映画『FIRST MAN』より、「Quarantine」を三毛子がカヴァーしました。
これは、元からテルミンで演奏するために書かれた曲で、オリジナルサウンドトラックでは作曲者のジャスティン・ハーウィッツ自身が演奏しています。 今後、テルミンの定番曲として知られ、愛されるようになるといいなと思います。
『FIRST MAN』は史上初めて月面を歩いた宇宙飛行士ニール・アームストロングの伝記映画ですが、華やかな英雄としてではなく、あくまでも一人の人間としてのニール・アームストロングの内面を、彼自身の視点から描いた物語となっています。 監督はデイミアン・チャゼル、音楽はジャスティン・ハーウィッツ、主演はライアン・ゴズリングという『ラ・ラ・ランド』と同じ組み合わせです。 ジャスティン・ハーウィッツはYouTubeを見て独学でテルミン練習したと聞いています。 ニール・アームストロングの孤独と重なるところがあるように思えます。 わたしも独学なので、そのへんの孤独感に少し共鳴しています。
わたしはこの映画と曲について藤野氏から知り、解説をいただきました。
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『ファーストマン』のテーマ音楽には英語で「隔離」を意味する"Quarantine"という題名が付せられている。映画をご覧になられた方は、生命の存在しえない空間に隔離されたニールの閉塞感や不安、恐怖を味わったのではないだろうか。
その演出に一役かっているのが、音楽を担当したジャスティン・ハーウィッツ Justin Hurwitz自身が演奏するテルミンのサウンドである。
テルミンは、アルフレッド・ヒッチコック Alfred Hitchcock(1899-1980)の『白い恐怖 Spellbound』(1945年 アメリカ)以来、人のナーバスな心情を表現するのに適した楽器として、アメリカ映画の劇伴にしばしば用いられてきた。
だが、テルミンは、ある種の優美さも同時に表現することが可能であり、『白い恐怖』の音楽を演奏したテルミン奏者サミュエル・ホフマンSamuel Hoffman(1903-1967)が1947年に発表したレコード"Music Out of the Moon"ではテルミンのサウンドのロマンチックな側面が強調されており、終始緊張を強いられる本作の中、唯一心が休まる妻とのダンスのシーンで、このレコードがかけられる。
先に述べたように、ハーウィッツのスコアも人の不安を表現するという点において、アメリカ映画におけるテルミンの用法を正統に受け継いでいるが、柔らかなハープの伴奏に乗って奏でられるテルミンはナーバスであると同時に、甘美で、我々一般人が「月世界」に対して持つ憧れへにリンクしているように感じられる。
すなわち、ハーウィッツはホフマンが『白い恐怖』で行なった神経症的表現と、"Music Out of the Moon"で行なったロマンチックな表現を両方取り入れることで、人類にとって極めて魅力的ではあるが実態は生から隔離された死の世界であるという月の二面性を表現したのである。
解説:藤野純也