朝早く、男の部屋の呼(よ)び鈴(りん)が何度も鳴(な)った。男は誰(だれ)だよと言いながら、眠(ねむ)い目をこすってドアを開ける。外に立っていたのは若(わか)い女。彼女は、笑(え)みを浮(う)かべて言った。
「やっと見つけたわ。どうして逃(に)げたのよ。あたし、待ってたんだから」
男は眠気(ねむけ)が一気(いっき)に覚(さ)めて、しどろもどろになりながら言った。「なっ、何で、どうして?」
男はすぐにドアを閉めようとするが、女はそれを阻止(そし)して部屋に乱入(らんにゅう)した。
女は男に詰(つ)め寄(よ)り、「あなたのせいで、あたし、誰も愛(あい)せなくなったのよ」
「そ、そんなこと言われても…」
「あなた、私のこと愛してるって言ったよね。一生(いっしょう)幸せにするって」
「いや、そ、それは…。覚(おぼ)えてないなぁ。たぶん、酔(よ)ってて――」
「何よそれ。あんなことまでしておきながら、そんな言い逃(のが)れができると思ってんの!」
「俺(おれ)が何したって言うんだ。君(きみ)のこと愛してるなんて、俺が言うはずないじゃないか」
「責任(せきにん)とって! あたしと結婚(けっこん)しなさい。でなきゃ、あたし…」
「それは無理(むり)だよ。だって、君は俺のタイプじゃないし」
「はぁ?!」女は男を睨(にら)みつけて、「だったら返しなさいよ。あたしの、この清(きよ)らかな…」
「待ってよ。ちょっと抱(だ)きついただけじゃないか。それだけなのに、むちゃ言うなよ」
<つぶやき>純真無垢(じゅんしんむく)な彼女にとって、これは一大事(いちだいじ)的なことだったのかもしれません。
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