みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0996「テリトリー」

2020-12-08 17:51:18 | ブログ短編

 彼女は温(あたた)かいコーヒーの入ったマグカップを両手(りょうて)で持って、ゆっくりと口に運(はこ)んで一口飲むと、ほっと息(いき)をつく。そして、顔を緩(ゆる)ませて幸せそうな表情(ひょうじょう)を浮(う)かべた。
 僕(ぼく)にとって、これは至極(しごく)の時間だ。彼女のまったりとくつろいでいる姿(すがた)を見られるのは僕だけだ。僕は彼女の横に座って、彼女の膝(ひざ)にそっと手を置く。すると彼女は決(き)まって、僕の頭をなでてくれる。それも優(やさ)しく、愛情(あいじょう)をこめて…。それを合図(あいず)のように、僕は彼女の膝に飛び乗った。そして、彼女の顔を見上げて一声、ささやくような声で鳴(な)くのだ。
 彼女の膝の上は僕の定位置(ていいち)だった。それがずっと続くと思っていた。だが、しかし――。
 ある日、それを脅(おびや)かす存在(そんざい)が現(あらわ)れた。それは、突然(とつぜん)やって来て、僕が独占(どくせん)していたものを次々と奪(うば)っていった。そいつは我(わ)が物顔(ものがお)に部屋中を駆(か)け回り、僕のことを追(お)い回した。そして、彼女の足にまとわりつき、僕が彼女に近づくことを許(ゆる)さない。幸(さいわ)いなことに、そいつは高い所が苦手(にがて)のようだ。僕は上からそいつを睨(にら)みつけてやった。
 だが、こんな理不尽(りふじん)なことがあっていいはずはない。僕は、これでも平和主義者(へいわしゅぎしゃ)だ。戦(たたか)いを望(のぞ)んでいるわけではない。しかし、このままで終わらせるわけにはいかない。この部屋の先住者(せんじゅうしゃ)は僕の方なのだ。僕はことあるごとに、そいつに威嚇(いかく)の唸(うな)り声をあびせかけた。そして、不用意(ふようい)に近づいて来たそいつにパンチを食らわしてやった。すると彼女やって来て言うのだ。「ちょっとやめなさい。二人とも仲良(なかよ)くしなきゃダメじゃない」
<つぶやき>彼らにとってテリトリーは大切(たいせつ)なもの。時には、命(いのち)がけで守(まも)らなくては…。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 0995「しずく114~泣... | トップ | 0997「王様の錯乱」 »

コメントを投稿

ブログ短編」カテゴリの最新記事