掛け取り漫才
借金取りが大勢やってくるのに家には一文の金もない大晦日。
気が気じゃない女房をよそに亭主のほうは平気な顔。
去年は死んだふりでごまかしたから、今年は借金取りの好きなもので
うまく言いわけして追っ払ってやるとうそぶいている。
最初にやってきたのは大家。大の狂歌好きだ。
「家賃のたまっているのは承知しているが、なにしろ狂歌にこっちまって」
と、きりだす。大家も半分はたくらみだと思いつつ、根が好きなので怒るに怒れない。
とうとう春まで家賃の払いを待つという約束をさせられてしまった。
どうだいと亭主は大いばりだ。
次は魚屋の金公。こいつはなによりもケンカが好き。
亭主はいきなりケンカ腰で応対することにした。
まずは勘定を取る気かとすごむと、金公もすぐに口調が荒っぽくなる。
「こうなりゃ、金を取るまで動かねえ」とは言ったものの、集金先は他にも
たくさんあるから、いつまでも座っていられない。戻ってくるまでに金を用意しておけと
言い残して出ていこうとした。 これが亭主の思うつぼ。
「動かないと言ったくせに、出ていくとはどういうわけだ。金は取ったということか」と
たきつけた。払わないのに、取るわけがないから金公は、カッときた。
「それならなぜ動く、取っていないなら動くな」
と亭主はさらにつめよる。やけになった金公は、ついに「それなら、取ったことにしてやる」と
タンカをきり、もらってもいない勘定の受け取りを置いていった。勘定を待ってもらうどころか、
踏み倒してしまう口の冴え。
続いてやってきた浄瑠璃の好きな大阪屋の主人は義太夫で喜ばせて帰し、
芝居好きの酒屋の番頭には芝居がかり。この男は自分から風呂敷を肩にひっかけて
芝居の形で入ってくるほどの調子者。かなり与しやすい。大ぎょうな台詞回しで、
勘定の延期を頼み、「まずそれまでは、お掛け取りさま。来春、お目に」とやったら、
「あ、かかりやしょう」と帰っていった。最後にきたのは三河漫才に入れこんでいる
三河屋の主人。当然、やたら軽い調子の漫才で応対に出たら、すぐにのってしまう。
「待っちゃろか、待っちゃろか。ずっといって一年か」
「なぁかなか。そんなことではできません」
期間は五年、五十年、九十年とどんどん延びる。あきれた三河屋が真顔になると、
「百万年も過ぎてのち、ああら払います」
立川志の輔 古典落語100席引用
笑い話は楽しいな。刺し身も肉もおいしいな。
今日は
あかねが飲みたいな、なんて思いませんか?