山田君へ。突然こんな手紙を書いてしまって、ごめんなさい。
私が廊下で転んでプリントをばらまいてしまったとき、山田君は一緒に集めてくれたよね。あのとき、私、ちゃんとお礼も言えなくて。山田君は、そんなこともう忘れているかもしれないけど。私は、ずっと後悔してて。なんで、ちゃんとありがとうって言わなかったんだろう。ちゃんと言ってれば…。
私、山田君と同じクラスになったときから、山田君のことがずっと気になってて。でも、声をかけることが出来なくて。この手紙を書くのだって、ずっと迷ってて。友達に相談したらね、ちゃんと告白した方がいいって言われたの。それで、私、決めたの。
私、山田君のことが好きです。山田君は、他に好きな人がいるかもしれないけど、それでもいいの。私の片思いでもいい。こんな気持ちになったのは初めてで、自分でもどうしたらいいのか分からないんだ。今もドキドキしてる。でも、なんだか心の中がほわっとしてて、あったかいの。今まで悩んでいたことが、どっかへ行っちゃった。
あのときは助けてくれて、ほんとにありがとう。もし、私のこと好きじゃなかったら、好きになれなかったら、この手紙は捨ててください。
「ねえ、あなた。さっきから何やってるの。そんなんじゃ、ちっとも片付かないでしょ」
「ちょっとね、昔の手紙を見つけてさ」
「もう、今日中にやらないと、あさっての引っ越しに間に合わないでしょ」
「ごめん。でも、懐かしくてさ。きみ、これ覚えてる?」
男は女に色あせた手紙を手渡した。女はそれを手に取ると、「なに、これ?」
「何だよ。覚えてないの? ほら、学生のとき、きみが僕に…」
「知らないわよ。私、手紙なんか書いたことないし」
「えっ、そうだった?」
「もしかして、これラブレター?」女が手紙を読もうとしたので男は慌てて、
「駄目だって…」
男は女から手紙を取り上げようとするが、女は逃げまわりながら、
「ねえ、誰からもらったのよ。白状しなさい」
「だから、きみからだと…」男はなんとか手紙を取り戻して、「よっしゃ!」
「もう、子供なんだから」女は悔しそうに言うと、「ほんとに覚えてないの?」
「うん」男は手紙をかざして、「名前も書いてないし。ほんとにきみじゃないの?」
「私は知ーらない。ねえ、そんなことより、あなたのガラクタなんとかしてよ」
「ガラクタって。あれは、僕の大切なコレクションなの」
「そうですか。あなたが片付けないと、私、明日の不燃ゴミに出しちゃうわよ」
「やめてくれよ」男はそう言うと自分の部屋に駆け込んだ。
「まだ持ってたなんて…」女は男が置き忘れていった手紙を手に取ると、懐かしそうにつぶやいた。「でも、これは、私が預かりますからね」
<つぶやき>初恋は青春の思い出。心のどこかに隠れてて、時々現れては消えていく。
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