貧者の一灯・特別編 2023年10月24日 | 貧者の一灯 妊娠中毒症で倒れ、救急搬送後に男児を出産、その後に死亡した妊婦Aさん。男児は、重症新生児仮死で生まれてきました。家族は悲しみを抱えながらも、男児の養育に向き合うようになりました。 家族が男児の養育を考え、生活を営めるよう、家族のダイナミズムを捉えた看護支援が行われてきました。それに加え、重症新生児仮死という状況で生まれてきた男児の将来のアイデンティティーを大切にし、それが育まれるように支援がなされました。家族支援専門看護師が考えた男児のアイデンティティーとは何か。次のように看護師は語りました。生まれた時のことをうまく説明してあげられるか? 「どのくらいの知的回復があるかはわからないですが、大きくなった時に、誕生日が母親の命日でもあるということを、どう受け取るかなって考えました。この子の人生は病院のなかで完結するわけではない。物心がついてから自分が生まれた時のことを質問した時、その時の状況を、どうみんなが覚えてくれているのか? 周りの大人の記憶が曖昧になって、生まれた時のことがうまく説明ができないと、子どものアイデンティティーが大事にされず、本当に愛されているのか疑問に思って、生きていく力をそぐようなことになってしまうかもしれない。お母さんやみんなが、あなたをどれだけ愛しているか、誕生を喜んでいたか、そのメッセージを残してあげたいと思いました」「育児日記」を退院日にプレゼント 看護師は、キャリアを積んだ今になって振り返れば、そこまでしなくてもと感じるものの、当時は家族支援専門看護師となってから日が浅く、毎日、体重、ミルクの状況等「育児日記」を書き、今日はこういう笑顔や表情をしたと写真を撮って、退院の日にデータもプレゼントしたそうです。男児が将来大きくなった時、自分はその場にいなくても、男児が父親や家族と自分が生まれ育っていった時のことを話せる機会があったらいいなという思いを込めたと言います。9年後、予想を上回る成長を知るさらなる後日談があります。男児が入院していた新生児集中治療室(NICU)は再入院できないところであり、看護師は通常、その後の子どもの成長を知ることはないのですが、実は、この男児については9年後、その状況を知ることになったのです。 男児の日常の医療面は近隣の病院でフォローアップしていたのですが、胃ろうを閉じる手術を受けるために、看護師が勤務する病院に入院してきました。 看護師はそのことを知って、「自分で食べられているんだ!」と男児の素晴らしい成長・発達に感動したと言います。当初、医師からは「将来は寝たきり状態で歩行は難しい。発達の遅れも予想される」と説明を受けていました。 家族支援専門看護師は、看護記録から、男児がご飯を口から食べられていることや、立って歩くまではいかないものの、お座りをできるようになっていることを知りました。言葉も単語は発しており、物の認識ができるようになっていました。当初の医師や看護師の予想を上回る回復力でした。看護記録から垣間見えた父親の熱心な養育ぶり 看護記録からは「お父さんが、お父さんしているな」という記述が垣間見られたと言います。記録には、男児の「パパはどこ?」とたずねるような様子がたくさん記録されていました。男児の言葉として、パパに会いたいという思い、パパから離れたくないということが記録に表現されていて、お父さんががんばっていることが伝わってきたと言います。当時、お父さんは仕事が忙しく、昼夜の別のなく働くこともあったのですが、男児のことを熱心に養育されていることが伝わってきて、言葉で言い表せない思いがこみ上げたそうです。 看護師は「予想を超えた男児の回復力に感動した」と語っていますが、男児の将来のアイデンティティーがきちんと確立されるよう、あらかじめ育児日記を作るなど、その看護実践のなかで、男児の成長・発達や回復の可能性を見据えたアプローチをすでに行っていたとも言えます。 育児日記を作ることの意味は、人が生きている証しを残すことであり、人の人生の過去から現在、そして未来をつなげることに他ならないと感じました。看護師が語るように、看護師は患者や家族の人生のある一時期のみかかわり、看護の手ごたえを十分感じられないと思うこともあるでしょう。しかし、今回のケースから、その看護師のNICUでの一時期のかかわりは、男児と家族の過去、現在、未来の大きな流れのなかにあるものだと教えられました。…author:鶴若麻理 聖路加国際大教授※… 娘夫婦と過ごす正月息子も夫も逝って、大晦日は一人で過ごすのかとあきらめていた。すると娘から電話があり、「正月は私のところにおいで」と誘われ、本当にうれしかった。着替えや下着、おむつをリュックに入れ、どっこいしょと背負って娘の家へ出発。ムコ殿が優しく迎え入れてくれた。元日の朝。お年玉を娘夫婦や孫娘に渡すと、思ったより喜んでくれる。孫娘はお返しにと素敵なハンカチをくれた。ちょうど新調しようとしていたのでうれしい。孫娘は恋人と同棲を始めたというので、なにかコーヒーセットでも、とお祝い金3万円を渡す。当然、大変な喜びよう。 すると娘があわてて飛んできて「そんなことしなくてもいいのに」と言ったが、もっと素直に「ありがとうお母さん」と言えないものかと思う。※…元日のお墓参りで娘の手製の雑煮を食べたが、ちっともおいしくなかった。でもそんなことを言おうものなら、烈火のごとく怒るに決まっているので、生煮えの餅を黙々と食す。そして、みんなで支度をして、息子と夫の墓参りへ。墓前では「昨年は仲よくお雑煮を食べたね、お父さん」と涙があふれてきた。すると娘がしみじみ言う。「私、あまりお父さんのこと好きじゃなかった」。驚いて娘を見る。「お母さんだってそうでしょ。昔のことをグダグダ言ってさ」。 ちゃんと私と夫のやりとりを見ていたとは。なんだか恥ずかしい。じつは、夫からチクチク言われなくなってホッとした自分がいたのだ。「でも、お父さん、さびしいよ」と手を合わせた。…author:※婦人公論では「読者体験手記」 #妄想劇場 « 貧者の一灯・漢の韓信シリーズ | トップ | 貧者の一灯・THEライフ »
コメントを投稿 goo blogにログインしてコメントを投稿すると、コメントに対する返信があった場合に通知が届きます。 ※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます 名前 タイトル URL ※名前とURLを記憶する コメント コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。 コメント利用規約に同意する 数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。 コメントを投稿する
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます