人生の大半をサッカーにささげた人がどのような話をされるのかということだけでなく、もちろん色々な裏話も期待していました。
1時間ほどの講演でしたが、正直かなり中身が濃く、仕事に通じるお話もたくさん盛り込まれていて楽しめました。
メモを取っておかなかったのが残念ですが、記憶に残っている限りで書き留めて行こうと思います。
なお、記憶で書き留めていますので、山本氏が話したことを必ずしも100%の内容で書けていない事、一部には私自身が既知のことで加筆している点も多々あることを、あらかじめご容赦ください。
前半は日本代表のエピソードと山本氏の考えから。
●最後まで努力し続ける選手がすごい選手である
2010年ワールドカップ、決勝点はイニエスタでしたが、得点が入ったのは延長後半の残り2分というところでした。
そして今年1月のアジアカップ、決勝で日本が奪った1点も延長戦の長友のセンタリングから李のボレーでした。
李の出場は延長ですからフレッシュな状態ですが、長友は既に前後半の90分を走り、延長も走り続けています。サッカー選手の90分の走破距離は11kmだそうで、延長を含めると14??5kmになるそうです。しかも、ダッシュの繰り返し、考えながら、ドリブルしながら、敵と競い合いながら走るわけで、その疲労度は距離の単純換算ではありません。長友はそのような中で、タフなオーストラリア選手と競い続けながら、正確なセンタリングで決勝点をアシストしました。
イニエスタや長友のすごいところは、決勝点を決めたシュートやセンタリングの技術ではなく、延長戦まで戦った中で、通してその能力を発揮できることだと山本氏は言います。しかも、苦しい状態の中でもあきらめない気持ちを120分間持ち続けていることだと。
そして、アジアカップ決勝の2日後、長友のインテル移籍が発表されました。世界一のクラブに日本の選手の実力が認められた歴史的瞬間でしたが、あの120分通してパフォーマンスを発揮したフィジカルだけでなく、最後まであきらめない姿勢が世界一のチームに認められたものだと山本氏は話していました。
●中村俊輔も本田も長友も努力の天才だった。
サッカー好きならご存知かと思いますが、中村俊輔や本田がそれぞれ横浜MユースやG大阪ユースに上がれなかったという事実があります。しかし本人たちはそれに腐らずに高校サッカー部に進んで実績を残し、力を伸ばして現在のポジションにあります。
長友が5年前に明大サッカー部の応援席で太鼓を叩いていたというエピソードも昨年ワールドカップ以降有名になりました。
山本氏曰く、彼らは「努力をすることの天才」だそうで、努力することに労を惜しまず、常に先を見続けているからこそ、中途のプロセスで他人に劣ることがあっても追い抜いたのだと。
ゴールを高く持つこととそのために努力し続けることが大事で、きつい練習をすることで音を上げたり、そのポジションに満足して努力することをゆるめたために消えてしまった選手をたくさん見てきたそうで、山本氏はそのような努力をしない選手はそのときに一番上手くても信用しないとのことです。
●中田英は15歳からイタリア語を勉強していた
各年代代表にすべて名を連ねてきた中田英ですが、中田もU-17ではNo1エースではありませんでした。当時のエースは財前でしたね。やはり、長期的なビジョンでゴールを高く定めていた例ですが、U-17の合宿の合間にイタリア語の勉強をしていたそうです。将来セリエAに行くことを明確なビジョンとして持っていたとのこと。
●メンタリティーが大事
2002年ワールドカップのエピソードですが、最終選考で欧州合宿に参加していなかったゴン中山と秋田が登録メンバーに選ばれたことはご存知かと思います。
ラモス氏が「ベテランを加えろ」と発言したらそうなったとか色々噂がありますが、トルシエはU-20準優勝や、シドニー五輪ベスト8で結果を出し、柳沢・稲本・明神・戸田・宮本・中田浩・松田らを、世界を経験させ、着実に成長させて取り込みチームを作りました。1998年からの選手で主力で残ったのは中田英とGKの川口・楢崎くらいで、小野もいましたが1998年は10分程度の出場でしたから、トルシエの下で成長したと行ってもいいでしょう。
しかし、ベテラン選手のいないチームはワールドカップのようなプレッシャーが比類ない大会の時にはもろいものです。山本氏を始めスタッフはメンタリティーの高いベテランの存在が必要というのはやはり考えていたそうで、欧州合宿中から山本氏がゴン中山に連絡を取ったそうです。
すると、
中山「山本さん、電話待っていましたよ。」
山本氏「(本当かよ・・・)調子はどうだ?」
中山「絶好調ですよ!!」
とまあ、ゴン節が炸裂したのは想像に難くないですが、山本氏は「お前の力を借りるかもしれない」と前置きし、欧州合宿中にに開催されていたナビスコカップでゴン中山に点を取り捲れとお願いしたそうです。代表に呼び戻される理由付けも必要ですからね。同じように秋田にも連絡し、2人が最終メンバーに選ばれました。
本大会では、初戦のベルギー戦では先制点を奪われ、どきどきする試合展開でしたが、小野がロビングでDF裏に出したボールに、鈴木がDF2人をかき分けてトゥキックでつついたボールがGK脇を抜けて同点ゴールになりました。
祝福する選手を振り払って鈴木が向かったのはベンチで、ベンチで真っ先に出迎えたのはゴン中山だったそう。同じポジションでライバルであるはずの鈴木を抱擁して自分のこと以上に喜ぶゴン中山。
そしてその後、中盤で稲本が奪ったボールをワンタッチでつないでDFを交わし、左足で豪快に決めた逆転ゴール。やはりベンチに走り寄る稲本を真っ先に迎えたのは秋田だったそうです。
へー、と思いながらその瞬間がビデオで流されましたが、確かにその通り、ゴン中山や秋田が真っ先に得点を決めた選手を迎えていました。
話はこれで終わりではなくて、試合に出場しなかった選手のコンディション維持のために翌日大学生との練習試合があったそうです。勝って当たり前の試合ですが、ワールドカップの試合に出れなかった若い選手の中にはモチベーションが下がり始めた人もいたそうです。
そこで一喝したのはゴン中山と秋田。
「気を抜くな!この試合が俺たちのワールドカップだ!」
そして、その次のロシア戦で、1点リードで迎えた終盤に投入されたのは中山でした。
ご存知の通り最後まで集中力を切らさない日本代表が、ワールドカップ初勝利を手にしたわけですが、そのグランドにはゴン中山の姿がありました。ワールドカップ初ゴールにワールドカップ初勝利。何か持っているのかもしれませんが、やはりそこには類まれなメンタリティーがあったからなのでしょう。
多少話は大げさですが、山本氏はゴン中山などはテクニックは最低レベルと言い切っていました。もっと上手い選手はいくらでもいると。しかし、技術・体力・戦術理解がどんなに高くても、最後まで努力しなかったりメンタリティーが低い選手は、力を出し切れずに終わることが大半なのだそうです。
これも山本氏のこぼれ話ですが、Jリーグの得点王は、1993年ディアス、94年オッツエに始まり、95年にようやく福田、96年にカズが獲得して日本人も名を連ねるようになりましたが、その後15年の日本人得点王はジュビロからしか出ていません。98年と2000年のゴン中山、02年高原、09年・10年の前田。
ジュビロってFWが育つチームなんですね。山本氏曰くですが、ジュビロは外国人で2トップを組むようなチーム作りは絶対にしないそうです。確かにスキラッチやグラウが得点王争いに絡んだときはありましたが、2トップは中山や高原など日本人選手が組んでいました。
対象的に外国人FWの依存度が高いのがG大阪ですね。外国人得点王輩出は97年エムボマ、05年アラウージョ、06年マグノアスベス、得点ランク2位にも02年マグロン、07年バレー。浦和も04年エメルソン、06年ワシントン。
ただ、G大阪や浦和のように中盤やDF陣などに日本代表クラスを揃え、チャンスメークをする人たちがいる中で、決定力を外国人に頼るのはあたりまえでもあります。ただし、外国人は高いお金で他に買われてすぐいなくなるので、長期的には貢献してくれないのですけどね。
おっと、話がそれました。
山本氏の話は、この後サッカーのチーム作りと組織論の共通点や、選手のモチベーションアップの秘訣を裏話を交えながらしてくれたのですが、長くなったのでま今度にします。
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