彼は空(うつ)ろな目をして歩いていた。生きる希望(きぼう)をなくしているのだ。仕事(しごと)もクビになり、付き合っていた彼女からは別れを宣告(せんこく)されてしまった。そして半年あまり、彼は自堕落(じだらく)な暮(く)らしから抜(ぬ)け出せなくなっていた。
そろそろ金(かね)もつきかけた頃(ころ)――。彼は道端(みちばた)に捨(す)てられていた子猫(こねこ)を見つけてしまった。拾(ひろ)うつもりはなかったのだ。でも子猫の目を見てしまって、その可愛(かわい)さに、つい…。気づけば家に連(つ)れ帰っていた。子猫は、ニャーニャーとお腹(なか)を空(す)かせて鳴(な)いている。彼は、そこで気づいたのだ。餌(えさ)を買う余裕(よゆう)もないということを…。彼は、途方(とほう)にくれてしまった。
そこへ、彼の妹(いもうと)が訪(たず)ねてきた。兄(あに)のことを心配(しんぱい)してのことだ。妹は食材(しょくざい)をかかえて部屋(へや)に入ると、子猫がいるのに驚(おどろ)いた。彼女も猫好きのようで、すぐに餌を買いに走った。
「ねぇ、お兄ちゃんに世話(せわ)とかできるの? それに、ここでペットって飼(か)っても…」
「そ、それは、ペット可(か)だから…。世話は無理(むり)だ。金ないし。お前のところで…」
「あたしのとこは、ペット飼えないよ。お兄ちゃん、仕事探(さが)したら? そしたら、この猫(こ)と暮らせるじゃない。こんなに可愛いんだよ。可哀相(かわいそう)よ」
「し、仕事は探すよ。でも、見つかるまでは…」
「分かった。あたしが餌を届(とど)けてあげる。そういえば…、伯父(おじ)さんがね、いい仕事あるんだけど…って言ってたわ。明日にでも、行ってきたら?」
<つぶやき>兄思いの妹に泣(な)けちゃいます。どこに希望が転(ころ)がってるか、分かりませんよ。
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