直して窓の外を見やった。雪はしんしんと白く街を包み込む。
ややあって、枕元から健やかな寝息が聞こえ始める。
熱で紅潮した柴崎の寝顔は少女のようにあどけなくて、郁は口許を綻ばせた。
起きたら今よりは元気になっているといい。元気になって、少しでも食欲でたら、アイスでも食べようね。一緒に。
いつものように。コタツに入って。
郁がそっと声をかけた。
「おやすみ、柴崎」
fin.
(あとがき)
終わりました!
有難うございました!
……で括った方がいい気もするのですが。笑
それだけではこんなに、こんなに長い連載に(ううう)最後までお付き合いしてくださったみなさまのお気持ちに、全然応えられないと思うので。涙。
手柴の創作裏話などさせて頂きたく……ハイ。
蛇足になったらごめんなさい。
今回、手柴でクリスマスものをやろう! せっかくシーズンだし。滅茶苦茶幸せな感じの話にしよう! と浮かれて書きはじめて気づいたことなんですがね……。
この二人はすごいカップルなんですよっ!握拳
いやもうそんなことは先刻承知。今更、と鼻で笑われるのは覚悟の上なんですが。
改めて言わせていただきたい、これだけはなんとしても。
ほんとすごいんです。もう神がかってるとしか言いようがないです。
だってですね。皆、図書館ファンの方ならみーんな分かってるのです。この設定で二次創作開始したら。
クリスマスイブ、いくら雪崩のようにアクシンデントが発生しようとも、ロマンティックなムードが怒涛のように押し寄せようとも、ぜったい、ぜ~~~~~ったいに二人が「くっつく」はずがないと!
キスもない。うん、ないんです。
有川先生の原作「図書館革命」から「別冊Ⅱ」までの間が、「キスを3回した関係」となっている以上、関係は進展してはならない。これはガイドライン遵守の方向性をご存知なら暗黙の了解事項なのです。
……なのにですね。
この二人は、引っ張ってしまうんですよ。「じれじれ」のまま、23話も。汗
クリスマスものなのに、キスもない。
そう分かってて、ここまで牽引してしまう魔性のカップル。それが、手柴です(きっぱり)
掲示板にも書きましたが、書いていてひじょうに楽しい連載でありました。
この「クリスマス大作戦」は私の手柴妄想の集積体だからです。
考えうる限りの萌えネタをこれでもかこれでもかと詰め込んでみました。笑
指切り、銀座デート、ピアスお買い上げ、呼び捨てごっこ、お姫様奪還、雪道おんぶ、屋台で乾杯、けんか、仲直り、片手てぶくろ、突発お泊り、ドレス披露、停電、膝枕、そして携帯越しのキス……等等。
長い連載のため、書いたのに思い出せないネタもあると思います。が、考え付く限り織り込んでみたどきどきのシチュ。笑
どれもこれも全部自分が読みたいな、と思ったものばかりです。
あ、心残りがひとつだけ!
手塚の勝負スーツ、書けなかった~~~(><)
大雪設定だっただけに、初めからラフなスタイルで登場と決めてはいたものの。
ドレスアップした柴崎の隣に置いてみたかったですねえ。正装した手塚を。
いずれ、どこかでリベンジしたいと思います。
私、安達には「図書館戦争」の他にもう一つ大切にしているシリーズがあって。
「クラッシャージョウ」というスペースオペラなのですが、そっちのファンサイトに秋口から冬の頭にかけてかかりきりになっておりました(新装版刊行祭りで期間限定でオープンしたため)。
その間、こちらの手柴サイト、更新は停滞、というか完全放置状態でした。
どっちも同じだけ思い入れがあるのに、両立して運営できない自分の不器用さにへこみ、いっとき、こっちのサイトの閉鎖も考えました。
でも踏ん切りがつかなかった理由。それは、何の更新もないのにもかかわらず、毎日何百人もの方が来て下さって、過去の拙い作品たちにたくさん拍手を落としていって下さったから。それに尽きます。
期間限定サイトを閉じてまたこちらに帰って話を書き始めたとき、とても温かく迎えてくださったこと、心に沁みました。
ですので、この「クリスマス大作戦」はみなさんありがとう! の気持ちから生まれた作品です。
みなさんとともに愉しめる話になっていたら(ほんのちょっとでもいいから)、読んで下さった方が少しでも幸福な気分になってくださったら、書き手として最高に幸せです。
連載中も温かなコメント、そして拍手をたくさんありがとうございました。
感謝とともに受け止めています。
今後もたまに更新が停滞する時期があると思いますが、閉鎖はなし、のつもりで運営していきたいと思いますので、宜しければこれからもお付き合いください。
少し気が早いですが、メリークリスマス。
みなさんが大切な誰かと、手柴のようにハッピーなクリスマスを迎えることを心からお祈りしています。
(あ、風邪はだめですよ~。お気をつけ下さい・笑)
それでは長々と書いてすいませんでした。
安達でした。
もしもこの話を気に入ってくださったなら、ひと押しくださるとこの上ない喜びです。↓
web拍手を送る
ありがとうございましたm(_ _)m お休みしてもなにしても、手柴っぷりの王道を読めるのを楽しみにしています。
更新されない間はネタも尽きてしまったのだろうかと心配したんですが、そういう理由があったんですね。
安達さんの作品大好きですので、閉鎖せず、これからも落ち着いたペースで書き続けてくれるとうれしいです。
毎日温かなコメント(くすっと笑っちゃうコメントも)有難うございました! 更新の後押しでした~v
ジェットコースターみたいにどきどきして頂けたなら本望です! インターバルもらうときもあるかもしれませんが、ぼちぼち続けていきたいです。これからもよろしくお願いします。
(しかし、手柴っぷりの王道って…汗))))
>satoshiさん
そうなんですよ~。もう一つブログサイト開いてるときはお留守になります(^^;
ネタ尽きたってのもあながち外れではなく(汗) いつか尽きるんでしょうねえ。どうしよう~
大好きって言って下さって恥ずかしながら嬉しいですv 自分のペースで更新していきますv
頑張りますね。
>拍手&コメントくださった方々へ
雪国出身の方、
雪の描写が染みましたって言って下さって、嬉しかったです。
毎朝朝イチでチェックしてくださってた方、
通勤時の楽しみだと仰ってくださった方、
手柴に、図書隊のみんなに、そして私にメリークリスマスを送ってくれた方、
実はあの「安達薫」さんだったんですか、今まで全然気がつかなかったです!の方。
ビターチョコに毎回かわいらしいオーナメントが乗ってるような連載だったと言ってくださった方、
最後に突っ伏す柴崎が可愛すぎるぞの方、
今度は手塚のヤキモチが読みたいですの方、
素晴らしかった。応援してますの方、
そしてそしてリアルで「恋人未満」の気になってる彼とお出かけ予定だという方、
愛してます。応援してます。応援ありがとうです。
みなさまに最高のメリークリスマスが訪れますように。
読んでいて不意に胸が締め付けられたり、フッと暖かくなったりのが大好きで、有川先生の著書はどれも大好きです。
この作品以外のものもいくつか読ませて頂きましたが、久しぶりにそれと似た感覚を楽しむことができました。ありがとうございます。他の作品もこれから読ませて頂くつもりですが、期待でいっぱいです。
それでは、失礼致します。
ぶっとおしで読了、有難うございます。そして
お疲れ様でした(汗)
ブログ拍手にもコメント有難うございます。
真夏の猛暑日にクリスマスの話、とか、季節はずれで申し訳な異なあと思ったのですが、却って涼が取れたかもですね。。。お暑うございます。
今年の7月から読ませていただいてましたが(それでも遅い?)数少ない手柴の二次小説がこんなにあるなんて!!
・・・ってなかんじで読ませてもらってます
お恥ずかしい事に、堂郁よりも手柴が好きという私なのでこのサイトとても重宝しています
長くなりましたが、薫さん(様?)小説期待していますので頑張ってください!
手柴スキーのためのファンサイトですので、いつでもごゆるりとしていって下さると私もうれしいですv 今後ともよろしくお願いしますね。
葵さん同様、私も堂郁のベタ甘より手柴のじれったいながらもお互いを思うところにきゅん、と来てます。
図書館戦争シリーズ好きの友達と手柴ーー!
とか言ってますww
クリスマス大作戦面白かったです。
特に、ピアスのところと、麻子!光!、のところです
私も下手ながら小説を書いています。
とてもお上手ですね、、、!
すごいです。
これからもがんばってください
クリスマスシーズンになると、自分でも読み直したくなる二次創作です。(長いので読み直したことはございませんが・汗)
個人的に大切なお話を気に入ってくださってありがとうございました。