私の書棚に『中世騎士物語』(岩波文庫)の本がある。編集したのがアメリカ人ブルフィンチ(1796-1867)のためか、アーサー王と円卓の騎士を
中心に英国の神話や伝説が収録されている。「騎士物語」を読まれた方の感想は様々だろうが、私はアーサーはじめ勇敢な騎士たちの冒険譚よりも、俗物根性の
ため不倫話のほうが印象に残った。特にアーサー王の后ギニヴィア(グウェネヴィアとも表記される)と、円卓の騎士ラーンスロットとの許されぬ恋は映画でも
ハイライトの一つである。
アーサーとギニヴィアの結婚を計画したのは、王の顧問でもある魔法使いマーリンだが、アーサーはギニヴィアの 美しさに心を奪われ、彼女は彼の武勇に惹かれ、二人は祝福されて夫婦となる。にも関わらず、18歳になったばかりのラーンスロットが騎士になるため、アー サー王の宮廷に出仕すると、一目で王妃ギニヴィアは虜となり、ラーンスロットも同時に生涯を貫く恋に落ちる。
この時ギニヴィアは何歳だったかは書かれてないが、ラーンスロットより何歳も年上だったのは確かだ。映画『トゥール・ナイト』では、アーサー王がショーン・コネリー、ラーンスロットがリチャード・ギアに対し、ギニヴィアは若い女優が扮していたが、これは映画の脚色だ。同じ不倫でもトリスタンとイゾルテのように、誤って媚薬を飲んだわけではないから、まさに不義そのもの。
ギニヴィア、ラーンスロット共に決して軽薄な浮気者ではないが(「騎士物語」にそんな者は登場しない)、それだけに一途な思いは痛ましい。武勇、人品、美 貌にも恵まれたラーンスロットは当然他の女たちからも慕われるが、彼は王妃への愛を貫く。女魔術師を含む女たちに監禁され、自分たちの誰か一人を選ばなけ れば解放しない、と迫られても、「私は卑しい関係を持つために貴女方の一人を選ぶよりは、真に愛する人への尊敬を抱いて死ぬ方を選ぶ」の拒絶の台詞は中世騎士物語ならでは。彼はある隠者にこうも懺悔している。
「私の行った全ての武勲はほとんどみな王妃へのためであった。正しい戦も正しくない戦も、彼女のために戦ったのだ。ただの一度も神のために戦ったということはなかった。崇拝を勝ち得て、より深く愛されたいためばかりであった…」
妻の浮気は「知らぬは亭主ばかりなり」と言われる。宮廷では王妃と騎士ラーンスロットの仲は既に取り沙汰されており、これをアーサー王に告げる者もいた。 だが、アーサーは確かな証拠なしに信じようとしなかった。気付かないのは不可解だが、最も信頼を寄せる忠義な騎士と妻が不倫関係に陥っているのを直視する のは彼にも恐ろしかったかもしれない。ついに告げ口者は2人の密会現場を押さえ、ラーンスロットは彼らを返り討ちにし、その場を逃れるが、残された王妃は 当時の法に従い焼殺されることになった。アーサー王が苦悶したのは書くまでもない。
処刑される寸前の王妃を救出したのがラーンスロッ ト。彼は手向かう者を尽く斬り、その犠牲者にはアーサー王の甥も含まれていた。こうなっては王とかつての臣下の戦いは避けられない。王は夥しい騎士たちを 召集するが、ラーンスロットの元にも多くの騎士が集まった。長年の裏切りに憎悪に燃える王と、何としても王への殺害を避けたいラーンスロットだが、一旦始 まった戦は簡単に治まるものではない。彼らが争っている隙に真の反逆者が現れ、アーサー王は反逆者との血みどろの戦いで敵を倒すものの、彼自身も戦死す る。
王の死後、王妃とラーンスロットはそれぞれ信仰の道に入り、祈りと苦行の日々を送る。神に仕える暮しから6年後、王妃が天に召され、それから6週間後に愛人も後を追う。
アーサー王の出生は父の不倫からきていた。臣下の騎士の美しい妻に横恋慕したアーサーの父は、彼女を我が物にしようと戦を仕掛ける。魔法使いマーリンは父 王の姿を騎士そっくりの姿に変え、何度か妻を訪ねさせるほどなので、騎士が負けるのは当然だ。騎士の戦死後、父王はその未亡人と強引に結婚するから、略奪 婚そのものだ。似たようなことをしている旧約聖書のダビデ王は悔い改めるが、アーサーの父の懺悔は描かれていない。父の因果が子に報い、ではないだろう が、妻の不倫が元でアーサー王も戦死する。
2年前見た映画『キング・アーサー』は、弓の名手の女戦士ばかりでなく、半裸体の体にペインティングをした姿で登場するギニヴィアに唖然としたが、ラーンスロットとの関係は全くなしのストーリーは、古典を楽しんだ者からすればつまらなかった。
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アーサーとギニヴィアの結婚を計画したのは、王の顧問でもある魔法使いマーリンだが、アーサーはギニヴィアの 美しさに心を奪われ、彼女は彼の武勇に惹かれ、二人は祝福されて夫婦となる。にも関わらず、18歳になったばかりのラーンスロットが騎士になるため、アー サー王の宮廷に出仕すると、一目で王妃ギニヴィアは虜となり、ラーンスロットも同時に生涯を貫く恋に落ちる。
この時ギニヴィアは何歳だったかは書かれてないが、ラーンスロットより何歳も年上だったのは確かだ。映画『トゥール・ナイト』では、アーサー王がショーン・コネリー、ラーンスロットがリチャード・ギアに対し、ギニヴィアは若い女優が扮していたが、これは映画の脚色だ。同じ不倫でもトリスタンとイゾルテのように、誤って媚薬を飲んだわけではないから、まさに不義そのもの。
ギニヴィア、ラーンスロット共に決して軽薄な浮気者ではないが(「騎士物語」にそんな者は登場しない)、それだけに一途な思いは痛ましい。武勇、人品、美 貌にも恵まれたラーンスロットは当然他の女たちからも慕われるが、彼は王妃への愛を貫く。女魔術師を含む女たちに監禁され、自分たちの誰か一人を選ばなけ れば解放しない、と迫られても、「私は卑しい関係を持つために貴女方の一人を選ぶよりは、真に愛する人への尊敬を抱いて死ぬ方を選ぶ」の拒絶の台詞は中世騎士物語ならでは。彼はある隠者にこうも懺悔している。
「私の行った全ての武勲はほとんどみな王妃へのためであった。正しい戦も正しくない戦も、彼女のために戦ったのだ。ただの一度も神のために戦ったということはなかった。崇拝を勝ち得て、より深く愛されたいためばかりであった…」
妻の浮気は「知らぬは亭主ばかりなり」と言われる。宮廷では王妃と騎士ラーンスロットの仲は既に取り沙汰されており、これをアーサー王に告げる者もいた。 だが、アーサーは確かな証拠なしに信じようとしなかった。気付かないのは不可解だが、最も信頼を寄せる忠義な騎士と妻が不倫関係に陥っているのを直視する のは彼にも恐ろしかったかもしれない。ついに告げ口者は2人の密会現場を押さえ、ラーンスロットは彼らを返り討ちにし、その場を逃れるが、残された王妃は 当時の法に従い焼殺されることになった。アーサー王が苦悶したのは書くまでもない。
処刑される寸前の王妃を救出したのがラーンスロッ ト。彼は手向かう者を尽く斬り、その犠牲者にはアーサー王の甥も含まれていた。こうなっては王とかつての臣下の戦いは避けられない。王は夥しい騎士たちを 召集するが、ラーンスロットの元にも多くの騎士が集まった。長年の裏切りに憎悪に燃える王と、何としても王への殺害を避けたいラーンスロットだが、一旦始 まった戦は簡単に治まるものではない。彼らが争っている隙に真の反逆者が現れ、アーサー王は反逆者との血みどろの戦いで敵を倒すものの、彼自身も戦死す る。
王の死後、王妃とラーンスロットはそれぞれ信仰の道に入り、祈りと苦行の日々を送る。神に仕える暮しから6年後、王妃が天に召され、それから6週間後に愛人も後を追う。
アーサー王の出生は父の不倫からきていた。臣下の騎士の美しい妻に横恋慕したアーサーの父は、彼女を我が物にしようと戦を仕掛ける。魔法使いマーリンは父 王の姿を騎士そっくりの姿に変え、何度か妻を訪ねさせるほどなので、騎士が負けるのは当然だ。騎士の戦死後、父王はその未亡人と強引に結婚するから、略奪 婚そのものだ。似たようなことをしている旧約聖書のダビデ王は悔い改めるが、アーサーの父の懺悔は描かれていない。父の因果が子に報い、ではないだろう が、妻の不倫が元でアーサー王も戦死する。
2年前見た映画『キング・アーサー』は、弓の名手の女戦士ばかりでなく、半裸体の体にペインティングをした姿で登場するギニヴィアに唖然としたが、ラーンスロットとの関係は全くなしのストーリーは、古典を楽しんだ者からすればつまらなかった。
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佐藤賢一「双頭の鷲」新潮文庫デモデュ・ゲクランの晩年は妻の不貞になやまされています。
栗本薫のグイン・サーガもこのへんの影響があるのかな。
ふと思ったのですが、アーサー王は本当に妃の不倫を全く存じていなかったのでしょうか?私には何となく感じつつも、信じたくなかったのでは、と妄想してしまいます。一般的に男性の方に勘がないのも、思考や論理で鈍るのでは、とも感じます。
騎士でありながら、不倫ですが、妃への純粋な愛に身を焦がした者に、三銃士のダルタニアンもいましたね。これはディカプリオ物だけでしょうか?
不倫を文化とのたまう俳優もいますが、男も女も、色々ですね。
「双頭の鷲」は未見ですが、「カエサルを撃て」で、いかに誘拐されたにせよカエサルの妻は、ガリアの指導者ウェルキンゲトリクスに“感じて”しまってましたね。性的に大らかな古代でも精神的には不貞行為です。
栗本薫さんのグイン・サーガは、アメリカン・ヒロイック・ファンタジーの影響もあると言われますね。
私もアーサー王が后の不倫に勘付かなかったのか疑問ですが、ラーンスロットは騎士の鑑ともいうべき人物だったので、疑惑を直視できなかったかもしれません。
三銃士ですが、ハリウッド映画はかなり脚色されてます。原作ではこちらも不倫バンバン、ダルタニアンの恋人コンスタンスは実は人妻、ポルトスも金持ちの奥さんにかなり貢がせてます。
不倫は文化よりも人間の業ですね。イスラム圏のような姦通に厳罰のところでも、あるのだから。
話は最後に不倫した王妃が修道院に入った後に和解したり、ランスロットが救援に駆け付けたりと無茶苦茶ですが映像の美しさは特筆しますし、当時の戦い方、剣は斬る物では無い。
甲冑を身に付けている者には斬るよるも打撃が有効的なんかはこれまでの映画では表\現できなかった点を補っているのだけで観る価値があると思います。
しかし?A?p?Yといえど?jの?Yみは共通ですね?B?Dき嫌いではありましょうが?A?lは?p?Yのこう言う一面を?mるほうがしらないよりも?A?yしいですね?B
私もこれまで見たアーサー王の映画では『エクスカリバー』が良かったです。
映画の最後に湖から腕が出てきて、投げ入れられたエクスカリバーをしっかり受け取り、そのまま湖に沈むシーン(原作では3度腕を振り回す)が気に入ってます。
アーサー王は日本のアニメにもなってますが、当然不倫話は一切なし。
>似非紳士さん
お久しぶりです! 一年近くご無沙汰しておりましたが、御変わりありませんでしたか?
ライブドアのブログで復活されたのは何よりです。残念ながらgooとライブドアは相性が悪いのか、文字化けとなりましたが…
何処も同じく不倫話は面白いです。男と女に色恋沙汰がある限り、永遠に続く悲喜劇でしょうね。