彼女は目覚(めざ)めると大きく伸(の)びをした。ベッドの中で天井(てんじょう)を見上げて、彼女はあれっと思った。いつもと違(ちが)う。それに、ベッドもふかふかだし…。彼女は横(よこ)を向いた。そこには黒(くろ)いものが…。髪(かみ)の毛(け)…? それがもそもそと動いて顔(かお)が現れた。彼女は悲鳴(ひめい)をあげた。
それに驚(おどろ)いて、男性が飛(と)び起きた。そして彼女に言った。「ど、どうしたんだよ?」
彼女は、「あたしに何をしたの。近寄(ちかよ)らないで! もう、あっちへ行ってよ!」
「おい…、なに言ってんだよ。悪(わる)い夢(ゆめ)でも見たのか?」
彼女は震(ふる)えながら、「あたし、まだ高校生(こうこうせい)なのよ。未成年(みせいねん)にこんなことして…」
「はぁ? どこがだよ。冗談(じょうだん)はやめろよなぁ。君(きみ)は、僕(ぼく)の奥(おく)さんだろ」
「あなたバカじゃない。あたしが…、結婚(けっこん)なんか…。ママ、助(たす)けて! ママ! ママ!」
彼は、何とか彼女をなだめて落(お)ち着かせると、彼女の実家(じっか)に連絡(れんらく)をした。すぐに母親(ははおや)が駆(か)けつけた。母親が彼女を抱(だ)きしめると、彼女もやっと安心(あんしん)したようだ。母親は言った。
「記憶(きおく)が戻(もど)ったのね。昔(むかし)のミキちゃんに…。ほんとによかったわ」
彼女は高校生のとき事故(じこ)にあって記憶をなくしていたそうだ。だが、記憶が戻ったと同時に、今までの十年間のことをすっかり忘(わす)れてしまった。だから、彼女の中ではまだ高校生のときのままなのだ。彼はそれを聞いて、混乱(こんらん)したように言った。
「僕のこと忘れちまったのか? 何でだよ。僕のこと思い出してくれよ。お願(ねが)いだ――」
<つぶやき>彼女は、彼と別れてしまうのか。それとも、彼と出会いからやり直すのか…。
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