死刑制度反対―外国人からのエール

　３月20日の河北新報のコラム『あすを読む』に、ロンドン大学政治経済学院名誉客員であるロナルド・ドーア氏の「外国人からのエール、反体制運動にプラスか」という題の論文が載った。その記事を要約、一部抜粋してみたい。

　ドーア氏はアメリカがイランの民主主義思想普及のため予算８千５百万ドルのファンドを設立することを取り上げ、イランの人権活動家はそれをありがた迷惑どころか絶対迷惑との話を紹介していた。14日のワシントン・ポスト紙に載ったイラン人活動家の意見はこうだ。
「あ のような宣伝活動攻勢をされると、当局が神経質になって我々は皆鬼畜米国の手先になる。おまけにその金はアメリカに無事亡命している人たちが牛耳る。我々 国内で戦っている者は言論の自由など少しずつ許された範囲を拡張するよう慎重にやっているところ、彼らは過激な事を唱えがちで、我々の仕事を難しくする。 全く愚かな、逆効果ばかりもたらす」

　イランの例を紹介した後、一転してドーア氏は日本の死刑廃止運動への共感を示す。香 港の最後の植民地立法会の政府任命議員だったＢ氏からもらったメールを紹介。Ｂ氏は後に香港民主党の党首となった李柱銘 氏と共に死刑廃止運動を推進して、可決させるのに成功したそうだ。死刑が日常茶飯事となっている中国と違い、香港は依然として死刑が禁じられているとか。 Ｂ氏は世界規模での死刑廃止運動に強い関心を持つ人で、ロサンゼルス・タイム紙の記事を添付して、日本で死刑廃止運動をどのようにして奨励できるかという問い合わせのメールだった。

　ロスの記事は1954年に死刑判決を受け、35年後になりその判決が覆されて釈放された日本人の話で、死刑執行命令書への署名を拒否した杉浦正健 法相の名も挙げ、死刑の是非についてあまり考えた事のないドーア氏がかなり啓発された記事と言っていた。
　ドーア氏はネットで「社会の倫理間を荒廃させる」「犯罪抑止効果がない」という死刑廃止を訴える「死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム90」の存在を知る。今月４日には愛知県岡崎市で、杉浦法相を支援する集会も催されたらしい。死刑を肯定しない２割の日本人にエールを送りたいとドーア氏は思ったそうだ。だが、イランの例を見て疑問も感じたようでもある。

「ところが、イランのついてのあの記事を読んでから同情と応援したい気持ちと共に、疑問も出た。ある国の国内での反体制的運動にとって、外国人のエール・支援がブラスになるか、マイナスになるかと。
　明らかにイラン人とブッシュ大統領のファンドの関係及びＢ氏と日本の死刑廃止運動との係わりは違う。アメリカとイランとの間のような敵対的国際関係はないし、相手国の政府を困らせる意図から出た策略的な応援と見られる事も日本の場合はないだろう…
　しかし、問題の性質にもよるだろう。アメリカ人が「日本の金融政策はなっておらぬ」と言うと受けやすいが、ヨーロッパ人が死刑が蛮行だと言うと、より国民的価値体系の中核に触れる問題として反発が起こり易いかもしれない」

　 まず、Ｂ氏なる者が胡散臭く思えた。いかに香港で死刑廃止が行われていても、中共支配下でいつ何時覆るか分からない。Ｂ氏は世界規模での死刑廃止運動に強 い関心を持つ人ならば、中国本土でその精神を啓蒙すべきなのに、矛先を日本に向けていること自体が欺瞞と見なされても不思議ではない。中国政府が死刑廃止 など聞く耳持たないのは書くまでもないが、未成年でも死刑が適用されるアメリカにはどのような運動を展開されているのか？Ｂ氏が世界規模で関心があるの は、実は中国人への死刑判決か、とも勘ぐりたくなる。中国人が日本で凶悪犯罪を犯しても、死刑防止に全力を挙げるのは同胞として当然の感情だろう。

　 そして、日本の死刑廃止運動家はＢ氏のような香港人とも連帯があったのは、改めて人権の衣をまとった中共の手先だったと疑われても仕方ない。死刑廃止団体 の「社会の倫理間を荒廃させる」「犯罪抑止効果がない」は全くの空論である。凶悪犯がろくに罰せられず、十数年で娑婆に出てくる法の不公平感こそ社会倫理 間を荒廃させるものであり、死刑制度にはある程度犯罪抑止効果はあって、決してマイナス効果ではない。死刑廃止が実行されるなら、もはや死刑となることは ないのだから、犯罪の被害者が一転して仇討ちのかたちで加害者となることもありえる。加害者の一族、ことに母親や幼児を殺害する者も出る可能性もあるのだ が。
「不正義はあっても秩序ある国家と、正義はあっても秩序なき国家のどちらかを選べと言われたら、私は前者を選ぶだろう」―マキアヴェッリ

　 ドーア氏の「相手国の政府を困らせる意図から出た策略的な応援と見られる事も日本の場合はないだろう」は甘すぎる。ネットの実例を知るならば、ネットをす る少なからぬ日本人は人権の名で、隣国が“政府を困らせる意図から出た策略的な応援”をする事を見抜いているのだから。
　さらに欧州人のドーア氏は「死刑は蛮行」と見なしているようだが、英米人が現代イラクで行っている蛮行を世界が知らないとは言わせない。何も今始まったのでなく、インドその他の植民地での弾圧の延長上に過ぎない。改めて欧州人とは、19世紀のキプリングではないが、「白人の責務」精神が健在なのが知れる。
　ただ、ドーア氏はアメリカ人教授ジェラルド・カーティス氏と違い、意見を受け付けている。電子メールはこちら。rdore@alinet.it

　シンガポール初代首相リー・クワンユーはかつて欧米からの強権批判にこう言い放った。
「外国人がシンガポールについて言うのはおこがましい」

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