12.友との別れ
ある日、チャックは激しい嵐に遭遇します。
前進するための希望の帆が強風に飛ばされてしまいました。
チャック:「なぜだ!」
チャックはウィルソンを抱きかかえ、嵐が過ぎ去るのを我慢強く待ちます。
ある日、海上での生活でチャックが就寝しています。
いかだの船首にくくりつけられていたウィルソンはロープからはずれて、海に流されていきます。
チャック:
「ウィルソンは?」
「ウィルソンはどこだ?」
「ウィルソン!」
「ウィルソン!」
気がついたチャックは、流されるウィルソンの方に向かって泳いで捕まえに行きます。
いかだに繋がれた命綱のロープを伸ばしながらウィルソンを追いかけます。
チャック:「ウィルソン、助けに行くよ!」
しかし無常にもロープの長さはウィルソンの所まで届きませんでした。
波にさらわれ遠い彼方に流されていく友人。
チャックにはどうしようもありませんでした。
チャック:
「許してくれ!」
「許してくれ、ウィルソン」
「許してくれ、ウィルソン」
「許してくれ!」
「ウィルソン!」
「ダメだ」
チャックはイカダの上に仰向けになり、泣き崩れます。
チャック:
「許してくれ!」
「許してくれ!」
この時、チャックは初めて絶望するんですね。
すべてを諦めたチャックはオールを静かに海に流しました。
チャックは打ちひしがれ、食べることもせずに、生きる気力をなくし、いかだの上で動かないまま横たわります。
そしてイカダの上でただ死だけを待ちました。
くじけずにここまで生きてきた。
ウィルソンはチャックの心の支えだったんですね。
皮肉なことに、そこに大きなタンカーが横切ります。
チャックは夢か現実か分からないまま、手を伸ばしました。
チャック:
「ケリー」
「ケリー...」
ハボタン
13.空虚感
そして、発見されたチャックは4年ぶりに救助されます。
救助から4週間後、FedEx社ではチャックの帰還のセレモニーが行われようとしていました。
4年の歳月の間に、チャックたちの捜索は打ち切られていて、親族は葬式を済ませていました。
婚約者のケリーのもとにチャックが救助されたという一方が入るシーンがあります。
ケリーは電話で連絡を受けた直後、気を失いました。
彼女の後ろには仲良く食事をする夫と子供の姿がありました。
ケリーは結婚して、再出発をしていたのですね。
機内で物思いにふけるチャックに友人のスタンが話しかけます。
スタンは炭酸ジュースと氷を持ってきました。
スタン:
「あと45分だ」
「ドクター・ペッパーと氷を2杯だ」
チャック:「氷がうれしいよ」
スタン:
「予定を話そう」
「君が着陸して飛行機を降りた所でちょっとしたセレモニーをする」
「社長が挨拶して君は笑顔で”ありがとう”と礼を言う」
「その後、ケリーと会う」
チャック:「彼女もそこに?」
スタン:「そういう手配だ。君が望むならだが...」
チャック:
「もちろん、構わない」
「彼女に何と?」
「一体何と言えば?」
スタン:
「チャック、ケリーは君を過去に葬った」
「君は死んだと思われた」
「そして君は埋葬された」
「ちゃんと葬式をして、棺を埋葬し、墓石と立てた」
チャック:
「棺まで?」
「中には何を?」
スタン:
「皆が何かを入れた」
「携帯電話、ポケベル、写真、俺はエルビスのCDを」
チャック:「僕の葬式とメアリーの葬式をしたのか?」
チャックとスタンはお互いを見つめ合います。
チャック:
「君のそばにいなくて悪かった」
「友達なのに本当にすまない」
「残念だ」
そしてセレモニーが始まりました。
FedEx社長:
「4年前、我が社は5人の息子を失いました」
「つらく悲しい日でした」
「しかし今日、息子の1人、チャック・ノーランドが戻ってきました」
「チャック、お帰り!」
インタービューワー:
「生還したチャック・ノーランドでした」
「感想は?」
チャック:「フェデックスにとって記念すべき日です」
14.ケリーの夫
チャックは室内でケリーを待っていました。
そこにケリーの夫がやってきました。
チャック:「部屋を間違えた」
ケリーの夫:
「いいんだ」
「覚えてないだろうが、5年前、君の歯の治療をした」
「スポルディングの紹介で...」
チャック:「覚えてる」
ケリーの夫:
「今はケリーの夫だ」
「ジェリー・ラヴェット」
「ケリーも来るはずだったが...」
「思いがけないことで戸惑うよ」
「一番大変なのは君だが、ケリーもつらい思いをした」
「君が死んだと思い、今度はこれだ。混乱してる」
「大きな精神的ショックで自分を失ってる」
「少し落ち着く時間を...」
「とにかく、すまない」
ケリーの夫は部屋を出ていきました。
チャックが窓の外を見ると、夫に抱き抱えられながら車に入る困惑したケリーがいました。
チャックの生還パーティーが開かれましたが、チャックの心はそこにありませんでした。
スタン:
「大丈夫か?必要な物があったら注文してサインを」
「眠れよ、明日も大変だ」
「山ほど書類がある」
「君は甦るんだ」
「明日、君は甦るんだよ!」
パーティーが終わり、食べ残されたたくさんの料理を見渡します。
茹でた大きなカニを手にとり、もううんざりだという風に放り出します。
ライターに火をつけて、いとも簡単に着いた火を憎らしげに見つめます。
ベッドに心そぞろに横たわり、ケリーの写真を見ながらライトを点けたり消したりして物思いに耽ります。
アングレカム
15.再会
4年の間、チャックはケリーに会いたいという一心で命を繋いできました。
自分の心を整理するため、雨の夜にケリーの家を訪ねます。
するとチャックが玄関をノックする前に、明かりが点いてケリーが現れました。
ケリー:「起きてたの。タクシーの音がして...」
ケリーもまたチャックに会いたい気持ちと予感、眠れない日々があったのでしょう。
4年ぶりに顔を合わせた二人。
じっと見つめ合いました。
ケリー:「濡れるわ」
チャック:「空港で見かけた。来てたんだね」
ケリーはチャックをハグしました。
チャックは困惑するもやっと帰ってきたという安堵感でケリーを抱きしめます。
ケリー:
「タオルをあげるわ」
「皆眠ってるわ」
「コーヒーを入れる?」
ケリーはまだそわそわして落ち着きのない様子です。
チャック:「いい家だ」
ケリー:「ローンが大変なの」
ケリーが開く冷蔵庫の扉がチャックの眼の前に来ました。
そこにはケリーの家族の写真がたくさん貼られています。
チャックはそれを見て、もう戻れないだろうと悟りました。
チャック:「この子の名は?」
ケリー:「ケイティーよ」
チャック:「ケイティーか。かわいい子だ」
ケリー:「手がかかるのよ」
タオルで雨を拭き取ったチャックは重たい言葉を発します。
チャック:「はっきりさせておこう」
緊張した面持ちになったケリーを見て、チャックは優しく少し話をそらしました。
チャック:「ナッシュビルにフットボールチームが?」
ケリーは胸を抑えながら深呼吸をして少し緊張が取れました。
ケリー:
「アメフトの話?そうよ、ヒューストンから移ったの」
「名前も変わって”タイタンズ”よ」
チャック:「ヒューストン・オイラーズが?」
ケリー:
「そうよ」
「去年はスーパーボールに出場したのよ」
チャック:「見たかったよ」
ケリー:
「くやしかったわ。最後に1ヤードの僅差で負けたの」
「あなたの好きなクリーム50%のミルクを切らしてるわ」
チャック:「構わないよ」
ケリー:「教授になる話は?」
チャック:「ケリー・フリアーズ・ラヴェット博士?」
ケリー:
「あの事故があって、何もかも宙ぶらりんに」
「でもまた勉強をするわ」
チャック:「これを君に」
チャックは4年前にケリーに貰った懐中時計を返しました。
ケリー:「まさか!」
チャック:
「壊れてしまった」
「写真は僕がもらった。色褪せてるんだ」
ケリー:「これはあなたにあげたのよ」
チャック:「でも君の家族の物だから」
そうしてチャックは悲しくあとずさりしながら、玄関のドアに手をかけました。
チャック:
「あの飛行機に乗らなければ...」
「車から降りてなければ...」
ケリー:「見せたいものがあるの。来て」
二人はガレージに向かいました。
チャック:
「僕らの車だ」
「あの車だ」
「なぜ、持ってるんだ?」
「信じられない」
「いい車だ。いろいろ思い出が」
ケリー:「2つは特に大切よ」
チャック:
「メキシコ湾旅行だね」
「僕が乗ってもいいの?」
ケリー:「あなたの車よ」
チャック:「よかった。タクシーが消えた。待たしていたんだ」
ケリー:「荷物を出すわ」
チャック:「もっと子供がほしい?」
ケリー:
「さあ...」
「今はそんなこと...」
チャック:
「産めよ。産むべきだ」
「僕ならつくる」
ケリー:「これから何をするの?」
チャック:「さあね、分からない」
チャックは一人、車に乗ってエンジンをかけました。
ケリー:「あの時 ”すぐ戻る” って言ったわ」
チャック:「ごめんよ」
ケリー:「私もよ」
二人は車のドア越しにキスをしました。
16.時のいたずらとすれ違い
そしてチャックはケリーとの思い出を断ち切るように車を発進させます。
ケリーもこれまでのチャックとの日々に戻れないことを悟りました。
チャックを見送るケリーは自分の表情を隠すためにガレージの明かりを消します。
チャックの乗る車は家の敷地をゆっくりと出ていこうとしています。
段々とケリーの視界の中の車が小さくなって行きます。
ケリー:
「チャック!」
「チャック!」
雨の中、ケリーはずぶ濡れになりながら、車を追いかけました。
かすかに聞こえたケリーの呼び止める声にチャックは反応して、車をバックさせました。
二人は雨の中、抱きしめ合いました。
ケリー:
「生きてると思ってたのよ」
「でも皆は ”あきらめたほうがいい” と」
「愛してるわ。これからもずっと」
チャック:
「僕も愛している」
「君の思う以上に」
チャックはケリーの手を引いて車に座らせました。
ケリー:「チャック...」
ケリーは家族を置いては行けないことを感じていました。
チャックはそんなケリーの優しさを知っていました。
チャック:「うちに帰るんだ」
チャックは数秒ケリーを見つめたあと、決心が揺らがないように前を向き直します。
そしてチャックはケリーと別れました。
いちごの木
17.漂流の追憶
友人のスタンと酒を交わすチャック。
チャック:
「彼女も僕も考えて、彼女はその末に僕をあきらめた」
「僕も島で思ったよ。 ”彼女を失った” と」
「 ”島からは出られない” 」
「孤独のまま ”死ぬのだ” と」
「”いずれ病気かケガで死ぬ”」
「唯一残された道...」
「自分の意志で選べる道は、いつどうやってどこで死を迎えるか」
「ロープを編み、山頂で首を吊ろうと決心した」
「それでまずテストをした。僕はそういう性格だ」
「だが重さで木の枝がポキンと折れた」
「望み通りの自殺もできない。僕はまったく無力だった」
「代わりに ”温かい毛布” が心を包んだ」
「 ”生きよう。何が何でも生き延びるのだ” 」
「 ”何が何でも呼吸をし続けるのだ” 」
「 ”何の望みがなくても、故郷に二度と戻れなくても” 」
「僕はそうした。生き延びて息をし続けた」
「ある日その考えがひっくり返った」
「潮が帆を運んできた」
「そして今ここにいる」
「僕は戻った。メンフィスで君と話してる」
「手には氷の入ったグラス」
「彼女を再び失った」
「彼女を失ったことは悲しい」
「だが島ではずっとそばにいてくれた」
「これからどうするか?」
「息をし続ける」
「明日も太陽が昇り、潮が何か運んでくる」
18.生きる寄る辺
チャックが最後まで開封しなかった ”天使の翼の小包”。
なぜ開けなかったのか?
生き残るための有効な道具があるかもしれませんでした。
ですがこの小包を開けてしまうと、チャックがお客に荷物を届けるという役割を失ってしまうんですね。
遭難したチャックにとっては生きるただ一つの理由です。
生きて戻るために大切に取っていました。
彼が今、生きている目的であり、存在するたったひとつの理由がこの小包を送り届けるということです。
友人ウィルソンの存在とこの最後の小包を届ける役目があったからこそ、チャックは自死を選ばなかったのだと思います。
チャックは天使の翼の小包を届けるために、宛先の住所にやって来ました。
住人は不在でチャックは書き置きを記します。
書き置きのメモ:「この小包のおかげで僕は救われました。ありがとう。チャック・ノーランド。」
この作品の冒頭にこの住所の住人のアトリエが映し出されていました。
パートナーと共同で創作していたような看板が入り口にありました。
「ディック&ベティーナ」
4年後、チャックがそこに訪れた時、
「&ベティーナ」
だけとなっていました。
彼女にもまた別れがあったのですね。
配達の帰り道、チャックは十字路に車を停めて地図を広げ、つぎの行き先を探します。
一台の車が止まり、一人の女性が話しかけてくれました。
通りがかりの女性:「迷ったの?」
チャック:「僕が?」
通りがかりの女性:「どっちへ?」
チャック:「それを考えていた」
通りがかりの女性:
「そっちは83号線」
「こっちはIー40号線に出るわ」
「右へ行くとテキサスからアリゾナを通ってカリフォルニアへ」
「そっちは何もなくて、行き着く先はカナダ」
チャック:「どうも」
通りがかりの女性:
「じゃあね」
「気をつけてカウボーイ」
チャック:「ありがとう」
何と女性の車の後ろにはあの天使の羽のシンボルが描かれていました。
イオノプシス
19.人生の壁と再出発
映画の冒頭で4年前、配達人が来た時に溶接面と取った時の、彼女のはち切れるほどの満面の笑顔。
そして4年後にチャックと出会った時の全く変わらない笑顔。
この笑顔と笑顔の間に彼女はどれだけの悲しみを乗り越えて来たのでしょうか。
時の流れの残酷さとともに、人が苦難を乗り越える強さをも感じることができます。
本作品のテーマのような気もします。
チャック:
「 "時" は誰にも非常だ。」
「病気の人間、空腹な者、酒に酔った者」
「ロシア人、アメリカ人、火星人」
「 ”時” は炎のように我々を滅ぼすか、温めてくれる」
「我々は時間に縛られて生きている」
「”時”に背を向けたり、”時” の観念を忘れることは、この商売では大罪だ!」
作品の冒頭、モスクワでチャック自身が言ったセリフです。
人との離別、難治性の病気や障害、金品の遺失...
苦難が訪れた時、人はまずその事を受け入れることができません。
「拒絶」です。
考えないように心から閉め出す。あるいは他人や自分に怒り狂い、涙が乾き干されるほど泣き叫びます。
現実を跳ね除けようとするのです。
次に「絶望」です。
前に進めない、心が動かない、何もする気力がない。
できることは眠ることか、ぼーっとすること、忘れるために何かに依存することだけ。
自律神経が「生きる」ことを停止させています。
次に「受け入れ」です。
「もうあの人はいないんだ」
「ここにはそれはないんだ」
「決してこれは直せないんだ」
事実を諦めて受け入れる。
悲しい感情をも自分の中に取り入れる。
この苦難を味わい尽くす。
無くしてしまった人や物に接触していた「ぬくもりの手」や「大きな頼り」や「利己的な執着」や「愛着」や「思い描いた夢」や「輝かしい思い出」などを噛み砕き、完全に自分のこころから切り離す。
最後に「忘却」です。
拒絶、絶望、受け入れのフィルターを通してきれいに浄化したものしか心の中にしまうことはできません。
心の「とらわれ」を取り払って記憶を最小にしなければ、心の中にしまいこんで忘れることができないのだと思います。
20.選択できる幸せ
最終シーンの十字路の道。
とても映画的な風景でした。
どの道に行っても未来が違います。
無人島では得られなかった「希望」と「自由」
チャックの傍らには新しく買ったウィルソンがいました。
チャックはベティーナの行く道を見つめて微笑んで、映画は終わりました。
この後、チャックはベティーナを訪ねるのでしょうか。
それもまた、生き延びてこそ選択できる自由ですね。
今の暮らしのなかで不安に思っていること、たくさんお有りだと思います。
そうした不安を、心の整理をして、捨てることができるものとできないものに細かく分けましょう。
そうすれば、今まで背負ってきた荷物を降ろし、大事なことが見えてきて、優先順位がはっきりし、前に進むエネルギーを費やすことができると思います。
ここまでお読み下さり、ありがとうございました。
また次回の作品でお会いしましょう。
エラチオール・ベゴニア
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感動多いです。