トーキング・マイノリティ

読書、歴史、映画の話を主に書き綴る電子随想

大宇宙の魔女

2006-07-25 21:08:37 | 読書/小説
 著者名は全く知らないが、カバーイラストにつられて購入した本がある。『大宇宙の魔女』(ハヤカワSF文庫、C.L.ムーア著)もその一つで、表紙や本中のイラストが漫画家の松本零士さんなので、つい買って読んだが、予想以上に面白かった。

 この『大宇宙の魔女』は短編シリーズものとなっており、熱戦銃一丁を頼りに星から星へと渡り歩く地球人無宿者ノースウェスト・スミスが主人公。1930年代に書かれた小説なので、火星人や金星人も登場するし、スミスの相棒も金星人だ。一応スペースオペラのカテゴリーに分類されるが、女性作家ゆえか他のスペースオペラとはかなり色合いが違う。

 ノースウェスト・スミス シリーズには毎回様々な美女が登場し、読者を楽しませるが、地球人の美女は一度しか登場したことがない。大半は金星人で、この作品に限らないが金星人は美男美女ぞろいの設定なのだ。金星人の美女について、本ではこう描かれている。
この素晴らしい生き物、すらりと伸びた手足、ミルクのように白い肌、ブロンズの髪、愛らしい黄金色の顔…」「黒いカーペットの上に、彼女の輝くブロンズの巻毛が色鮮やかに広がっている。緑のマントがめくれ上がり、その肉体のまろやかさを露わにしていた。宇宙広しといえど、黒い床に伏した彼女のクリームがかった白い肉体ほど美しいものはなかったに違いない
 かなり官能的で、SF小説にはまず見られない描写だ。

  ただ、この美女たちは大半が魔女であり、吸血鬼的な怪物なのだ。血を吸う美女も登場するが、多くは男の生命エネルギーや魂を自らの栄養素として吸収する。 主人公のスミスは宇宙パトロールのお尋ね者の設定にも係らず、荒くれ男の面影もなく、いつも事件に巻き込まれる被害者タイプだ。毎回彼の生命は魔女たちに より極限まで追い詰められるが、あわやという時相棒に助けられたり、熱戦銃でカタが付く、というパターン。美女にイタブられる主人公を執拗に描くのはいか にも女の作家らしいが、翻訳した仁賀克雄さんが実に上手い解説をしている。
女性の男性に対するサディステックな願望と、スミスが味わうマゾヒスティックな苦痛と恍惚が暗示的、間接的に見られ、それが甘美なロマンティシズムとエロティシズムの糖衣錠に包まれていると言っておこう

 毎度魔女にヤラレるノースウェスト・スミスだが、このシリーズは男女共に人気がある。美の化身に骨抜きにされ、下手をすれば命を落とすことになっても、昇天するのは男の密かな願望でもあるし、男を惑わしたいのは女の欲望だからだろうか。

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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
さすがに… (セリ摘み王キモト)
2006-07-26 00:28:03
題名は知ってるものの読んだ事はありません(>_<)。



しかしこの小説で登場する魔女達は『スペース・ヴァンプァイア』の元ネタみたいですね。



そういえば、かなり昔に『私は金星人よ』と言っていた金髪美女がいましたけど…
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あれ (セリ摘み王キモト)
2006-07-26 00:35:41
途中で切れてしましましたね。



あの顔文字を入れるとgooでは切れてしまいますね。



この小説での魔女は恐らく『スペース・ヴァンプァイア』の元ネタみたいですね。



後、昔に『私は金星人よ』と言っていた金髪美女はどうなったんでしょうか?
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金星人 (似非紳士)
2006-07-26 03:08:08
前回のコメント、思う様文字化けしてました・・・、申\し訳ないです。

さて、金星人が美人なのは金星の守護が美の女神なんだからでしょうが、金星にはすごい美女がすんでいる!なんてロマンを感じられた時代が羨ましいですね!
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贅沢者 (Mars)
2006-07-26 19:51:20
こんばんは、mugiさん。



これは以前、ご紹介しましたコブラでの話です。主人公は死と隣合わせの生活に疲れ、名前も顔も、記憶までも変えて得た平凡な生活も長続きせずに、元の危険な生活に飛び込みました。これは、多くの人の場合もそうでしょう。只、いつもあるのが平凡の生活ですが。



また、多くの人は、身を滅ぼしかねない恋にも憧れますね。特に男の場合、不釣り合いの美女を欲するのですから、どうしようもないですね。幸福とは、分を知り、わきまえることから始まりますが、凡人の私には、煩悩ばかりです(汗)。
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コメント、ありがとうございます (mugi)
2006-07-26 21:19:14
>キモトさん

顔文字で切れるとは、gooも困ったものです。

『スペース・ヴァンプァイア』、懐かしいですね~

あれは黒髪美人でしたが、金星人は大抵金髪との設定になるようですね。





>似非紳士さん

文字化けが直り、安心しました。ひょっとして文字化けが続くのかと思いましたから。

古典になってしまったE.R.バロウズの『火星』シリーズには、すごい火星美女が登場します。昔のSFを読み返すと、古きよき時代が殊更感じられますね。
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Love Kills (mugi)
2006-07-26 21:20:25
こんばんは、Marsさん。



私はコブラは未見ですが、波乱万丈の無法者生活を送った男は、到底平凡な暮しには満足できないでしょうね。

昔読んだF.フォーサイスの小説『戦争の犬たち』は傭兵を描いたものですが、主人公は平凡な暮らしをこう言うのです。

「養鶏場の鳥のように下らない生き方もある。下らない会社に勤めて、下らない上司に仕えて、下らない政治家が下らない事に税金を使うのを横目で見ている…」



燃えるような恋に憧れない人はいないでしょうが、それを体験する方は至って少ないでしょうね。ただ、歌にもあるように、愛には何の補償もないし、待ったなし。時には愛は人を殺す。
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