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お酒のお供Y・・・170

2015-06-10 13:25:48 | 日記


樟脳玉




昔、火をつけて燃やしても熱くない樟脳玉が「長太郎」という名で

縁日などで売られていたころの話。

 とても女房思いの男・捻兵衛がたいせつな女房に死なれ、ふぬけのように

なって毎日、仏壇の前で念仏ばかり唱えている。

 この様子を見た八五郎が女房の幽霊になって出て、着物と金を

まきあげようという悪だくみを思いついた。

 兄貴分に相談すると、「女房恋しさのあまり捻兵衛が幽霊にかじりついて

きたらまずい。それよりも、夜中に樟脳玉に火をつけて人魂が出たと

思わせたほうがいい」というアドバイス。翌日、悔みにいけば、

捻兵衛はきっと人魂の話をする。そしたら、それは女房の気がこの世に

まだ残っているから、供養のために金と着物を寺へ納めてきてやると

もちかければ、必ず出すからそいつを山分けしようと話がまとまった。

 夜中、捻兵衛の家の屋根にこっそりあがった二人、樟脳玉に火をつけて

振り回した。これを見た捻兵衛は、もくろみどおり女房の人魂だと思いこみ、

仏壇の前に座って必死になって念仏を唱えはじめた。

 さて翌日、悔やみにかこつけて八五郎が家を訪ねると、目を真っ赤にした

捻兵衛が早速、人魂の話。内心ほくそえんだ八五郎が供養のことをもちだすと

一も二もない。

 箪笥の中にだいじにしまっておいた着物を出してきた捻兵衛、「夫婦に

なったばかりのころによく着ていたのがこれ。色白にこの柄がよく似合って」

などと、一枚一枚、思い出話をしながら涙を流す。八五郎もついつい聞きいって

しまい、うっかり金を出させるのを忘れてしまった。

 着物を手に八五郎が帰ると、兄貴分が怒るのなんの。しょうがないので

もう一度、樟脳玉でおどすことにした。

 そのまた翌日、捻兵衛の家へいき、着物だけではだめらしいので金を寺へ

納めたほうがいい、とすすめた。

 ところが、捻兵衛はじつは金はないが、かわりに女房が大切にしていた

雛人形ではどうだろうかと言いだした。かなりの名作だとのこと。とにかく

一度見てみようということになり、雛人形の入った箱を取りだしふたをあけた

とたん、捻兵衛の顔がパッと明るくなった。

「わかりました。家内が気にしているのはこの雛人形に違いありません」

びっくりした八五郎が、「どうしてそんなことが」と尋ねると、

「ええ、ふたをあけたら魂の匂いがしました」



                   立川志の輔   古典落語100席引用


ミレンとは未練と書くのか美恋と描くのかわからなくなっちゃいますな。

恋をしたなら、焼酎そら・あかねで乾杯。