トーキング・マイノリティ

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アニばら鑑賞雑感 その三

2016-02-22 21:10:03 | 漫画

その一その二の続き
 18歳の時、フェルゼンと出会うオスカルだが、それ以前に初恋はなかったの?と想像したくなる。士官学校を出て既に近衛隊で軍務に就いていたオスカル。一般の貴族の娘と違い、異性と接する機会には不足しなかったはずだが、お眼鏡に適う相手がいなかったのか?いかに美人でも、軍服で剣の達人の女は敬遠されるにせよ、何と言っても由緒ある大貴族の跡取り娘。地位や財産目当てに寄ってくる男がいても不思議はない。
 又はジェローデルのように密かに女として見ていた同僚もいたと思う。だが女として成長していないオスカルに、異性の視線を感じとるのは難しい。フェルゼンが評した通り、「金モールの軍服に香る肌を包み、さながら氷の花のように男性の眼差しを拒む」のだったのだ。

 父ジャルジェ将軍は今風の言葉でいえば毒親以外の何者でもないが、たとえどんな親でも父親なのだ。アニメ版ではあまり描かれていないが、原作では結構オスカルのファザコンぶりが出ている。横暴でもオスカルは父を敬愛しており、父も彼なりに娘を愛していた。マザコン男が恋が不得手と同じく、ファザコン娘も異性との付き合いはヘタな傾向がある。
 子供時代、オスカルの片思いはかなりいびつな印象だったし、恋の意味も知らない小学生には理解不能だった。今読み直しても、極めて不自然な感じを受けた。これが恋と言えるのか、と。

 恋している割には感情を抑え過ぎているし、恋敵への嫉妬もない。それもそのはず、初恋であっても本物の恋ではなかったのだ。「アニメ版・ベルサイユのばら徹底解説」には見事な解説があるので、そこから引用したい。
フェルゼンにひかれた理由は色々考えられるが私としては、女として生きられないオスカルが主人アントワネットの心を気遣って尽くしているうちに、恋心まで同化してしまったのだと思う。もちろん、オスカルには勝ち目はない。だが、もしフェルゼンを奪うことができても、オスカルはジャルジェ家の存続もなげうって彼の妻になっただろうか…
 だから結局、よそ様の彼だからこそオスカルはフェルゼンに恋したのではないかと思う。そもそも貴族の女たちの不幸な結婚を見て来たオスカルに結婚願望があったのかどうかは疑問。フェルゼンへの想いはただの独りよがりな、彼女の女としての恋心を満足させるためのもの。そして実際に結婚にまで至らないように自己防衛した、恋に恋する疑似恋愛だったのではないだろうか

 長く続いた不毛な片思いにけりをつけるため、生涯初めてドレスを纏い、フェルゼンと踊るのはアニメ、原作共に同じ。原作でばあやは、「しつこくドレスを作って待った甲斐があって…」と泣いて喜んでいたが、アニメ版でも実母以上にハッスルしているのは変わりない(但し、アニメ版ではこのシーンで、実母は登場しない)。これまたアニメ版にはないが、ドレスアップしたオスカルはこう言っている。
一生に一度くらい、こんな格好も悪くないだろう。だけど父上には内緒だぞ

 ドレスのエピソードから、オスカルが軍服執着の服装倒錯者などではないことが分る。美しいドレスを着て、恋い焦がれる異性と踊りたいという、女として至極当り前の本能を抱いていたのだ。同時に父の目を恐れており、父に逆らうには彼女は孝行娘過ぎた。
 ドレスを着たオスカルを父が偶然見たら、どう反応しただろう?娘の美しさに一瞬呆然と見とれながらもアラス帰りの時のように、「この馬鹿者」と思い切り殴ったか?娘には好きな男がいることを知り、動揺するのは確かだろう。そうでなければ、ドレスなど着ない。最低限、好きになった男は誰か、くらいは問い詰めていたはず。

 もしドレス姿を偶然父が見ていれば、ショックを受けた父は男として育てたことをやっと後悔したかもしれない。どれほど厳しく武術を叩き込んでも、女の本能は消えなかった。武人の血筋と天性の才能もあり、武術では並の男以上だったのがオスカルの悲運だった。武術の素質がなければ、父も軍人として育てることを早い時期で諦めていたと思う。父の期待に完璧に応えたため、いつしか将軍は本物の息子のように思い込んでしまったのやら。

 アニメ版でのオスカルは、青い縁取りのある白いドレス姿になっていて、原作よりも清楚で美しかった。原作のカラー頁では、意外にもドレスの色はピンクだったし、何処か違和感があった。やはりオスカルには白が似合っている…と感じたファンも多いのではないか?
 いずれにせよ、この時がオスカル生涯一度の女装となった。しかも、片思いに訣別するためのドレスアップだから、美しくも悲しいシーンでもある。初恋も知らぬ間に政略結婚させられたアントワネットと、十代前半から軍服を着せられ、初恋も出来なかったオスカル。女として、どちらが幸福だろうか。
その四に続く

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