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代理母-奉仕の精神?

2007-04-15 20:17:41 | 世相(日本)
 先週12日、代理出産で話題となったタレントの向井亜紀夫婦の記者会見が河北新報にも掲載された。記事になった向井さんの主張はこうあった。
日本では『子供はおなかを痛めてこそ』という考え方が強く、代理出産の容認には時間がかかると思う」「米国では代理出産はキリスト教的な奉仕の精神に基づいて行われており、日本人には苦手な考えだ」「海外で合法的な代理出産によって生まれた子をどう受け入れるのか、明確にしてほしい」…

 河北は向井さんの主張を紹介した後、「見方を示した」「~と指摘」「法整備への期待を語った」と結んでいるので、彼女に好意的な姿勢なのは明らかだ。特に代理母問題に関心がなかった私も、河北の記事と合わせ知人の女性(ただし2児あり)の彼女の代理出産への厳しい批判から、代理母について考えさせられた。これまでは私は向井さんがバッシングを受けるのは、有名人ゆえだろうと簡単に想像していたが、記者会見内容からそればかりではないのが伺えた。

 向井さんの言い分は典型的「米国では」の出羽の守なのだ。米国で合法なら、日本でも合法とすべきとの主張なら、アメリカの地方都市のように進化論を否定し教科書は聖書から多分に引用、同人種しか住まない町を建設すべきとなる。まず日本は非キリスト教の国であり、キリスト教精神を取り入れよ、とお上が指示するのなら、政教分離から完全に逸脱する。己の都合のよい部分だけつまみ食いすれば、隙だらけの屁理屈を並べるだけとなる。

 代理母をネットで検索してみたら、興味深いサイトがいくつもあった。向井さんの代理母となったアメリカ女性へのインタビュー記事まで公開されている。その一部を抜粋したい。
「業者からは当初、保険とか入れないで1万8千ドルの謝礼に、双子の場合はプラス2千~3千ドルといわれました。だからって今回双子を産んだわけじゃないですよ。それは偶然よ(笑)。その謝礼でこの家のローンを返済したんです。その残りのローンを払って、ようやく“家主”になれたわけです。とても満足です」

 もしこの米国女性に家のローンがなれれば、果たして代理母などに応じただろうか?インタビューにもいくらで応じたのか、想像したくなる。何不自由ない金持ちで、キリスト教的な奉仕精神に基づいて代理母になった女などいるのか?そもそもキリスト教の基本教義からすれば、代理母など認められない。いかに聖書に記載されてないにせよ唯一神との契約に違反しないか、神学論争の対象となる。
 全米が全て代理母を認めているのではなく、認めない州も珍しくないのを向井さんは無視しているようだ。

 さらに代理母に関して詳細に書かれたブロガーさんもいる。「代理母の問題点」は実に参考になった。この件に関しても情報操作があるというのは愕然とさせられた。アメリカが代理母の対象国として取り上げられるが、韓国の方はマスコミでは触れない。インドも代理出産がブームらしい。現世で善行を施せば、来世で報われるとのヒンドゥーの教えの背景はやはり金なのだ。
 ブロガー『玄倉川の岸辺』さんは、「「代理母」報道の偽善、あるいは認知の歪み」という素晴らしい記事を書かれている。

 初めから子供をつくらない夫婦なら問題ないが、子供がほしくても生まれない夫婦の心理は想像を超える。周囲からは子供はまだかと問われ、友人たちが次々に子供に恵まれながらも、自分は親になれない忸怩たる思い。両親への孫を与えられない負い目…表面的に気丈に振舞っても、内心は悩んでいる。運命と受け入れるには時間がかかるし、養子もままならない。
 代理母はそんな夫婦への巨大ビジネスなのだ。奉仕とはいいえて妙だが、所詮21世紀版ハイテク借り腹に過ぎない。

 今や病気で死亡した夫の凍結精子で、妻が伴侶の死後出産したケースさえあるほどだ。科学技術の著しい進歩は代理母、クローンを誕生させる。こうなると科学の暴走なのは確かだが、いかに法規制をしたところで、違反者を無くすのは非常に難しい。学生時代に読んだSF『神鯨』(T.J.バス著)で、将来の臓器提供のため自分自身のクローンが作られ、動物のように檻に飼育されている場面があったが、これも現実となる時代が来るのだろうか。

人間の良心というものは、どんな場合にも、やりたいと思うことに他愛なく調子を合わせるものだ」-J.ネルー(インド初代首相)

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11 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
こんにちは (テレビのお守り)
2007-04-17 01:49:12
私のブログで
こちらの記事を紹介させて頂きましたので
ご連絡させて頂きました。

紹介記事は
http://tvnomori.blog95.fc2.com/blog-entry-264.html
です。
返信する
削除対象者 (Mars)
2007-04-17 20:48:43
こんばんは、mugiさん。

私の勝手な妄想で申し訳ないですが、米国での代理母は、金銭的な取引があるからこそ、受け入れているのでは、と思います。特に、出産した事に対する報酬、子への報酬(子が受ける権利のX%をよこせ!)で、宗教的価値観よりも、金銭的価値観の方が大だと思います。

向井さんの場合、その子の戸籍受理にも一悶着がありましたね。また、離婚した女性の再婚禁止にしても、(その後に生まれた子の)遺産相続等の問題を孕むので、安易に考えるのはどうかと思います。この事に関しても、感情的(勘定的)理論で世論に訴えるマスコミや政党は、、、。小○的以上に問題を単純化、すり替えを行っているように思えます。

キ○スト狂、もといキ○スト教的には、性、血、内臓、子を売るのでは、順位が付いているのでしょうか?
(ま、キ○スト教的には、どれも売り買いしているでしょうけど。)
返信する
コメント、ありがとうございます (mugi)
2007-04-17 21:50:52
>テレビのお守りさん、初めまして。
私の記事を紹介して頂いて、有難うございました。
他のブロガーさんの記事も、とても参考になりました。


>こんばんは、Marsさん。

私も米国のみならず他の国の代理母も所詮は金銭が動機だと思います。「奉仕」は口実で本音はカネ。
もし無償で代理母を引き受け、例え障害児が生まれて依頼人が引取りを拒否しても、ちゃんと育てるなら真の奉仕ですが、そんな殊勝な女性はいるのでしょうか?

向井さんのような金持ちは代理母も可能ですが、一般庶民はそれも望めない。
某大臣の「女性は生む機械」発言にヒステリックに反応した野党、マスゴミは、金持ちが貧しい女性に子供を産ませている状態には何も言わない。代償が2百数十万円程度とは、割に合わない搾取です。

米国の生殖ビジネスも白人がランクのトップだとか。白人で金髪碧眼、IQが高いとなると買い手が群がるそうです。
返信する
お邪魔します (ブロガー(志望))
2007-04-17 22:08:15
お邪魔します。

>もし無償で代理母を引き受け、例え障害児が生まれて依頼人が引取りを拒否しても、ちゃんと育てるなら真の奉仕ですが、そんな殊勝な女性はいるのでしょうか?

 それ以前に「代理出産者は中流以下の女性ばかり
で、富裕層の女性がいない」と聞いた事があります。
ボランティアなら余裕のある富裕層の方が多くなるは
ずではないでしょうか。

>今や病気で死亡した夫の凍結精子で、妻が伴侶の死後出産したケースさえあるほどだ。

 アメリカでとんでもなく歳の離れた大富豪(既に死
亡)と結婚した元プレイメイトが急死しましたが、彼
女の赤子の娘が(我こそが父親と名乗り出ている男が
複数いる)「大富豪から密かに採取した精子で元プレ
イメイトが作った子供ではないか」という説もあると
聞いた事があります。
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凍結精子 (mugi)
2007-04-18 21:42:35
>ブロガー(志望)さん、こんばんは。

私もネットで検索したら、代理母たちはやはり中流以下の女性だったという記事を拝見しました。
向井さんは金で貧しいアメリカ女性に子供を産ませた、と批判する意見も結構見かけましたが、これは的外れとはいえませんね。

アメリカの大富豪の例はNHKでも取り上げましたね。DNA鑑定で一応父親は判明しましたが、凍結精子でも子供をつくれるとは凄い時代になったものです。精子を取り違えた、なんてミスも起こるかも。
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レスありがとうございます (ブロガー(志望))
2007-04-19 21:02:43
mugiさん、レスありがとうございます。

>精子を取り違えた、なんてミスも起こるかも。

 確かテレビで「アメリカで白人夫妻の間に生まれた
双子、しかし片方は肌が黒い明らかに人種の違う子
供」というのを見たことがあります。どうやら「体外
受精の際に別の男性(人種が異なる)の精子が混入し
たため」ようですが。子供が物心ついたら一体どうな
るのでしょう。最悪『華麗なる一族』の万俵鉄平のよ
うに「自分の存在自体を自ら否定する」ところまで追
い込まれるかも。

 最後に例の元プレイメイトに関してお教えいただき
ありがとうございます。また記事を探してみます。
返信する
ミス (mugi)
2007-04-19 21:47:00
>ブロガー(志望)さん
こちらこそ、再度コメントをありがとうございます。

私もうろ覚えで、アメリカの精子混入例を見た記憶があったので、このようなミスはまた繰り返されるだろうと思いました。
肌の黒い方の子供は他人事ながらどうなるのでしょうね?最悪の場合、親から認められない可能性があります。
これも進み過ぎた科学の悲劇です。
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Unknown (Unknown)
2007-09-17 10:30:14
そもそも日本とは風土が違う諸外国の制度を日本に取り入れようとすること自体おかしなことだと思う。
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ビジネス (mugi)
2007-09-17 21:49:25
>Unknownさん
代理母など、所詮ハイテク借り腹に過ぎない。貧しい人や子供がほしい親の切実な思いを利用したあこぎなビジネス。
その後ろめたさを隠すため、欧米では~、を口実にしてるに過ぎない。
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授かりもの (ハハサウルス)
2008-01-17 14:20:28
TB有難うございました。また、記事内でご紹介されていた記事も読ませて頂きました。

「代理母」の問題は、向井さんの件で社会問題となり、賛否両論ですね。私は反対の立場です。感情論だけで個別に考えると、同情の気持ちもないわけではないのですが、それを法整備するとなると、あまりにクリアしなければならない問題が多く、感情論だけで、OKしてしまうことは避けなければならないと思います。
向井さん夫婦の場合は、金銭面でも他の面でも恵まれているケースですので、これを一般に当てはめることは出来ないでしょうし、「生まれてきた命なんだから」という主張は、人間の作意あっての場合、何だかご都合主義のような感じがします。

私は幸い二児に恵まれましたが、なかなか授からなかった期間もあり、それでもその時は「人為的なことはしない」選択をしていました。個々の考えはあるでしょうが、感情に流されての「代理母」容認には反対です。親の立場からだけでなく、生まれてくる子どもの立場から考えてみたらどうなのでしょう。

ちなみに私は自分が「代理母」になるつもりは、決してありません。あの妊娠中の言葉に出来ないような幸福感、子どもとの一体感、産んだら手放せないと思います。女性は妊娠中から「母」なのです。
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