私は病院(びょういん)のベッドで目覚(めざ)めた。なぜそんなところにいるのか、私にはまったく分からなかった。先生(せんせい)がやって来て説明(せつめい)してくれた。誰(だれ)かに襲(おそ)われて、頭を殴(なぐ)られたのだと。
病室に男性がやって来た。彼は、私の夫(おっと)だと言った。でも、私は彼のことが分からない。私は結婚(けっこん)していたのか…。先生の診断(しんだん)では、私は記憶喪失(きおくそうしつ)になっていると…。
――退院(たいいん)して、私は彼と一緒(いっしょ)に家に帰った。でも、本当(ほんとう)にここが私の家なのか? 座(すわ)っていてもどうにも落ち着かない。よその家にきているみたいだ。
朝、彼が仕事(しごと)に出かけると、私はひとり家の中を歩き回った。少しでも記憶を取り戻(もど)そうと思ったのかもしれない。部屋(へや)には私の写真(しゃしん)が何枚か飾(かざ)られていた。でも、彼と一緒の写真は見当(みあ)たらない。私は、本棚(ほんだな)の本を一つずつ指(ゆび)でなぞって見ていく。その中の一冊(さつ)を手に取った。何気(なにげ)なくパラパラとページをめくる。すると、写真が一枚、床(ゆか)に落ちた。
私はそれを拾(ひろ)い上げてハッとした。そこには、私と、夫とは違(ちが)う別(べつ)の男性が写っていた。写真の中の二人は、楽しそうに抱(だ)きあっている。これは、どういうこと? 本当はこの男性が夫なのか…。それとも、私は夫とは別の男性とこういうことに――。
違(ちが)うわよ。私は、そんなこと…。きっと、結婚する前に付き合っていた人かもしれないわ。きっとそうよ。――でも、そんな写真、結婚したら処分(しょぶん)するはずだわ。私は――。
<つぶやき>これは事件(じけん)です。誰が彼女を狙(ねら)っているのか…。夫なのか、それとも別の…。
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