〘 …テレビ受像機を買うか
周知のことだが若者たちはテレビ放送をほとんど、あるいはまったく見ていない。Twitter、LINE、Facebook、Instagram、TikTokの閲覧や投稿にかなりの時間を費やしていて忙しい。見るものもYouTube、Netflix、アマゾン・プライム、U-NEXT、ディズニー・プラスなど動画配信だ。これではNHKはもとより民放の放送番組の入り込む余地はない。
これまでテレビ放送の長時間視聴者といえば私のような60代以上の老人だった。しかし、私もSNSの閲覧や投稿に忙しく、暇なときに見るものも、YouTubeやNetflixなどでテレビ放送ではない。
動画配信になれてしまったので、好きな時間に、好きなだけ見ることができ、好きなところで中断し、再開し、巻き戻し、早送り自由でなければ、不便を感じて仕方ない。
こう感じてテレビ放送視聴をやめているのは私だけではないだろう。
とすれば、この先、誰がわざわざNHKに受信料を払うためにテレビ受像機を買うだろうか。老年層もプロジェクターやモニターにファイヤースティックで、動画配信を見ることを選ぶだろう。もう受信料もNHKも終わりだ。
日本版Netflix
NHKはNHKプラスという動画配信サービスを始めた。現在200万人が登録しているという。イギリスのBBCはすでにiPlayerという同様のサービスを始めている。はじめこそ登録者数を増やしたが、最近は頭打ちになっている。
当然である。放送なら限られた 公共の電波の既得権益 に守られ、あまりライヴァルもいないが、動画配信サービスは前述の巨人たちが熾烈な競争を繰り広げている。そこではBBCといえども弱小事業体だ。それでもそこへ出ていかなければ 座して死を待つ のみ。ヨーロッパ各国の公共放送もBBCの後を追っている。
NHKを含め日本の放送チャンネルも不可避的に通信に移行していかなければならない。全チャンネルが一緒になって日本版Netflixのようなものを作り、そこに優れたコンテンツを投入していかない限り、他国の動画配信サービスに伍して視聴者をひきつけることはできない。
NHKを解体し、日本の放送業界を「通信の時代」にも生き残れるように再編成しなければならない。受信料を払うとすれば、あるいは国費を投入するとすれば、この日本版Netflixに対してだ。
これまで日本のコンテンツ産業はテレビ放送産業に搾取されてきた。安く買いたたかれ、高視聴率を上げても何のボーナスもなかった。広告収入の慢性的減少 によって、コンテンツ産業はテレビ放送産業によって制作費を抑えられ青息吐息になっている。動画配信ならば、ヒットを出せば次回作からは好条件で契約でき、収入の面で見かえりがある。そこに制作奨励金のようなものを出せばコンテンツ産業の強靭化になる。
「鬼滅の刃」の大ヒットで見えにくくなっているが、実は世界に誇る日本のアニメーション産業でも中国による「静かなる侵略」が進行している。手遅れにならないうちに根本的対策を打つ必要がある。
新政権も、是非、この観点は忘れないでもらいたい。
有馬哲夫(ありまてつお)
早稲田大学教授。1953年生まれ。早稲田大学卒。東北大学大学院文学研究科博士課程単位取得。メリーランド大学、オックスフォード大学などで客員教授を歴任。著書に『原発・正力・CIA』『歴史問題の正解』など。
「週刊新潮」2021年12月2日号 掲載 〙
〘 …ドン・キホーテは「YouTubeやNetflix、Amazonプライムビデオなど動画配信サービスの充実で日常的に動画を視聴する人が増えた」と指摘。動画視聴に特化し「あえてテレビチューナーを外したスマートテレビを作った」と説明している。〙
〘 …テレビチューナーが搭載されていないテレビって、もはや液晶ディスプレイなんじゃ…。まあ、そうなんですけど。Android TVが搭載されているので、YouTubeやNetflix、Amazonプライムビデオなどの、動画配信サービスに特化したテレビなんです。…
…チューナーがないのでその分お値段はお安い。24型が2万1780円、42型が3万2780円。解像度はフルHDです。… 〙
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