星月夜に逢えたら

[hoshizukiyo ni aetara] 古都散策や仏像、文楽、DEAN FUJIOKAさんのことなどを・・・。 

キャバレー  観劇メモ

2007-11-13 | 観劇メモ(演劇・ダンス系)

公演名     キャバレー
劇場     大阪厚生年金会館大ホール
観劇日    2007年11月4日(日)
上演時間   12:00開演
座席     1階 T列

ミュージカルは全然ダメな私でもなぜかライザ・ミネリが歌う「キャバレー」だ
けは耳にこびりついている。声量のある力強い声と明るい曲感。
今回は松尾スズキ演出の舞台だから観に行った。歌については何も言えなくても、
もしかしたら何か感じ取れるものがあるかも、と。
舞台の上で猫顔の男が客を出迎え語りかけてくれた瞬間から私は、キットカット
クラブという「劇場」に通うなじみ客の気分になった。


<キャスト、スタッフ>
松雪泰子:サリー・ボウルズ  阿部サダヲ:MC(司会者)
森山未來:クリフ(アメリカ人作家)  小松和重:シュルツ(ユダヤ人果実商)
秋山菜津子:ミス・シュナイダー(下宿屋の女主人)
村杉蝉之介:エルンスト(ナチス党員)  
平岩紙:ミス・コスト(若き娼婦)

ジョー・マステロフ:台本  ジョン・カンダー:作曲  フレッド・エプ:作詞
目黒条:翻訳   松尾スズキ:日本語台本・演出


<あらすじ>
ナチス台頭前夜のベルリン。キャバレー「キット・カット・クラブ」では夜ごと
退廃的なショーと、刹那的な恋の駆け引きが繰り広げられている。
妖しい魅力でお客を惹きつけるMC(司会者)、そしてショーの花形は歌姫サリー・
ボウルズ。ここは、日ごろの憂さを忘れられるバラ色の場所。
大晦日の晩、駆け出しのアメリカ人作家クリフがベルリンに下り立つ。列車で知
り合ったドイツ人のエルンストの紹介で、クルフはミス・シュナイダーが営む下
宿屋に部屋を借りる。さらにエルンストの案内で訪れたキャバレー「キット・カッ
ト・クラブ」でクリフは店の歌姫サリーとたちまち恋に落ち一緒に暮らし始める。
下宿の女主人シュナイダーは、長年女一人で生きてきたが、心優しいユダヤ人の
果物商シュルツと結婚することを決意する。だが、迫りくるナチスの脅威はシュ
ルツを追いつめ、結婚を断念せざるをえなくなる。希望に溢れていたサリーとク
リフにもナチズムの足音は高く聞こえ始め、ついに「キット・カット・クラブ」
にも忍び寄る・・・。
(↑パンフレットのあらすじを元にしました。)

<キラキラスウィート♪ 後味ビター>
ナチス台頭の頃のベルリンや、ナチス占領下のヨーロッパの町を扱った映画は今
までにもいろいろ見てきた。この作品もそんな一つに入るようだ。
「ここにはきれいで楽しい人生しかありません」とMCが甘い言葉で囁くクラブ
で、全員が一斉に鈎十字の旗を振るのはぞっとするほど象徴的なシーンだった。
従属か抵抗か、逃避か。
思想的に統制された社会で生きていくには、誰もが3つの選択肢のどれかを選ぶ
しかない。なんとなく生きるわけにはいかないのがツライところ。
サリーとクリフ、シュルツ氏とミス・シュナイダー。この舞台では2組のカップ
ルが出逢い、4人がそれぞれの選択をするまでのかなりビターなお話が柱として
描かれている。

とはいっても、松尾版キャバレーが別段政治色の強い作品だったわけではない。
それどころか派手なオーケストラやセクシーなシンガーズ&ダンサーズほか、
キャバレーらしいショーアップされた演出がふんだんに散りばめられ、そのうえ
歌詞も台詞も松尾版オリジナルと思われる言葉が随所に織り込まれていて、それ
だけでも十分楽しめた。
もしもただ翻訳しただけのショーだったら私はきっと取り残されていたはず。
途中ツッコミを入れたり、クスクス笑ったり、大笑いしながらついていけたのは
松尾スズキという人のセンスが反映されたミュージカルだったから。

ここから先はかなり個人的な感想になってしまうのだけれど。
天井のミラーボールがくるくる回り始め、舞台と客席の境界がなくなった時、光
の玉を見上げながら気持ちイイなあと思った。
そう感じた時点で問題はナチスではなく、自分の生き方の問題に置き換えられ、
舞台はベルリンではなく、いきなり劇場のある大阪になってしまった。
そんな私にサリー・ボウルズの言葉が突き刺さる。
「アナタが生きている現実とアタシが生きている現実は違うのよ」。
恋人にそう言い放つサリーはアメリカへの逃避ではなく、ナチスの息のかかった
クラブで歌い続ける事を選ぶ。
自分が生きてゆくと覚悟を決めたらその場所が現実。私にはここしかない! と
宣言するサリーの姿はまさに「風と共に去りぬ」のスカーレット・オハラそのも
の。たとえ生き残る手段としての従属ではあっても、現実を直視し、たくましく
生きようとする人は清々しくて美しいと思った。「キャバレー」を歌うライザ・
ミネリの声が力強いと感じた理由はそれだったのか。
と同時に、劇場でミラーボールに照らされ夢を見ている自分と、劇場を一歩出た
ら突きつけられるものが待っている自分。私にとってはどっちが現実なんだろう。
自分はどっちに生きているんだろう・・・などとフト考えてしまったのだった。
猫顔のMCは「悩み事や嫌な事はドアの外に置いてきてちょうだい」と言った。
いったん脱いだ現実は、劇場を出たら再び着用しなければ。
サリーの言葉は、もう一つの現実を直視する勇気を思い出させ、いつも結論を先
伸ばしにしてしまう自分をあらためて見直す機会にもなったようだ。
そんなワケで、飲み口は甘いと思った松尾版ミュージカル「キャバレー」、私に
は凄~く凄~くビターな後味となって残った。

パンフレットをみると、俵万智さんが「私にとっては劇場のほうが現実だった」
と、松尾さんとの対談の中で話されているのを見つけてビックリ!。そういう思
いは観客として共通のものなんだとわかってちょっと安心もした(笑)。

<おもなキャスト>
●阿部サダヲさん
猫ヒゲがよく似合っていた。キャバレーのMCだけど自分でも歌を歌ってしまう。
サダヲちゃんの歌い方、好きだな。マネーの歌の時、左右に垂らした両手の指を
1本ずつ、紙幣を数えるように細かく動かしているのが凄くカワイかったー!!
「ここにはきれいな人生しかありません。きれいな人しかいません。僕を含めて」
という語りが印象的で、何回か客席に下りてきては客に話しかけ笑いを取っていた。
巨大猫は面白かったけれど、歌詞がユダヤ人ブラックジョークだったとは。
●松雪泰子さん
クラブの歌姫役だが、歌い上げるというよりも甘いキュートな歌い方のほうが耳
に残っている。ナチス色が濃厚になってしまったクラブを捨て二人でアメリカに
逃げようと言う恋人に対して、自分はベルリンに留まることを決意する。その時
の辛さを乗り越えて言い放つ台詞が、凛として響き渡るようだった。
この人、一人で生きていきますタイプの役が似合う女優さんになったよね。
●森山未来さん
若く知的で好奇心旺盛な作家役をうまく演じていたと思う。ナチスがはびこる様
子に危機感を募らせ、良識ある国際人としてベルリンから逃避することを選択す
るが、恋人のサリーには異邦人の責任のない発想にしか映らないところが切ない。
さすがダンサーだなと思うのは、姿勢がよく、身のこなしが軽くて動作がきれい
なこと。高さも距離もあるダイナミックな跳び蹴りが決まってお見事!
●秋山奈津子さん
今回のミス・シュナイダーはあの「キレイ」のお嬢様のその後とか・・ナットク。
ユダヤ人シュルツ氏との結婚を決めた後にキットカットクラブでナチスの勢いを
目の当たりにし、背を向けてうなだれていた姿が印象的。
かと思えば、松尾テイストの面白さをちゃんと汲んでいるところはさすが。袋の
中からパイナップルを取り出す演出はおそらく松尾さんの確信犯に違いない。
「朧の森~」で涙を見せた人が「パイナポー♪」と歌い出すのにはめちゃ大ウケ!
●小松和重さん
長塚、G2、野田に続いて今度は松尾演出でも拝見。今回も強い個性たちの中で
小松さんらしい優しげなキャラのユダヤ人シュルツ役にホッとする。根っからド
イツ人の自分にはナチスは無縁であると信じるお人好しな台詞が痛かった。シュ
ルツとシュナイダー、二人が若ければ海外逃亡という選択肢もあったのにね。
秋山さんとのデュエットも新鮮で、どこか可愛らしい老カップルだった。
●村杉蝉之介さん
横顔に特徴のあるこの人。どこからどう見ても私はドイツ人でしょう、という本
人の台詞に笑った。突然窓からクリフに会いに来たりするのは、神出鬼没で不気
味なナチス党員のイメージを表現していたのかな。
●平岩紙さん
ミス・シュナイダーの下宿屋で商売をしている若き娼婦、ミス・コスト役を色っ
ぽく可愛らしく演じていた。客である水兵がいっぱい出入りするため、他人には
ちゃっかり弟です、と言ったりするのが可笑しかった。

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4 コメント

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パンフレットに?! (かずりん)
2007-11-15 20:44:53
>今回のミス・シュナイダーはあの「キレイ」のお嬢様の晩年とか・・・ナットク。
↑・・・これはパンフレットに書いてあったのですか?
今回パンフ買わなかったのですよ~~(涙)
買っときゃよかったかしら?
近所の観劇仲間が、きっと買っと~~・・と思って
いたのですが、きっちり買ってなかった(涙)
『キレイ』の秋山さんもかなりインパクトあったけど、
今回もやられました!むしろツナよりも・・・♪
凄い女優さんです・・・。
返信する
ミス・シュナイダー (ムンパリ)
2007-11-16 18:48:08
かずりんさん、秋山さんはほんとに素晴らしかった~!!
「キレイ」のお嬢様とミス・シュナイダーは名前も違うし、もちろん同一人物じゃないで~す。
パンフレットに書いてあったんですが、ミス・シュナイダーは映画ではほとんど描かれてなくて、秋山さんがどう演じたらいいか考えてたところ、松尾さんから「キレイのカスミお嬢様のその後みたいな」と言われたそう。それがヒントになったんですって。カワイく歳をとった感じがよかったよね!
家賃を下げたら収入は半分、でもこのままだったらゼロ、どっちがいいか真剣に悩んでるシュナイダーさん、好きでしたよ。

「晩年」という表現はよくないので「その後」に訂正しておきました。気づかせてくれてどうもありがとう!!
返信する
やはり・・・ ()
2007-11-18 01:16:42
秋山姐さん、良かったよねー!
私も「パイナポー♪」には大爆笑でした。
>松尾さんの確信犯に違いない。
えぇ。私も、そう感じました。(笑)
ツナだったら、パイナップルを握り締め、泣き崩れてただろうね。(笑)

この作品自体の感想が、
「キラキラスウィート♪ 後味ビター」っていうのに1票!
まったくその通りでした。
返信する
一票をお預かりしました(笑) (ムンパリ)
2007-11-19 18:47:09
麗さん、どうも。
清き一票をありがとうございます。麗さんも後味ビターでしたか? 松尾テイストのキャバレー、私はよかったですよ~。台詞も歌詞も面白かったし。
秋山さんはどんな作品に出てもすんなりその世界に溶け込んでしまいますねえ。うまいわあ~。パンフレットにあった野田さんのコメントもムフフでした(笑)。

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