「彼は、篠崎勇太(しのざきゆうた)君。前の学校で、同じクラスだったの」
私は、さゆりの声なんか全く耳(みみ)に入らなかった。目の前の男子(だんし)に釘付(くぎづ)け状態(じょうたい)。ていうか、私、始めて会った人を好きになっちゃうなんて信じられなかった。でも、これって一目惚(ひとめぼ)れってやつだよね。間違(まちが)いなく、私は恋に落(お)ちていた。
「ねえ、かず。聞いてるの?」さゆりは私の肩(かた)を叩(たた)いた。
「ああ…、うん。大丈夫(だいじょうぶ)よ。もう、ほんと…」私は何を言ってるんだろう。
さゆりは彼に、「この子ね、相原一恵(あいはらかずえ)。あたしの親友(しんゆう)なの。ちょっと人見知(ひとみし)りでね」
「へえ、そうなんだ」彼は私の方を見つめて言った。「よろしくね」
彼の声。私、好き…。ダメ、ダメよ。彼に見つめられると、何だが顔が熱(あつ)くなって…。私はさゆりの後ろに隠(かく)れてしまた。彼は、じゃあなって行ってしまった。私は何をやってるんだろう。何か言えばよかったのに…。
「勇太さ、陸上(りくじょう)やってるの。足はそんなに早くないけど、一生懸命(いっしょうけんめい)ってとこがいいのよね。それに、カメラが趣味(しゅみ)で…。そうだ。今度、撮(と)ってもらおうよ」
「えっ、私は……。それより、さゆりは彼のこと…、好きとか、そういうの…」
「そんなのないわよ。ただの友だち。彼が好きなのは虫(むし)よ。虫の写真を撮ってるんだから」
「ああ、そうなんだ。私、虫って好きだよ」ほんとは苦手(にがて)なのに。私、なに言ってるの。
<つぶやき>好きな人がやってること、気になりませんか? ちょっと覗(のぞ)いてみましょう。
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