みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0010「仕事と恋」

2024-11-18 16:44:00 | 読切物語

「何でそんなこと言うの? 約束したじゃない! ずっと一緒にいるって」
 涼子は電話口で声を荒らげた。電話相手の彼とは、もう三年の付き合いになる。ここ数ヶ月はお互いの仕事が忙しく、なかなか逢うことが出来なかった。それに、電話も夜遅くしか出来ないので、長話をするわけにもいかなかった。涼子は淋しい思いを我慢していた。
 だから、今日はまだ早い時間なのに彼から電話がかかってきて、涼子は飛び上がらんばかりに喜んだ。それが、まさかこんな事になるなんて、夢にも思わなかった。
「どういうことよ。はっきり言ってよ」
 涼子の声は震えていた。相手の話を身動きもせずに聞いていたが、
「分かんないよ! 仕事がそんなに大切なの。……そりゃ、私だって、仕事が忙しくて、急に逢えなくなったときあったけど…」涼子の目から、一筋の涙がこぼれた。
「ねえ、どうしてもだめなの。離れたくないよ。ずっと一緒にいようよ」
 彼は涼子が泣いているのに気づいたのか、
「泣いてなんかいないわよ。楽しみにしてたんだから。それなのに…」
 彼女は、自分が無茶なことを言っているのはわかっていた。でも、許せなかった。
「……延期?! 何でよ、あなたから言いだしたのよ。それを…。簡単に言わないで!」
 涼子はしばらく、無言で彼の話を聞いていた。しかし、
「わがまま? 何それ! 私、わがままなの? 私が、この日のためにどれだけ…」
 彼の方も、声を荒げて、何かしきりにしゃべりはじめた。こうなると、お互い相手の話など耳に入らない。自分のことしか、考えられなくなっていた。とうとう彼女は、
「もういいよ! 私一人で行くから。一人で泊まって、2人分、ご馳走食べてやる!」
 彼女はそのまま電話を切ってしまった。本当に腹が立った。彼女は怒りをぶつけるように、そばにあったクッションを電話に投げつけた。
 しばらくして、気がおさまると、今度は後悔の念が嵐のように襲いかかってきた。
「ああ…、何であんなこと言っちゃたのかな。どうしよう…」彼女は電話に手を伸ばした。でも、途中で思いとどまって、「何で、私から…。悪いのは、あの人なんだから…。大丈夫よ…。向こうからきっと電話してくるはず」
 涼子は待った。五分、十分、二十分…。でも、いくら待っても電話はかかってこなかった。彼女は不安になってきた。いろいろな想像が、頭を駆けめぐる。
「もしかして、私、嫌われたの? でも、悪いのあの人よ。でも…。まさか…、他に好きな人が…。いいえ、そんなことあるわけない。でも…。違う、仕事が忙しいから会えなかったのよ。私以外の人とそんな…」
 その時、突然電話が鳴り出した。涼子は、思わず電話に飛びついた。
「はい……。なんだぁ、愛子なの…」それは、涼子の親友からの電話だった。
 久し振りに親友の声を聞いてほっとした涼子は、それから話し込んでしまった。電話を切ったときには、もう十二時を過ぎていた。
「あれ、私、何してたんだっけ…。あっ、もうこんな時間。早く寝なきゃ」
<つぶやき>仕事と恋の両立は難しい。どっちも大切ですから。明日、仲直りしましょう。
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