トーキング・マイノリティ

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人を幸福にするはずの宗教? その四

2011-12-06 21:11:08 | 世相(日本)

その一その二その三の続き
 一連のオウム真理教事件森達也氏のような文化人の発言に、1970年代初めの極左テロ集団・連合赤軍とその支援者が重なって見えるのは、おそらく私だけではないと思う。カルト集団と極左組織では教義や立場は正反対だが、関係者の振る舞いは不気味なほど酷似している。反社会テロと内部粛清ではいい勝負だし、共産主義も強烈な“宗教”だったので、発想が似てくるのだろうか。
連合赤軍リンチ事件」というサイトには事件の詳細が描かれており、この事件に総評・市川誠議長(当時)が興味深いコメントをしている。「暴力的な行為は断じて認めることはできない。しかし、青年学生をあそこまで追いこんでしまった政治を問題にしなければならない

 市川の意見と森氏のそれとどこに違いがあるのか?前者は政治、後者は社会を問題としているにせよ、テロ犯罪者は糾弾しない。常に政治が悪い、社会が悪いと責任転嫁するのは左派文化人の十八番だし、似た事件がこの先に起きても彼らは同じ言動を繰り返すことだろう。

 売文業である作家やジャーナリスト、評論家はともかく、オウム事件で宗教学者はかなりイメージダウンとなったはず。島田裕巳に限らずオウムにすり寄った宗教学者が権威を失墜しなかったならば、それこそ社会倫理がおかしい。オウムのホーリーネームなど、いささかでも宗教知識のある一般人にさえ噴飯モノなのだ。ヒンドゥー教や仏教からのパクリそのものだし、上祐史浩風情がマイトレーヤ、つまり弥勒菩薩というのは出来の悪い漫才か。
 何かの民放で瀬戸内寂聴氏と上祐との対談があり、内容の大半は忘れたが、瀬戸内氏が「あなた、マイトレーヤなど恥ずかしくないの?」と上祐を責めたのを憶えている。但し、弥勒菩薩もゾロアスター教の神ミスラ起源説もあるが、仏教僧はまず触れない。

 オウム幹部は理工系が大半で、人文系は殆どいなかったという。武装化を進める教団には人文系など無用の人材であり、むしろ邪魔者だったはず。余計な思考や知識がある人文系よりも理工系の方が宗教家に騙されやすいのかもしれないが、理工系全てがカルトに入信する訳ではない。マスコミはオウム幹部を「優秀な若者たち」と呼んでいたが、試験技能では優秀でも社会性では落第だったのだ。
“優秀な若者”たちがオウムに入信したのは、何らかの悩みがあったのは想像がつくし、意志の弱さや運命もあったろう。それに加え、宗教への警戒心がなかったことも少なくないと私は思う。江川紹子氏自身、「人を幸福にするはずの宗教」の発言を繰り返しており、学校でも家庭でも宗教の持つ危険性は教わらないのだから。

輪廻転生」という記事でも書いたが、『ヒンドゥー教-インドの聖と俗』(森本達雄著、中公新書1707)には著者と高名なインド人科学者の対話が載っていた。この科学者はヒンドゥーらしく輪廻を信じており、その理由を語っている。オウムに入信した“優秀な若者たち”も、以下のような見識を知っていれば、犯罪者にならなかったのかもしれない。

死後の世界─或いは生前の世界といってもよい─は、どんなに高性能な望遠鏡や電子顕微鏡をもってしても見ることの出来ない超現象世界であり、おおよそ科学的現象とは次元の異なる霊の世界である。従ってそれを見たという人がしても、その人が見たものは普遍的とは言いがたい。
 結局霊の世界は信じるか、信じないかの個人の信仰の問題であり、そこに万人の共通すべき科学的実証を持ち込むことは、返って問題を混乱させるだけである。それゆえ自分は現象世界に対しては科学者であるが、霊の世界に対しては信仰者という二元論の中に生きているのだ…


 カネと名声を得たい気持ちは誰にでもあり、オウムウオッチャーとして名を売った報道関係者に、事件はまさに福の神の恵みとなった。江川紹子氏のように暗殺されかけたり、友人の弁護士一家が殺害された人物は別格だが、怪しげな文化人も多かった。森氏も自分及び家族が事件被害者だったならば、どのような発言をするか見ものだ。但しコラムに見る氏の性格から、事件を未然に防げなかった社会を糾弾する可能性もあると私は見ている。

◆関連記事:「自爆テロリストの正体
 「父が子に語る宗教への対応

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8 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
日本だけの枕詞か? ()
2011-12-06 21:45:36
今回の、『人を幸福にするはずの宗教!』
とマスコミが枕詞にしているのは滑稽ですね。
アメリカやヨーロッパの枕詞が知りたいです。

宗教は素晴らしいネズミ講だと私は思います。
こんな素敵なビジネスは無いと思いますよ。
一度信者(特に女)を獲得すれば、自動的に信者が増えていくのですから。

東北の大地震の復興資金に宗教法人税を
新しく創設するのは良いですよ。

私、宗教は贅沢品だと思うのでマズ10%課税にすれば良いと思います
もっと課税しても、彼らは国外に逃げては行きませんから安心です。
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RE:日本だけの枕詞か? (mugi)
2011-12-07 21:40:38
>哲さん、

 私もなぜ日本のマスコミが、「人を幸福にするはずの宗教」のフレーズを繰り返していたのが不思議でなりません。やはり、宗教批判はタブーなのやら。欧米のマスコミもユダヤ、キリスト教には及び腰になっているように思えますし、米国ではТV伝道師が人気を集めているとか。それ以外の宗教には遠慮せず貶しますけど。

 信者と書いて儲けるという字になると言った人がいますが、まさに信者あっての宗教です。宗教くらいうま味のあるビジネスはないし、特に女を入信させれば、家族もこぞって信者になるケースが多いですよね。母親が熱心な信者なら、影響を受けない子供はいないでしょう。

 私も宗教法人への課税で、東日本大震災の復興資金をゲットすることに大賛成です。しかし宗教組織は政治献金により、宗教団体への課税や規制を骨抜きにする。かくして選挙資金と選挙のために、政治家と宗教組織は手を組むのです。
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追記 (珈琲)
2011-12-09 06:54:36
私のブログ記事を読んでくださり、またコメントをいただき、ありがとうございます。
数年前に、関連して下記のような文章を書いたことがあります。

http://rootakashi.cocolog-nifty.com/blog/2011/12/post-495a.html

異常な大事件をひき起こしておきながら「未解明のままですね」と他人事にように言ったり、「このような事件こそ、真相が究明されなければならない」などと軽薄なメディアがもっともらしく発言するのに対して、私もmugiさんと同様な感想をもっております。
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絶対主義 (ミツカン)
2011-12-09 21:16:46
作家の塩野七生氏が、「絶対主義的思考法をたたきこまれた者は、それがなくなって自由になっても、その自由を生かすことができず、結局もう一つの絶対的なものにすがりつくしかない」と書いておられましたが、オウムに入信した理工系の優秀な若者たちもこのパターンだったのかもしれません。
ある理系ブロガーが、「『理系』の学問は、正直者でなければ身につけることは難しい。
なぜなら、『理系』は自然の真理に触れるからだ」と書いていました。
彼がいう「真理」とは、おそらく西欧で生まれた自然科学によって導き出された「真理」なのでしょうが、西欧のサイエンス自体が、決して普遍的なものではなく、世界に数ある文化の一つにすぎないのではないか、という疑問はこの人の頭には浮かばないようです。
日本の理工系は科学史や科学哲学についてきちんと学んだ人間が少ないのでしょうね。歴史や哲学を学べば、宗教も科学も、世界を説明しようとする人間の欲求の現れだということがわかるはずなのですが。
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RE:追記 (mugi)
2011-12-09 21:24:15
>珈琲さん、

 私の方こそ、再びコメントと記事の紹介を有難うございました。

 紹介された記事を拝見しましたが、仏教学者・末木文美士の言葉に私も同感します。確かに日本の仏教は葬式中心で、高い戒名や墓代には数多くの批判があり、これには私も同意します。しかし、貴方も仰る通り「わが国の仏教が、死者を墓に弔うという伝統を残してくれたことは」、私にも非常にありがたいものです。墓参りによって、肉親にも向き合えますから。
 オウムの御用学者・島田裕巳など、葬式仏教のあり方を批判していましたが、お前が言うな!ですよ。

「他者を完全に理解できる、という思想は、人間の理性の傲慢だろう、と私は思う」
「これらの「謎」が必ず解明されなければならない、きっと解明できるにちがいない、という性急な態度には、危うさと傲慢さを感じる」

 貴方の意見に賛同します。ネットでも他人若しくは自分への理解を求める者がいますが、その類に限り他人には無理解で己の主張だけを繰り返す。正体は単に他人に構ってほしいだけの暇人だったりしますが、私には理解不能の存在です。
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RE:絶対主義 (mugi)
2011-12-10 20:52:42
>ミツカンさん、
 
 塩野氏は昔のエッセイ『サイレント・マイノリティ』の一章「全体主義について」でも、次のことを述べていました。「全体主義的な空気を頭脳の形成期間に吸ってしまった人は、一生、自らの頭で自由に判断する能力を持てなくなってしまう…」

 オウムの理工系の「優秀な若者」たちは、オウムに入信しなくとも別のカルトに入った可能性もあります。宗教団体に入らずとも、何か絶対的なものにすがりつく性質から、結局は社会でトラブルを起こしていたかも。
 
 元国立大教官で三十代前半でカトリックに入信したと称するブロガーがいましたが、この人物は理系でした。フルブライト留学したとも言っていましたが、明らかに欧米の歴史や哲学には疎い。やたら欧米を讃え、信仰心やボランティア精神の薄い日本は恥ずかしい…とも書いていたのです。
 カトリックとプロテスタントの違いを学ぶ必要はない、感じて楽しければよいのです、気軽に教会に寄ってみよう…などと言われると、警戒心と不審が持ち上げてきます。この類にとっては、欧米の「真理」こそ絶対主義なのでしょうね。
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Unknown (牛蒡剣)
2019-09-16 23:02:52
>文化人の発言に、1970年代初めの極左テロ集団・連合赤軍とその支援者が重なって見えるのは、おそらく私だけではないと思う。カルト集団と極左組織では教義や立場は正反対だが、関係者の振る舞いは不気味なほど酷似している

ホントmUGIさんの仰る通り。実際中核派は衝撃を受けてオウムの闘争手段を研究したと聞いております。

表題の「人を幸福にするはずの~」ですがオウム
の場合人類を滅ぼすのが目標なんだから最初から
幸福になれない宗教だというのを理解してない文化人が大杉だと思います。
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牛蒡剣さんへ (mugi)
2019-09-17 22:31:45
 中核派が衝撃を受け、オウムの闘争手段を研究したのですか??オウムと違い中核派は未だに侮れない影響力があるようです。

 メディアに登場する文化人が、宗教こそ人類に不幸をもたらしてきたという歴史を認識できないのは不可解です。或いは知らないフリをしているのか、本当に無知なのか。但しTVなどでは宗教批判はやれないでしょうね。
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