歌:清水節子
作詞:中谷純平・作曲:青山伸
さみしさを ベッドに座らせ
あなたのぬくもり さがす夜
哀しみの 扉を半分
あけたままあなた 霧の中
アモーレ だれのせい…
アモーレ どうなるの…
愛の魔法に かかったままで
孤独の部屋で 暮らしてゆけない
せめて夢見る 女でいさせて〜
これからの歩み
翌週、今日は姉達と日帰りで温泉観光地へ。温泉入って
お土産を買った。四時頃帰る予定。
俊さんは朝から会議で夜は懇親会でお夕飯がいらないので、
姉達と出掛ける事にした。 四人揃って出かけるのは久しぶり。
十時に待ち合わせして、出発だ。 美味しいお昼、散歩して
お茶しておしゃべりたくさんしてそろそろお土産買いに
行こうと席を立った。
俊さんの好きな赤かぶの漬物、 ザラメ煎餅とたくさん買った。
そろそろ帰る時間。駅に向かった。 三時の電車に乗って
三人一緒に降りた。
「又、来週ね」 一人で、外を見ていると、
「あの、すみません少しいいですか」と。 変な人が
声をかけてきた。
謎の人編
ある日の午後、社員旅行の解散後、市場調査で観光地を
秘書と一緒に視察に来ていて、カフェでお茶を飲んでいた。
四人の女性連れが前を通り過ぎようとした時、 「えぇ!」
十年前に亡くなった妻にそっくりな女性が目に入った。
びっくりしたが空似だろうと思い秘書と色々な情報をまとめて
いると、 先ほどの女性四人連れがお土産を買っての
帰りだろう、荷物を持って通った。
秘書に、 「悪いが急用が出来たから先に帰ってくれ。
月曜日な」と急ぎ店を出た。
しばらくすると、四人の女性を見つけた。
後ろからゆっくり追った。 妻に似た女性を見ていたら笑い方、
優しそうな顔、仕草、妻よりは若いが癒されそうな雰囲気、
清楚な服装、もち肌そうな体つき、僕は導かれるように
後を追った。
「よく笑う人だ。なんて、優しそうに笑うんだ。
楽しそうだな。顔に性格が出ているなぁ」
ますますドキドキしてしまって目が離せない。
声をかけたい、でも不審がられるだろうな。
相当迷っている。目が離せない。顔が赤くなっているのが
自分でも分かった。
「えっ、一目ぼれ!」 五十五歳、初めての経験、いや、
妻を含めて二回目。
一時間、追い続けた。帰るために、駅に向かっているのだろう。
今、声をかけなければ後悔すると思うが……出来ない。
一緒に電車に乗り込む。 まるでストーカーのようだ。
お連れの三人が下りたので、勇気を出して、
「あの、すみません少しいいですか」。
「はい?」
近くで見るとやはり素敵な女性だ。
「僕、山本と言います」と名刺を出す。
「いいえ、名刺はいりません。結婚しています。
主人以外の男性には興味がありません」
初めて名刺を拒否された。
意外と名の売れた会社の代表だ。初めてだった。
諦めきれずに、 「本当に結婚しているか確認したい」
僕は何を言っているんだろうか、
女性は驚いている。
「初めてなんです。女性に声かけるのは。
いや、妻を入れると二回目です。
諦めるにしても、ご主人に会わせてください」
「なんですか、私があなたに迷惑を掛けたのですか」
「違います。すみません。僕があなたに一目ぼれしたのです。
諦めるにしても是非、会わせてください」
女性は不安そうにご主人にメールをしている。
もしダメそうな男性だったら奪い取りたい。
ダメ夫でありますように、女性が降りる準備をしている。
一緒に降りた。
「俊さん、今、駅にいるけど。どこ?」
男性二人がこちらに向かって走って来た。
あの人だろう。前を走っている人がご主人だろうな。
真面目そうで裕福そうで素敵な人だ。
ああー諦めるしかないな。
「今井と言います。妻に何か用でしょうか?」
「すみません。僕は怪しい者ではありません。
僕は山本と言います」 名刺を出した。
ご主人は名刺を見て余計びっくりしている。
女性はもう一人の男性の後ろに隠れている。
「奥様を見かけて、追いかけてきました。
十年前に亡くなった妻にあまりに似ていたので
秘書をおいてここまで来ました。
優しく笑う姿、癒される雰囲気、清楚な服装、
僕は五十五にして一目惚れしました。
ここで声をかけないと後悔すると思い
付いて来てしまいました。
もしあなたがだめそうなご主人だったら奪い取ろうと、
思ったのですが、あなたを見て諦めがつきました。
……一ついいですか?
奥様はお金に興味がなく、ふんわりしていて、しっかり
しているでしょう。包みこんでくれるでしょう。
一緒に居て癒されるでしょう。僕もたくさんの人を見てきた
からわかります。うらやましいです。大切にしてください」
「妻をほめていただいてありがとうございます。
山本さんの言う通りの妻です。
妻は本当におっとりしていて素晴らしい女性です」
今井さんから握手を求めてきた。
「はい、素晴らしい妻です」
「初めて振られた女性が素晴らしい方でよかった。
これで、帰ります」 悔しさと残念さで心が痛い。
今日の酒は苦くて不味いだろうな。 …
今井さん編
「行こう。大丈夫だよ。ゆりが亡くなられた奥様に似ていて
つい声をかけたそうだ。心配しないでいいよ。
一人で帰れる? タクシーで帰りなさい」
「はい」ゆりをタクシーに乗せて帰した。
「今井、今の方、見覚えがあるぞ」 名刺を手渡した。
「やっぱりそうか。先月雑誌の対談に出ていた方だな」
「そうだよ」 「京都で有名な和菓子屋さんで、資産家で
独身だよな」 「とても紳士だったな。
ゆりにかかったら、ただの変な人で終わりだね」
「ゆりさんって、すごいなぁ。アハハハハ」 「まったくだ」 …
刑務所を見れば国民性やその国の文化水準がわかる。
そう言ったのはチャップリンだ。
刑務所ってどんなところ?
受刑者は何を思い、どんな毎日を過ごしているのか?
刑務所で生まれ養護施設で育ち、子を産んで離婚
…60代受刑者
刑務所に入ったのはこれで7回目。
今回の罪名は覚醒剤取締法違反と詐欺と窃盗と放火で、
刑期は5年です。
借金をしていた知り合いから「あの店に火を付けたら借金を
帳消しにしてやる」と言われて。その店も承知していて
保険金目的だ、と聞かされたけど、…
捕まった後、その店は何も知らなかったことがわかりました。
火を付けに車で行くのに、別の車のナンバープレートを盗み、
ガソリンは、他人のクレジットカードを使って入れました。
覚醒剤で気持ちが大きくなってしまった。
覚醒剤を使っていなかったら、こんな大きな事件は
起こさなかったと思います。
クスリを最初に使ったのは30歳近い頃です。
経営していたスナックで、雇っていた女の子が「痩せる」と
いうので使い始めました。痩せるし、イライラした気分が
落ち着くんですよ。
自分のお金で買ったクスリを自分の体に入れるだけ。
人を傷つけるわけでもないから、罪の意識もありません。
注射は10日にいっぺんほど。毎日ではないので、
「いつでもやめられる」という気持ちがありました。
ばれて刑務所に入った後は、4年ごとぐらいに刑務所に
行っていました。
北海道から関西まで、いろんなところに行きましたね。
私、刑務所で生まれて、乳児院に1年いた後、18歳まで
児童養護施設で育ったんです。親きょうだいとの付き
合いはありません。
20歳の頃に結婚して子供が2人生まれたけど、覚醒剤の
せいで離婚されました。
子供?会いたい。いつも会いたいと思うけど、
こんな私に会わない方がいいかなと思います。
仕事は、高校の後はだいたい水商売。
刑務所から出た後は、友達のつてを頼ってスナックで
働いたり、喫茶店でウェートレスをしたり。
まともに働こうとすると、 刑務所にいたとは言えないので、
履歴書に空白ができる。その時は「主婦してました」とか
答えたりして。
水商売しか知らんから、自分で商売しようと考えたけど、
刑務所ばかり行ってるから資金をためる暇がない。
だんだん、年齢もいってきたし。 駄目な自分見せたくなくて…
友達から遠ざかるうち、誰もいなくなった
まじめに働こうと考えたことはあるんです。
刑務所で習った荷物運搬の運転技術を生かして
会社に応募したけど、
試験で不採用となり、心が折れてしまった。
働く気がなくなった。そうなると生活保護です。
でも、今度ばかりはどこか住み込みで働かせてくれる
会社があれば、一生、働ける限り働きたい。
出所したら、いつ捕まるのかと思うことなく、一人で静かに
暮らしたい。
覚醒剤はもうしません。
今回したら終わり。60過ぎて何してんのという感じ。
次に手を出したら死んだ方がいい。
30年ぐらい刑務所を出たり入ったりして、気づいたら
こんな年になっていた。
身近にいたのは覚醒剤してる人だけ。心配してくれる
友達がたくさんいたのに、 駄目な自分を見せたくなくて
遠ざかるうち、誰もいなくなってしまった。
でも、誰も悪くない。悪いのは自分やから。
刑務所?来るとこじゃない。
人生を無駄にするところ。
それが今頃になって、やっとわかりました。
もう少し早く気づいていたら、私の人生も違ったと思う。
20代、30代の10年と、50代、60代の10年は全然違う。
やり直しには時間が足りない感じだけど、今度こそ
クスリをやめて、まじめに働きたいと思っています。
犯罪と後悔、重ねる受刑者…
刑務所取材のきっかけ 女性刑務所取材のきっかけは、
10年ほど前に遡る。
刑務官全員が認知症の講習を受けた施設があると知り、
社会保障担当の記者として現場を見なければと思った
のが始まりだ。
いざ、塀の内側に入ってみると驚くことばかり。
何人もの受刑者の話を聴く中で耳に残ったのが
「時間の無駄」「人生の無駄」という言葉だ。
この60代の受刑者だけではない。「覚醒剤により何年という
無駄な時間を過ごしてしまった」(40代、入所4回目)、
「たった1回、クスリを使ったことで無駄な人生を送っている」
(30代、同3回目)、
「若くもない年齢になってきて、今は覚醒剤をした時間と
お金がすごくもったいないなと思う」(30代、同2回目)などなど。
そう思いつつ、彼女たちはなぜ、犯罪を重ねてしまうのだろうか…。
19年に刑務所に入った受刑者は1万7464人。女性は1718人で、
全体の約1割を占める。
女性で最も多い年齢層は40歳代で3割近い。
65歳以上は約2割で、この割合は約20年前の約4.5倍に増えた。
女性受刑者の罪名は、窃盗(47.4%)と覚醒剤取締法違反
(33%)で8割を占める。
女性受刑者が入る刑務所は全国に11ある。 …
時は絶えず流れ、今、微笑む花も、明日には枯れる
愛されないということは不運であり、愛さないということは
不幸である。……