~ 帰ろう... 帰ろう... 妙国寺へ帰ろう ~
『蘭丸蘇鉄之怪ヲ見ル図』
(らんまる そてつの あやかしをみるず)
大蘇芳年筆
森蘭丸(もり らんまる)は安土桃山時代の武将
織田信長に小姓として仕える
ある夜更け信長は庭の方から「妙国寺へ帰ろう。」と声がするのを聴いた。
原因を突き止めてこいと命じられた蘭丸が、灯りを手に深夜の庭に立ってみれば
遠い地鳴りのように「帰ろう... 帰ろう... 」とやっぱり聞える
声を頼りに正体を突き止めると、犯人は蘇鉄だった。
しかし秋の虫が鳴きはじめれば聞き漏らしそうな声でもあり
これが天主上層の信長の耳にまで届いたのだから
きっと城ごと念によって揺さぶっているのである。
この城では安息できないとでも云うのか。
少年とはいえ信長の信任を得てきたほどで、蘭丸の肝は据わっている
魔物と見れば斬り捨てんとばかり、臆することなく大蘇鉄に近付いて
左手に持つ灯りを寄せた。すると蘇鉄は黙った。
遠ざかってみると、また呻き声が聞えはじめた。
その後、蘇鉄は元にあった妙国寺に戻された。