トーキング・マイノリティ

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インドの“右傾化”

2022-10-09 21:10:08 | 世相(外国)

 9月27日、安倍晋三元首相の国葬が行われ、国外からも多数の政府要人が参列した。wikiにも海外からの参列者一覧が載っているが、河北新報で報じた通り、G7首脳の出席はなかった。それを以って杉尾ひでや参議院議員(立憲民主党)は9月25日、「これでG7首脳の出席はゼロに。「弔問外交」って、いったい何?」とツイートしていた。
 これにイスラム思想研究者・飯山陽氏は翌日、「G7以外の国なんてゴミだし、首脳以外の人間はクズだと思ってるんだろうなあ。」と皮肉たっぷりのツイートをする。飯山氏のツイートで初めて杉尾ひでやなる参議院議員を知ったが、wikiには元TBS報道局記者だったことが載っていた。

 飯山氏のツイートへのレスも、元TBS報道局記者上がりの参議院議員への批判中心だったし、笑えたものを挙げる。
「この一節を読む限り、杉尾氏はG7以外は国だと思っていないのでは無いかと、勘繰りたくもなって来る。大なり小なり、国々は尊重されるべき。」(革姫(三人の革手袋の会、㊗️アルビレックス新潟J1復帰!)さん)
「官僚をイビるだけのお仕事がメインの方には、弔問外交なんて、一生縁が無いから、ご心配なく」(ラッキーママさん)
「すぎおくん、君はそれ以下なんやで・・・と言ってやりたい」(ふぁらさん)

 改めて本音ではG7以外の国など眼中にない日本の左派の国際観が伺えたし、2006年6月、拙ブログにトラックバックしてきたkiguなる自称元左翼活動家の以下の発言から、いかに左翼がイスラム圏に無知であるか知れよう。
ホメイニパーレビも、ローカルなレベルのローカルな人物で、もちろん世界史に残るようなレベルの偉人でもない
 確かにパーレビは世界史はおろかイラン史にも残るような偉人ではないが、ホメイニは違う。良くも悪くもトルコのアタテュルクと並び、20世紀の世界史及び中東史に残る人物である。むしろ日本や日本の首相のほうが、ローカルなレベルのローカルな人物かもしれない。

 私的には安倍元首相の国葬に、インド首相ナレンドラ・モディが参列したことが嬉しかった。安倍元首相の死去を受け、インド全土が服喪したことを当然河北新報は報じていない。何しろ2012年元日と2021年3月11日と2度も、台湾国旗を“白旗”で載せるほど中共に阿るのが社是になっている地方紙なのだ。モディが寄稿した安倍元首相への追悼文を紹介しているブログ記事もある。
 むしろ中国メディアの方が報じており、「安倍氏死去、インド全土が服喪した理由」というレコードチャイナ記事がある。記事にある文章、「英国による残酷な統治を受ける中で多くのインド人が「白人植民主義への反撃」を掲げる日本に追従した」という解釈はいかにも中共的だが。

 必ずしもインド人は日本に追従するばかりではなかったし、そう書かなければならないにせよ見解としては実に粗雑。レコードチャイナは英国による残酷な統治に華僑が協力、追従していた過去に言及しない。ただ、結びの文章は日本の左派の解釈よりも適切だった。
安倍氏の死去でモディ首相やインド全体が悲しんだことは、必ずしもすべて現実的な利益を鑑みてのものではない。そしてまた、インド全土が服喪したことは、日印両国が今後さらに結びつきを強めるであろうことの印なのである

 モディはヒンドゥー至上主義者と言われる。もちろん当人はヒンドゥー至上主義者という懸念の払拭に務めているが、若い頃からヒンドゥー至上主義を掲げる民族義勇団に所属していた。そして所属するインド人民党はヒンドゥー至上主義が強く、キリスト教やイスラム教をしばしば批判することで知られる。

 先日読んだ『ヒンドゥー教10講』(赤松明彦 著、岩波新書1867)のあとがきに、衝撃的なことが書かれていた。ムスリムとヒンドゥーの融和を図り、寛容な宗教政策を取ったことで有名なムガル帝国第3代君主アクバルが、今やインドでは極悪非道の人物とされているというのだ!そのためアクバルからその名を借りたデリー市内の幹線道路は2016年に突然名称変更される。
 2018年、アクバルゆかりのアラーハーバードも、その正式名称を「プラヤーグラージャ」とすると、州政府により決められる。「プラヤーガ」はガンジス川とヤムナー川が合流する聖地を示す古い地名であり、玄奘三蔵も「鉢羅耶伽」として記録している。
 しかし、単に旧名に戻したとは思えず、意図的なヒンドゥー復古主義に感じる。英領統治時代はボンベイやカルカッタと呼ばれた街が、今ではムンバイコルカタが正式名称となった。

 ヒンドゥー教徒を迫害したアウラングゼーブならともかく、アクバルが極悪非道の人物というのは言葉もない。ガンディーすらインド最大の裏切り者という者がいるそうだ。
 このような意見は極例と思いたいが、ただでさえ膨大な人口を抱え、奇人変人が多い国でもある。ノイジー・マイノリティーの数も日本の比ではない。ただ、独立から75年も経ているため、昔よりも“右傾化”している傾向は否めない。

 私は未読だが、『右傾化する日本政治』(中野晃一 著、岩波新書)という書がある。著者は2021年7月8日、自身のツイッターで、「スポーツしかできないバカって本当に世界的にこんなにゴロゴロいるんだね。」と述べた大学教授。中野の専門は比較政治学というが、日印の政治比較を行えばさぞ面白いだろう。これまたインド政治の右傾化は日本どころではないのだから。

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