風呂敷
兄貴分として世話好きで通っている男のところへ、近所の女房が駆けこんできた。
「大変なことになってしまって」
寄り合いで亭主が遅くなるというので、湯へいってのんびり茶を飲んでいると、
近くの新さんがやってきた。お茶でもと家へあげ、話をしていたら、遅くなるはずの
亭主が酔っ払って帰ってきてしまった。
「うちの亭主はものすごい焼き餅だから」
とにかく新さんをあわてて押入れに隠したのだという。
すぐに寝ると思ったが、今日にかぎって酔っているくせに、
亭主はなかなか寝ない。寝ないばかりか新さんを隠した押入れの前に、
どっかと座ってしまった。そこで、なんとかうまくごまかしてもらえないか
というのが女房の頼みだ。
「しょうがねえな」
話を聞いた兄貴分は、ひとしきりその女房にちょっとピントのずれた
説教をしたあと、頼みを聞き入れ、女房を先に帰らせて自分は大きな
風呂敷を持って出かけた。
家をのぞくと、亭主がプンプンしながらあぐらをかいている。
「どうしたい」
亭主は、せっかく早く帰ってきたのに、女房のやつがうれしそうな顔もせず、
やたら寝かせようとばかりする。どういう了見だと文句たらたら。ひとくさり
不平を言ってから、ようやく兄貴分の用件を尋ねた。
「今時分、何か用かい」
そこで兄貴分は、近所のごたごたを治めてきたついでにちょっと寄ったんだと
話しだした。女房が間男を引きいれているところへ、その家の亭主が帰ってきた、
それで俺が頼まれてさ。自分のことだとは知らず、亭主は思わず身を乗りだして
聞きいる。
「兄貴はどうやってかたをつけたんで」
兄貴分は用意した風呂敷を取りだし、亭主の頭からかぶせた。
「この風呂敷を持ってよ。その野郎にこういうふうに」
前が見えないように風呂敷を押さえ、
「見えねえだろう。で、押入れをあけたんだ」
亭主は風呂敷の中でうんうんとうなずいている。女房がそっと押入れをあけ、
新さんを外へ出す。
「忘れもんすんなよ。ゲタも間違えちゃいけないよってね」
新さんが表へ出たのを確かめてから、風呂敷をとり、
「で、パッと風呂敷をね」
亭主はすっかり感心し、「そうかあ。そりゃうまいくふうだ」
立川志の輔 古典落語100席引用
昔の人でも浮気という風習はあったのか?なぁ。
おとめごころとなんとやら、女の心は猫の目、測り難きは人心、
分からぬは夏の日和と人心のごく、何時代からある語句なのやら。
飲めば無くなる焼酎、そら・あかね。