転勤(てんきん)するかもしれない――。彼からそう聞かされたとき、私はいい機会(きかい)かもしれないと思った。私たちの関係(かんけい)を見直(みなお)すには…。
彼とつき合い始めてもう五年。別に彼のこと嫌(きら)いになったわけじゃない。でも、何て言ったらいいのか――。お互(たが)いの愛情(あいじょう)が薄(うす)れてしまったのか…、恋人(こいびと)じゃなくなってしまった気がするの。このまま結婚(けっこん)しても…、私にはその先が想像(そうぞう)できない。
彼から大事(だいじ)な話があると言われたとき、私はプロポーズだと思った。だから、私は彼よりも先に切り出したの。「ねえ、私たち、しばらく距離(きょり)をおかない?」
彼はキョトンとして、私の顔を見つめたわ。私は、かまわずに続けた。
「これが、いい機会だと思うの。私たちマンネリになってるのよ。だから、ちょっと離(はな)れてみて、お互いのことじっくり考えてみない?」
「それは、つまり…」彼はかすれる声で言った。「別れたいって…」
「そうじゃないわ。そうじゃないけど…」
「ちょっと、待ってよ。俺(おれ)たちって、そういう関係じゃないよなぁ」
彼の言葉(ことば)に、私は首(くび)をひねった。それって、どういうことかな? 私たち…。
「俺さ、結婚するんだ」彼はきっぱりと言った。「今日、君(きみ)に紹介(しょうかい)しようと思って」
やだ。何よそれ。訊(き)いてないわよ、そんなこと。私の頭は、思考停止状態(しこうていしじょうたい)におちいった。
<つぶやき>思い込んでしまうと、周(まわ)りが見えなくなってしまうもの。気をつけましょう。
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