みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0019「大切な宝物」

2017-04-05 19:44:48 | ブログ短編

「ねえ、これはなに?」
 妻(つま)は、薄暗い藏(くら)の中から私を呼(よ)んだ。外で発掘品(はっくつひん)を整理(せいり)していた私は、懐中電灯(かいちゅうでんとう)を手に穴蔵(あなぐら)へ向かった。
 実は、崩(くず)れかけている古い藏を取り壊(こわ)すことにしたのだ。何代(なんだい)も前の先祖(せんぞ)が建てたもので、長年の風雨(ふうう)で痛(いた)みがひどくなり、この間の台風(たいふう)でとうとう壁(かべ)が崩れてしまったのだ。
 この藏にはいろんな思い出がある。子供の頃、悪(わる)さをして父親に閉じ込められたり、祖父(そふ)と一緒(いっしょ)に探検(たんけん)したこともあった。今思うと、祖父はかなりの変わり者だった。ほとんど家にはいなかったのだ。いつも旅をしていて、突然(とつぜん)帰ってくる。どんな仕事をしているのか聞いてみたことがあったが、祖父は「わしは、探検家(たんけんか)さ」と笑っていたのを覚(おぼ)えている。
「ねえ、これすごいよ」妻は私にほこりにまみれた小さな箱(はこ)を見せた。
「これは…」私には見覚(みおぼ)えがあった。祖母(そぼ)が大切(たいせつ)にしていた箱だ。でも、中に何が入っていたのか、私には記憶(きおく)がなかった。たぶん、祖母が亡(な)くなってから、父が藏にしまったのだろう。妻はそっと箱を開けてみた。私は懐中電灯で中を照(て)らす。
「うわっ!」妻は驚きの声をあげた。「すごくきれい。ねえ、見て!」
 中に入っていたのは、たくさんの絵はがきだった。昔の風景(ふうけい)や人物(じんぶつ)、花などが印刷(いんさつ)されていた。文面(ぶんめん)を見ると、祖父が祖母に宛(あ)てた手紙で、愛情(あいじょう)込めた言葉がつづられていた。
<つぶやき>大切な人に、あなたは何を残しますか? どんなものでも、それは宝物(たからもの)です。
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