その一の続き
アニばらを取り上げたサイトは多数あり、数が多すぎて全てはチェックしきれないが、様々な解釈があって面白い。その中で私が最も共感したのが、「アニメ版・ベルサイユのばら徹底解説」。“徹底解説”と銘打ってある通り、一話毎に長文の解説がされている。このサイトの解説と見解には殆ど共感できたし、アニばらの見方として大いに参考になった。
まず、“徹底解説”でハッとさせられたのが、オスカルは実は貴族社会の犠牲者だったということ。いかに父から否応なしに男として育てられ、武官の道を歩まさせられたにせよ、身分上は生活に何不自由ない大貴族の令嬢。私の子供時代、原作で最も印象的で憶えているシーンのひとつが、オスカルの食事場面だった。
パリでロザリーに出された食事は、たった一杯のスープ。しかも野菜の切れ端がほんの少し浮んでいる程度の粗食。その食事前、オスカルはロザリーに、「食事の前に何かないか?カフェ・オレかショコラか……」と頼んでいる。
現代では庶民でも気軽に口にしているカフェ・オレやショコラは、18世紀後半のフランスでは一部の金持ちや特権階級だけの飲み物だった。パンも満足に入らない庶民の暮らしを知らないオスカルゆえ、この頼みは仕方ないが、今ある食べ物はそれしかない、というロザリーの言葉に衝撃を受ける。そして自分の家の食事をこう独白する。
「私が何時も家でする食事といえば、とりどりのオードブルに何種類かのスープ、そしていく皿ものアントレやアントルメが出て、焼肉にゼリーに葡萄酒に……」
アントレやアントルメと言われても、私も含め殆どの少女読者は分らなかったろうし、アニメ版でこの独白はない。とにかく革命前のフランス貴族が豪勢な食事をしていたことだけは記憶に残った。私の1日全ての食費よりも、オスカルの1食のそれの方が上回っているのは確実だ。さぞメタボも多かったろうが、栄養がよくても貴族も意外に結核に罹っている。オスカルの場合は激務とストレスが最大の原因だが、ルイ15世の公妾、ポンパドゥール夫人も結核で逝っている。
そんな衣食住ともに贅沢な暮しをしていた大貴族令嬢オスカルが、王侯貴族社会の犠牲者だったという指摘は目からウロコだった。確かに彼女が平民に生まれていれば、普通の娘として育てられたろうし、あれほどの苦しみはなかったはず。そして武官にはならず、夫や子供のいる平民女性として、革命下でもつましく平穏に生き延びたかもしれない。
私がベルばらに夢中になっていたのは73年から74年はじめ頃であり、それ以降はアニばらを3~4回見た程度。そのためか、子供時代は女でありながら、男として生きる苦悩など想像もつかなかったし、元から単細胞ゆえ、男装の麗人、格好イイくらいにしか見てなかったのだ。やっとベルばらを再読したのが昨年であり、もう無邪気な子供の眼で見ることは出来ない。
オスカルが男として生きる苦悩をじかに味わうのは、フェルゼンへの片思いから始まる。アントワネットが王妃になったばかりの頃、王妃との親密すぎる関係を危惧、オスカルがフェルゼンに暫く祖国に戻った方がよいと忠告する。悩みつつ忠告を受け入れたフェルゼンだが、帰ろうとするオスカルに言った言葉は、今読み直してみると残酷な響きがある。
「お前…寂しくはないのか…?女の身でそのような格好をして…女としての幸せも知らずに青春をおくるのか…?」
アニメ版でもほぼ同じ台詞が使われている。事実フェルゼンが言ったとおり、女としての幸せも知らずに青春をおくることになるオスカル。もちろんフェルゼンに悪気は欠片もなかったし、オスカルは笑いながらこう言いかえしている。
「私は…父ジャルジェ将軍の跡を継ぐために生まれた時から男として育てられてきた。これで不自然だとも思わないし、寂しいと思ったこともない」
この時点ではフェルゼンへの初恋に気付かなかったオスカルは、さして寂しいとは思わなかったのではないか?恋をしたことのない者が寂しさを感じないように、彼女は自分の育ち方を不自然とも感じなかったのか?強がりもある程度はあったと思うが、オスカルの答え方は女として完全な不自然さが露骨に出ている。政略結婚をさせられたといえ、少なくともアントワネットは女としての幸せを知る青春をおくっていた。
オスカルを愛するあまり、男としての成長が止まってしまったかのようなアンドレだが、オスカルもまた父の狂育で女としての成長が出来なかったのだ。私が彼女が常に着用している軍服を「拘束服」と言ったのは、女としての自然な成長を阻害したことにある。この呼び方に反発を覚えたファンもいると思うが、私の率直な感想に過ぎない。
その三に続く
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B7%9D%E5%B3%B6%E8%8A%B3%E5%AD%90
実は昨年8月の「男装の麗人」という記事で、川島芳子のことを書いています。たぶん池田理代子氏は彼女のことを知っていて、オスカルのモデルの1人にしたと見ています。尤も私が川島芳子の名を知ったのは、昭和50年代になってからでしたが。
http://blog.goo.ne.jp/mugi411/e/d1fb93d48e12a1257375a1a54e24e472
有吉佐和子「開幕ベルは華やかに」で昭和50年代に読んだ記憶はあります。これは劇中劇で川島芳子がでてきます。有吉佐和子も娘がいましたからベルばらは知っていたかもしれません。
私自身トシもあり、自分で書いた記事の内容を忘れていることもしばしばです(汗)。生きている以上、老化は避けられませんね。
有吉佐和子の「開幕ベルは華やかに」は未読ですが、劇中劇で川島芳子が出てくるとは知りませんでした。有吉の作品で「恍惚の人」はボケ老人の代名詞になったし、「三婆」は何度もТVドラマになりました。いち早く老人問題を扱っていた作家でしたね。