その一、その二の続き
ミッキーマックの書込みで一番噴飯モノだったのは、「トルコが親日のような「ふり」をしているのは、日本のクルド人に対する圧政に対する怒りをそらすためなの」!
トルコのクルド人圧政に怒る日本人など、左派が多いにせよ全くの少数派である中東オタク以外どれだけいる?そもそも、クルド人やクルディスタンという名称を知らぬ人も少なくないではないか?世界史に無関心ならばアラブやイラン、トルコの区別もつかない人が殆どだろう。国境線だけで国名を入れない中東諸国の地図を見て、これはどこそこの国で首都は何々…と現役学生でも正確に答えられるのは多くないはず。
クルドはおろか、ウイグルやチベットに対する圧政を怒る日本人もそれほど多いだろうか?一部の贔屓者だろうし、一般社会人ならば日々の仕事や暮らしに追われ、他国の人権状況に疎い人が多数派だろう。冷たいが所詮他人事に過ぎず、日本以外の国々も支配される弱国に同情はしても、行動も起こさない。「自分『だけ』が思ってることを、勝手に『一般人』に広げちゃったり」しているのは他ならぬミッキーマックであり、この主張は彼自身の投影そのものである。
「日本政府は、中国のチベットに対する圧政や、セルビアのコソボに対する圧政を非難する」というのも、実に不可解である。後者はさて置き、チベット問題で日本政府が中国に物申したことがあったのか?タカ派と呼ばれる一部政治家を除き、日本政府にそれほどの気概があるなら、あの国との外交はもっと上手くいっていたはず。
コソボも武装組織コソボ解放軍がセルビア政府や警察署などを標的とした攻撃を行っており、セルビア側がテロ組織と断じたのは当然だろう。「コソボ解放軍の指導部にはスウェーデン、ベルギー、イギリス、ドイツ、アメリカ合衆国、フランスからの外国人も含まれていた」(wiki)という。20世紀末のコソボ紛争時も中東のムスリムが義勇兵として参戦していた。
「はっきり言って一般市民も日本のことさえ知らない(中国の一部と思ってるのもいるよ)人が多い」というミッキーマックの断言は、残念ながら事実である。日本人が期待するほど、一般トルコ人は日本のことを知らない。それも地理的・歴史的な面からすれば当たり前ではないか!トルコは日本ほど教育熱心ではないし、教育水準も高いとは言えない。移民先も欧州中心であり、東アジアに関心を持つのは変わり者くらいなのだ。トルコに限らず他の中東世界も似たようなものであり、中国人と日本人、朝鮮人をゴッチャにしている。
「トルコ人の約40%が日本に関心を持ってない…」の箇所に、逆に私は驚いた。仮にこの数値が事実とすれば、約60%ちかくが日本に何らかの関心を抱いているということではないか?一般に中東の人々は忘れっぽい日本人と異なるが、1世紀以上も昔のエルトゥールル号遭難事件や日露戦争のことを憶えているトルコ人の方が少数派だろう。
そしてトルコに関心を持っている日本人も何%いるだろうか?案外40%以下かもしれないし、トルコと言えば世界三大料理や観光の国といったイメージが関の山ではないか?今も昔も殆どの日本人は中東に無関心だし、この地域はテロやイスラム原理主義などで印象が悪い。
「今回の地震の被害を受けたのはクルド人の多く住む地域だから、多分義援金を出してもきちんと使ってくれるかどうかは確信できない」とのミッキーマツクの懸念は私も同意する。残念ながらトルコも含め中東では、クルド人のようなマイノリティが居住する地域に限らず、肝心の被災者に支援が届く前に、現地人関係者が着服するケースが珍しくない。中東では部族長の様な現地の有力者に“付け届け”が必要な習慣があり、それを怠ると被災地での活動も難しい面があるのだ。アラビアのロレンスも族長からよく土産物を頼まれていた。日本人から見れば不愉快だろうが、そういう風土なのだ。
先の東日本大震災でも義援金を横領した一部不心得者がおり、中東にカネが渡る以前に支援団体が着服する可能性もないとは言い切れない。大震災が起きるや一斉に支援団体が登場するが、中には怪しげな組織もあり、善意の義捐金が何に使われたのか不明というケースもある。NGOの本場欧米でもその種の怪しげな組織は珍しくないらしく、宗教関係にそれが多いという。
その四に続く
◆関連記事:「中東の笛-イスラム世界の縁故主義」
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いつも読ませていただいています。
私は以前国際交流団体でアルバイトをしていた経験があります。その時に知り合いになったトルコからの留学生に、この事件はトルコの教科書で扱われていると教えてもらいました。
実際に数年後イスタンブールに旅行に行った際、その箇所をこのトルコ人に見せてもらいました。
その時の印象からすると、トルコ人にとってこの事件はよく知られていると思いましたが、違うのでしょうか。
お久しぶりです。2月にもあなたからコメントを頂きました。
http://blog.goo.ne.jp/mugi411/e/b8f95dff47b0399f36a6693c9bcc4187#comment-list
来日するほどのトルコ人留学生ならばインテリだし、祖国では将来エリート階級になるのは想像が付きます。そのような人物ならば、エルトゥールル号事件を知らないはずがない。四半世紀以上も前ですが、私の学生時代にトルコ人留学生の講演があり、彼もまたこの事件の話をしていました。
『遠くて近い国トルコ』(大島直政著、中公新書162)には、著者の留学体験談が語られ、イスタンブルやアンカラ市民が東洋人を見かけると、やたら「ジャポン?」と聞いてきたそうです。「チン(中国人)?」と聞くことはなかったし、相手が中国人と分かると、つまらなそうに去ったとか。ただし大島氏が留学したのは1960年代後半で、この新書の初版は昭和43(1968)年と半世紀近くも前です。
そして非インテリ層となると、微妙なところがありますね。最近のトルコ市場では中国や韓国の方が日本を圧倒している。それでも中国に関してはウイグルのこともあり、良い感情は抱いていない。知識人となれば、突厥時代のことまで挙げる人もいるとか。
中東オタクでもアラブは持ち上げてもトルコを貶す者もいるのです。総じてこの類は左寄りで、トルコナショナリズムを非難する。トルコの歴史教科書はなってないとまで言う研究者もいます。