神様
2012-11-03 | 本
川上弘美さんの『神様 2011』をようやく読みました。 この本には、1993年に書かれた『神様』に収録されている最初のお話である「神様」と、2011年3月末に書かれた(9月21日発売)「神様 2011」の2話が収録されています。 『神様』は川上弘美さんの、パスカル短篇文学新人賞を受賞したデビュー作で(正確には再デビューだそうです)、「神様」を含む9話の短編集(1998年中公文庫)。 主人公と不思議なだれかとの、淡々とした日常のようでよく考えてみたらそうでないような四季折々が綴られています。 やっぱり不思議な日々なのかな、なにしろ最初の一文が くまに誘われて散歩に出る。 だし。でも弘美さんの力で、そうい日常もまああるか、と思ってしまう。 |
2011年版の『神様 2011』は、『神様』で最初と最後のお話に登場するくま(名前はない)が表紙になっている小ぶりのハードカバー版。 「あのこと」の後の場合のくまとの散歩はやっぱり淡々と書かれていますが、そこかしこに「あのこと」の影響が。
弘美さんはあとがきで 2011年。わたしはあらためて、「神様2011」を書きました。原子力利用にともなう危険を警告する、という大上段にかまえた姿勢で書いたのでは、まったくありません。それよりもむしろ、日常は続いてゆく、けれどその日常は何かのことで大きく変化してしまう可能性をもつものだ、という大きな驚きの気持ちをこめて書きました。 と書いています。 そう、文字の並びという点ではほとんど変わっていないのに、元のほのぼの世界とは別の世界、ドキッとさせられる変わり様です。
でも、もしかしたらわたしたちとっては、放射性物質を気にかけながら行動するということもすでに日常になってしまっている? しまいには何も感じなくなっていきつつあるのでは?という気もします。
ウランの神様がもしこの世にいるとすれば、いったいそのことをどう感じているのか。やおよろずの神様を、矩を越えて人間が利用したときに、昔話ではいったいどういうことが起こるのか。 というくだりでは、井上陽水さんの「最後のニュース」の歌詞 原子力と水と石油達のためにわたしたちは何をしてあげられるの を思い出しました。 1989年に聴いたときには、誰もこんな「日常」が自分に訪れるとは思っていませんでしたよね。
弘美さんは 静かな怒りが、あの原発事故以来、去りません。むしろこの怒りは、最終的には自分自身に向かってくる怒りです。むろんこの怒りは、最終的には自分自身に向かってくる怒りです。今の日本をつくってきたのは、ほかならぬ自分でもあるのですから。 と書いています。 キッパリとしていてすがすがしい。
わたしのほうは震災の後、みなが訴えるいろいろな怒りに打ちのめされていました。 「福島は首都圏で使う電気を作るためにこんな目に遭った」「首都圏の帰宅困難なんてたいしたことない」「パン等を買い占めする人がいる」「給油できないし、暖房の灯油もままならないのに、都内では車が普通に走っている」「停電してない地域はずるい」「不謹慎」などなど。 わたし自身は買い物自体に行けなかったり自動車を所有していなくても、直接言われた言葉でなくても、すっかり縮こまってしまいました。 そんなわたしはいまだ、キッパリと怒ることができません。 何かに対しても、自分自身に対しても。 原発反対!自分は正しい!と一点の曇りもなく言い切ることは難しい。 リウマチャーであるわたしは食器洗い機やエスカレーターやエレベーターを使う分とか、病院のエアコンとか・・・で、他の人よりも余分に電気を使っていると思うし、医療を含めて昔の暮らしに戻ってしまったとしたら生きていけません。 わたしの場合は、このどうしたらいいのかわからないという戸惑いを抱いたまま「日常」を生きていくのかな。
さて、この『神様』を原作として2002年にNHK-FMで「FMシアター 神様」が放送されました。 谷山浩子さんが主演で、主題歌である「神様」を書き下ろしました。 もう、似合いすぎ! コタタン山のくま(『ねこの森には帰れない』の「くま紳士の身の上話」)ともイメージがダブります。
2003年のCD『宇宙の子供』に、「神様」と「花野」(Instrumental)が収録されています。
そして、今年(2012年)9月、AQ!さん(NHKのクレジットでは石井明さんになっています)による、FMシアターのために書いた劇中音楽を発想の原点としたオリジナル・ソロCD『くまのおんがく』が完成・発売されました。
などなど、長々と書いてきて、結局は自分の好きなものを並べただけじゃないか・・・という状況ですが、こうして10年の歳月を経て、好きなものが重なっていくというのも、AQ!さんの語る ちょっと不思議な暗合 かなと思う次第です。
では・・・くまの神様のお恵みがあなたの上にも降り注ぎますように。