紙入れ
新吉が、世話になっている旦那の女房といい仲になってしまった。
その晩も旦那の留守をいいことに家にあがりこんでいる。
小心者でビクビクしている新吉とは反対に、女房は大胆。
旦那は碁を打ちにいっているから今夜は帰ってこない、
泊まっていってもいいとしきりに粉をかける。
だんだんと新吉もその気になってきたところで、表の戸がドンドン。
意外にも早く旦那が帰ってきた。
「こっち。裏から出て」
かろうじて裏口から見つからずに逃げた新吉だったが、歩いているうちに
紙入れを忘れたことに気がついた。上等な紙入れで、買ったときに
旦那にも見てもらったから、一目で新吉の物だとわかってしまう。
おまけに中にはおかみさんからもらった恋文まで挟んである。
このまま遠くへ逃げてしまおうかと考えた新吉、ひょっとしたらおかみさんが
先に気づいて隠してくれたかもしれないと思い直し、翌朝、確かめにいくことにした。
夜が明けるのを待ちかねて旦那の家へ。
「おお、新吉か早いな。まああがれ」
おかしい、旦那は機嫌がよさそうだ。しかし、そのふりをしているのかも。
心の中であれこれ思い悩んでいるのが新吉の顔に出た。
「どうした、顔色が悪いぞ」
新吉は女のことでまずくなったので、しばらく旅に出ようと思っていると
打ち明けた。旦那は、無理もないことだと新吉をはげまし、ただし他人の
女房だけには手を出しちゃいけないと釘をさした。
「じつは、その、それなんで」
腹を決めた新吉は、自分とおかみさんのことを話すが、
旦那はよその家のことだと思って聞いている。
「向こうに知れたのか」
知れたかどうかまだわからない。しかし、家に紙入れを忘れてきたので心配している。
と、ここまで聞いた旦那、あの紙入れを忘れてきたのかと納得し、奥から出てきた女房に、
「おい、おかみさんからの手紙を入れた紙入れを忘れてきたんだとさ」
女房は平気な顔で、
「いやだよ新さん。どうせ旦那の留守に男を引きいれようというくらいの女だもの、
紙入れなんかちゃんと隠してあるさ」
旦那もまったくそのとおりという口調で、「それに主人が紙入れを見たって、
自分の女房をとられるようなやつだ。気がつくまい」
立川志の輔 古典落語100席引用
この囃しは男の立場の弱さを表しているそうで、女房のほうが偉いわけで
旦那は女房のことなんかどうでもいいような感じに読んでしまったわたしって、
冷めてますか?
冷めてても旨い焼酎そら・あかね。
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