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トーキング・マイノリティ

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ベルファストの男 その②

2019-06-15 22:10:08 | 世相(外国)

その①の続き
 フレディの付き人で愛人でもあったポール・プレンターは、タブロイド紙に暴露写真を売った男であったことを多くの長年のファンは知っていた。だが、そうでない方は映画ボヘミアン・ラプソディで初めて知ったはず。この映画には時系列的にも事実と異なる点が幾つもあり、プレンターの裏切りはライヴ・エイド後で、マネージャーのジョン・リードを策略でハメたのも創作である。
 実際には1986年10月13日付『ニュース・オブ・ザ・ワールド』紙にすっぱ抜き記事が掲載、フレディの元恋人たちとのプライベート写真が並べられており、同棲中の恋人としてジム・ハットンの名が挙げられていた。プレンターはそれらネタを3万2千ポンド(約472万円)で売っている。

  映画と事実との細かな相違はともかく、プレンターが酷い裏切りをしたのは否定できない。映画レビューはこのベルファスト男への罵倒ばかりが目につき、殆どが“クズ”呼ばわりだった。長年のファンにとっても“クズ”という見方では共通している。
 バンドメンバーのロジャーはドキュメンタリーでプレンターを、「ヤツのことは言わぬが花さ。最悪だよ……」と吐き捨てる調子で語っていた。一方ブライアンは、「彼には退廃を好む傾向があった。それがフレディに良くない影響を与えていた」と知的に答えている。口調は違っていても両者は、全てはプレンターが悪いという主旨の発言をしているのだ。

 プレンターを演じたアレン・リーチは、「みんな彼について語りたがらないので情報が少なく役作りが大変だった」という発言をしている。プレンターについて知っているのはほぼクイーン関係者だし、語ったとしても論調が厳しくなるのは当然だろう。
 ブライアンやロジャーの想いは理解できるが、プレンターをあれほど増長させたのはフレディにも非がある。ミュージシャンでもないのにスタジオに我が物顔で入り浸り、音楽に口出しするのを何故フレディは制止しなかったのか?公私混同も甚だしく、他のバンドメンバーならガールフレンドや妻にそのような振舞いは決してさせなかっただろう。その辺りはずっと私には謎だった。

 ただ、フレディもプレンターも共に非イギリス人で植民地の出自である。日本人は概ね公私混同を嫌うし、イギリス人も同じ傾向があると思う。しかし個人差はあるにせよ、インド人やアイルランド人は公私の区別にはさほど厳格ではない。
 しかもプレンターは1977年から解雇される1986年までと、実に9年間もフレディの個人マネージャーとして働いている。単にマイノリティの非イギリス人同士でウマが合っただけではなく、フィーリングもピッタリだったと思う。バンドメンバーは認めたくないにせよ、プレンターはフレディに良くない影響だけではなく良い影響も与えただろうし、音楽創作でプラスになったこともあったのだ。

 ブログ記事「『ボヘミアン・ラプソディ』の凄みはポール・プレンターにこそあると思う。」にあった一文、「ポール・プレンターという男が間違いなくフレディの分身だった」にはハッとさせられた。
ポール・プレンターは悪者じゃない」という記事のブログ主は「あくまで私見」と断りつつ、プレンターの心理を見事に分析しており、特に唸らせられた箇所があった。
フレディに忠実に仕え、依存することで自分の存在価値を見出すポール。フレディを独占したい、自分だけを見ていてほしい。そのうち、メンバーやメアリーの存在が疎ましくなってくる…

 プレンターが裏切った動機に、アイルランド人の新たな恋人ジム・ハットンへの嫉妬もあるのではないかと思っていた。これは私だけの想像だけではなく、プレンターがお払い箱にされたも同然と逆恨み、復讐を目論んだと見ている関係者がいたことが『フレディ・マーキュリー/孤独な道化』(レスリー・アン・ジョーンズ著)に載っている。
 ゴシップ報道は『ニュース・オブ・ザ・ワールド』の姉妹紙『ザ・サン』でも取り上げられ、何日間も続いた。ジムの手記によれば、プレンターはフレディに電話で申し開きをしようとしたが、フレディは頑として電話に出なかった。プレンターはずっとマスコミにうるさく付きまとわれ、せっつかれたからとうとう折れてしまった、記事は勝手に書かれた等と言い訳しようとしたそうだ。

 厚かましいにも程があるが、皮肉にもマスコミにネタを提供したおかげでフレディの私生活が知られるようになった。1991年8月、プレンターもエイズで死ぬが、フレディの死の3ヵ月前である。プレンターの訃報を知ったフレディは悲しんだことがジムの手記に描かれていた。
 プレンターの実際の画像や動画が公開されている「ポールプレンターのフレディ・マーキュリー暴露話の真相は?エイズが死因?」という記事がある。画像や動画から本当にフレディの影のように付き添っていたことが伺える。最後は暴露話で裏切ったにせよ、公私ともにフレディの人生を支えたのは確かだし、陰ながらバンドに貢献していた面はあったのだ。

◆関連記事:「映画ボヘミアン・ラプソディ
DAYS OF OUR LIVES/輝ける日々
フレディ・マーキュリー/孤独な道化

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (鳳山)
2019-06-16 00:49:11
そういう人間関係があったんですか?まったく知らなかったので驚きます。と言ってど素人がとやかく言うべきでもないのでこれくらいにしておきます。
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鳳山さんへ (mugi)
2019-06-16 22:04:51
 ロック界にはゲイやバイセクシャルが少なくないし、フレディもその1人でした。それ自体は結構ですが、大勢の男たちと交流が命取りになったのです。

 スーパースターがマネージャーに騙されたりするケースは、枚挙に暇がありませんよね。スターも人の子だし、信頼している人物に裏切られるのは辛いものです。
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