冬になると、会社の近くに焼き芋(いも)屋さんがやって来る。私はこの時期(じき)、いつもランチの後(あと)の焼き芋を楽しみにしていた。熱々(あつあつ)のところをほおばって、これがまた美味(おい)しいの。焼き芋はスイーツよ。誰(だれ)が何と言っても、これだけははずせないわ。
今日もまた、私は焼き芋屋さんの車を見つけて駆(か)け出した。
「おじさん、一個ちょうだい」私は声をかけた。でも、そこにいたのは…。
「あれ? 君(きみ)って、もしかして、いつも電車(でんしゃ)で一緒(いっしょ)になる――」
私はへらへらになってしまった。そこにいたのは、朝の電車で見かける人。私が素敵(すてき)だなって、ちょっと気になっていた彼だった。何で、彼がこんなところに…。
「叔父(おじ)さん、腰(こし)やっちゃってね。今日は、僕(ぼく)がピンチヒッターなんだよね」
今日は、なんてラッキーなんだろう。素敵な彼と、こんな間近でおしゃべりできるなんて。私は焼き芋を手に、夢見心地(ゆめみごこち)で会社へ戻った。
「あれ、君、焼き芋好きなんだ」嫌味(いやみ)な上司(じょうし)が私に声をかけてきた。
そこで初めて気づいたの。いつもなら近くの公園(こうえん)で食べる焼き芋を、会社まで持って来てしまったことを。それに、一番知られたくなかった上司に見つかってしまった。今日から、イモ娘(むすめ)なんて呼(よ)ばれるかもしれない。私はとっさに、近くの後輩(こうはい)へ芋を押(お)しつけて、
「買って来てあげたわよ。これからは、ちゃんと自分で買いに行ってよね」
<つぶやき>彼から受け取った焼き芋なのに、他の人にあげちゃうなんて。残念(ざんねん)ですよね。
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