みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0020「自殺志願者」

2017-04-08 20:04:53 | ブログ短編

 一人の男が公園(こうえん)のベンチに座(すわ)り、悲嘆(ひたん)に暮(く)れていた。そこへ幼(おさな)い少女が近寄って来た。
「ねえ、おじちゃん。どうしたの?」
 少女はあどけない笑顔で男の顔を覗(のぞ)き込んだ。男は少女の方を見るが、目をそらして額(ひたい)に手をあてて大きなため息をついた。
「一人にしてくれないか」男はかすれた声でつぶやくと、「おじちゃんは、これから遠(とお)いところへ行かなきゃいけないんだ」
「遠いところ?」少女は男の手を取り、「ねえ、あたしも連れてって」
 少女の小さくて温(あたた)かい手とつぶらな瞳(ひとみ)は、男の寒々(さむざむ)とした心にぬくもりを与えた。
「あたしも行きたい。だってね、遠いところにはママがいるんだよ。ママに会いたいの」
「そんなこと言っちゃいけない」男は少女を抱(だ)きしめて、「死んじゃいけないよ!」
 ――次の瞬間(しゅんかん)、「はい、終了(しゅうりょう)です」と声が聞こえてきて、ベンチや少女は跡形(あとかた)もなく消え失(う)せ、白(しろ)一色の部屋に変わった。そして、音もなく自動扉(じどうとびら)が開いた。
「今度はいけると思ったのになぁ」男は部屋から出ると受付(うけつけ)の女性に、「またダメですか?」
「そうですね。もう少し頑張(がんば)っていただかないと、自殺許可証(じさつきょかしょう)は発行(はっこう)できませんね」
「あの、また予約(よやく)をお願いします。今度こそ、頑張りますから」
「では、次は一週間後です。それまで、しっかり生きていて下さいね」
<つぶやき>生きることも大変ですが、死ぬことも大変かもしれません。生き抜いて…。
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