トーキング・マイノリティ

読書、歴史、映画の話を主に書き綴る電子随想

大宇宙の墓場

2006-07-26 21:13:45 | 読書/小説
 ハヤカワSF文庫に『大宇宙の墓場』『恐怖の疫病宇宙船』という本がある。この二作品はシリーズもので、通商員の主人公が乗る船名から“太陽の女王号”シリーズとも呼ばれる。著者アンドレ・ノートンは女性作家だが、“ハードSF”と評される骨太な作風で、'50年代に書かれているため、上記二作品とも健全で良識性のある小説だった。

  未来の就職選別が面白い。各人のIDプレートを「サイコ」と呼ばれるコンピュータに差し込み、機械が走査、判別して勤務組織を決定する。一度その機械が決 定を下せば、不服申し立ては認められない。主人公の若き通商員デイン・ソーソンも「サイコ」の決定により、自由業者の宇宙船“太陽の女王号”に配属され る。自由業者とは貿易業界のいかなる組織にも属さず、一攫千金の夢を賭け危険な辺境に乗り出す、いわば宇宙の放浪探検家たちの一種だ。
 未来の貿 易業界は限られた一族に独占されつつあり、息子が父もしくは兄弟の跡を継ぐケースが多い、との設定も興味深い。SFといえ、現実社会を反映してるのは明ら かで、アメリカもコネ社会なのが垣間見える。巨大企業が幅を利かせ、その社員の息子もまた安定した企業に就職する。何のつてもなく訓練所に入ることさえ難 しくなっているのに、身寄りのない孤児のデインは訓練所を見事卒業した。

 ちょうど銀河系調査局の競売があり、“太陽の女王号”の自由業 者はリンボーという惑星の交易権を競り落とす。女王号一行はその星に向うが、そこははるか昔に滅亡した「先史文明」の恐るべき遺物が残されている星だった のを、到着後に知る。その遺物を利用し、犯罪者が巣食っているところでもあった。女王号乗組員たちは犯罪者たちとの闘いを迫られる。

 こ の小説を書いたのは女性作家だが、女の登場人物は皆無で硬質な内容ながらも、登場人物や主人公の心理描写が丹念なのはやはり女性らしい。主人公がいい。 「ひょろりと背の高い、まだごく若い青年」で、「まことに魅力のない顔」とあるので、美男ではなく、業界入りしたばかりの未熟さで失敗もする。だが、若さ ゆえの情熱と闘志、生来の頑固な精神の持ち主なのは、ちょうど学生時代にこの作品を読んだので、大いに共感させられた。美男で頭が切れ、常にクール、皮肉 屋の先輩がおり、さすがに主人公も彼を苦手としてるが、このタイプが職場の同僚にいれば誰もが面白くないだろう。この皮肉屋先輩も実は子供の頃に悲惨な戦 争体験があり、そのため常に物事に対しシニカルな姿勢になったのだ。
 女王号メンバーに料理番会計士のフランク・ムラという人物がいる。業界入り して久しいベテランにせよ、冷静沈着な行動と態度で主人公が信頼を寄せる彼は何と日本人の子孫という設定になっていた。未来の日本はアトランティス大陸よ ろしく、火山の爆発とそれに続く津波の猛威が全国民を二日と一晩のうちに葬り、地球上の地図から消された、との話は、いかにフィクションでも気分が悪い。

 “太陽の女王号”シリーズ二作品もイラストが松本零士さんなので、買った本だ。シリーズはさらに続いているはずだが、どうしたものか日本では第二巻以降出版されてない。ハヤカワには是非続きを出してほしいものだ。

よろしかったら、クリックお願いします


最新の画像もっと見る

9 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
彼女の名は (Mars)
2006-07-27 20:52:21
こんばんは。



宇宙船の名一つにしても、その由来を考察するのも面白いかもしれませんね。エンタープライズ、ミレニアム・ファルコン号、ユリシーズ等。ヤ○トに出てくるアンドロメダは艦隊旗艦を担える攻撃・防御、通信力を兼ね備えた美しい艦だと思います。まさしく、機能\美ですね。



ガン○ムにもサイコシステムというものもあります。それは、人間の意思を機械が直接受け、操作なしで武器を動かすものです。しかし、これは普通の人間には扱えないシロモノです。人工的に作られた強化人間にとっては戦闘強いるものでもあります。
返信する
追伸 (Mars)
2006-07-27 21:01:24
携帯電話や電子レンジ等の多くの民政品は、元は軍事目的に開発されたものです。これからは多くのロボットが開発され、多くの血が流されるでしょう。便利な生活の裏にあるものを考えてみるのも、決してムダだとは思いません(ロボットや軍事を全て否定するのではなく、軍事そのものを学ぶべきなのは、言うまでもありません)。
返信する
名前の由来 (mugi)
2006-07-27 21:49:20
こんばんは、Marsさん。



“太陽の女王”号の名前の由来は小説に何故か書かれてありませんでした。

ミレニアム・ファルコン号はどの物語に出る船でしょう?

アンドロメダはメカオンチの私でも、美しいと思いましたね。拡散波動砲を備えていたのに、白色彗星にあっさりとやられましたが。



ガン○ムのサイコシステムは初耳です。サイコというと昔の映画の影響から、まず人格異常殺人者を思い浮かべます。



家電製品が元来軍事目的に開発されたものとは知りませんでした。

ヤ○トにもアンドロイド兵士が登場しましたね。SFならずともロボット兵士も開発が進むと思いますよ。このロボットを人類が制御できなくなったら、ターミネーターの世界です。
返信する
自転車競争 (Mars)
2006-07-28 01:48:54
こんばんは、mugiさん。



ミレニアム・ファルコン号は、ハ○・ソ○船長の船です。また、某曲では、ジ○ーズと共に、好きではない、とされた映画ですね。



ガン○ムの世界では、人の存在を肌で感じる事ができる、ニュータイプといわれる人間(人類の革新、血縁説もありますが、そうでない例も多々あり)と、普通のオールドタイプに分かれます。そして、第三として、薬物や刷込みなどで強化した、強化人間というものもいます。サイコシステム(サイコミュ・システム)は強力な武器であると同時に、諸刃の剣でもあります。

(サイコミュとは、サイコ・コミュニケーターの略で、詳細はこちらです。

http://ja.wikipedia.org/wiki/サイコミュ)



家電製品に限らず、現在も多くのロボットが、日夜開発されています。それも、ア○ムやガン○ムのような完全な人型までとはいきませんが。最近、戦闘や緊張が続いている中東などでも、無人型偵察機(更には、ミサイル攻撃可能なものもあります)、小型無人戦車、車の無人操縦システムなど、多くの分野で開発が進んでいます。これは、日本も無関係ではなく、軍事転用可能なRCヘリが、日本企業によって中国に輸出された、という事実もあります(RCヘリで、農薬をまくように、BC兵器をまくとどうなるか。そういったことも踏まえ、規制もできつつありますが、、、)。



兵器が戦場を危うくするという者もいますが、結局の所、技術がいくら進歩しても、人間そのものが進化していない、という証左にもなるのでは、とも思います。それも踏まえて、民間防衛(http://ja.wikipedia.org/wiki/民間防衛)から取り組まなければならいでしょうね(政府や政治かも、信頼に足る人物がほとんどいませんから(涙))。

返信する
低レベル (似非紳士)
2006-07-28 14:47:55
皆さんの高いレベルの話にはついてゆけませんが、個人的にはスタートレックの船が好きですね。

2001年宇宙の旅のコンピューターHALがIBMをづらしたものだというのが最高知識の似非紳士でしたw
返信する
オールドタイプ (mugi)
2006-07-28 21:20:08
こんばんは、Marsさん。



ミレニアム・ファルコン号は、あのス○ーウォーズに出てきた船でしたか!私もあの映画は好みではありません。前評判につられて映画館で観た中で、最もつまらなかったものの一つです。



ロボットものが苦手なのでガン○ムは観てませんでしたが、ニュータイプと呼ばれる人間が出てくるのはファンの友人から聞いた事があります。主人公のライバル、シャアのインド系の恋人も確かニュータイプだったのでは?

シャアと聞くとシャー(イランの王の称号)、サイコといえば、未だサイコパスしか思い浮かばないオールドタイプ人間です。



日本企業が軍事転用可能なハイテク製品を仮想敵国に輸出するのは暗い気分にさせられます。法規制しても、必ず裏をかくものが出る。

ネルーの皮肉は、現代の日本にも当てはまります。

「裕福な連中の愛国主義などというものは、財産や既得権を危地に曝すという緊張には耐えられないものらしい」 



仰るとおり科学がいかに進歩しても、人間そのものは進化どころか、むしろ退化しているとさえ感じさせられますね。機械に頼り過ぎて人間本来の五感は衰えがちになったような。
返信する
同じく低レベル (mugi)
2006-07-28 21:25:45
>似非紳士さん

スタートレックの船は私もデザインがいいと思いますね。

私もメカオンチでは劣らず低レベルで、「2001年」でHALが反乱を起こした時に、何故コンセントを抜かなかったのかが不思議でした。

あのHALにテレビの電源のようなコードがついている筈がないのに。
返信する
太陽の女王号 (kiko)
2006-08-07 21:14:47
はじめまして。〈太陽の女王号〉のファンです。



3巻以降が翻訳されないのは、3巻の話が短すぎ、続く4巻が長すぎるというページ数の問題もあるかと思いますが、私もちゃんとした邦訳版を読みたい一人です。



返信する
初めまして (mugi)
2006-08-07 22:05:03
こんばんは、kikoさん。

〈太陽の女王号〉のファンサイトがあったとは知りませんでした。さっそく拝見させて頂きます。



仰るとおりこのシリーズの全翻訳が読みたいものです。登場人物がとても魅力的で、いいですね。
返信する