死(し)を目前(もくぜん)にしたとき、人は何を思うのでしょう。走馬灯(そうまとう)のように人生(じんせい)を振(ふ)り返るのか、それとも…しょうもないことしか思い浮(う)かばないのかもしれませんね。
ここに、その場面(ばめん)に直面(ちょくめん)した人がいます。彼は自宅(じたく)のキッチンで夜食(やしょく)を食(た)べようとしていました。そこへ、どこから入って来たのか男が姿(すがた)を現(あらわ)します。彼は、その男の顔(かお)を見て、同じ会社(かいしゃ)の同僚(どうりょう)だと気(き)がつきました。男は手にナイフを持っています。そして、彼に向かって走り寄(よ)ってきました。彼にはその光景(こうけい)が、まるでスローモーションのように見えていました。
彼は思いました。<こいつ、俺(おれ)が仕事(しごと)をかすめ取(と)ったと思ってるのか? それは違(ちが)うだろ。課長(かちょう)が俺に引(ひ)きつげと言ったからで、恨(うら)むなら課長だろ>
彼には突然(とつぜん)のことで逃(に)げることも、抵抗(ていこう)することもできませんでした。男は、彼の身体(からだ)にぶつかってきました。お腹(なか)の辺(あた)りに痛(いた)みが走ります。
<俺、死ぬのか? せっかくレンジで温(あたた)めてるのに…。もう食べられないのかよ>
彼は崩(くず)れ落(お)ちました。男は彼のそばに立ちつくしていましたが、満足(まんぞく)したのか不気味(ぶきみ)な笑(え)みを浮かべて去(さ)って行きます。彼は薄(うす)れる意識(いしき)の中で、
<誰(だれ)か気づいてくれるかなぁ? もし、レンジの中でカビが生(は)えたりしたら…>
そのとき、レンジが<チン>と声(こえ)をあげました。
<つぶやき>こんな死に方はイヤですよ。せめて好(す)きな人に看取(みと)られて逝(い)きたいものです。
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