トーキング・マイノリティ

読書、歴史、映画の話を主に書き綴る電子随想

海のトリトン その①

2009-09-28 21:17:29 | 音楽、TV、観劇
 最近私は子供の頃のお気に入りだったアニメ『海のトリトン』のDVDを見ている。制作されたのが昭和47(1972)年という事情もあり、現代見返すと、画像の粗さやご都合主義も見られるが、懐かしさもあり、とても良かった。ただ、中年世代になったこともあり、子供時代とはまた違う感想と発見があった。

 トリトンといえば、武器は「オリハルコンの短剣」。「オーリーハールーコーン!」の絶叫と共に敵ポセイドン族の怪人や怪物を倒すシーンはよく憶えている。毎度このスタイルで片をつけた印象だったが、今回見直してみたらこのかたちとなったのは21話以降であり、全27話からすれば四分の一程度に過ぎなかった。それ以前は「オーリーハールーコーン!」の絶叫はない。この場面の印象はそれだけ強烈であり、子供時代の私は鉛筆を握り締め「オリハルコーン!」等と真似していた(まだ無邪気な頃だった…)。全てを破壊する「オリハルコンの短剣」も万能ではなく、光り輝く時間が限られ、持ち主のトリトンが疲労消耗すると使えない弱点がある。

 主人公は13歳の少年トリトン、海洋冒険アニメだが、ストーリーは何とも重い結末が多く、あまり子供向きとは言えない内容も少なくない。トリトンに関った人物や生き物(アザラシ、イルカ、大ウミガメ、ペンギン他)の多くが亡くなっている。最終回を除き、トリトンが倒したポセイドン族よりも、敵側によって殺された者の数の方が断然多い。しかも、イルカ達のように積極的にトリトンの側に立った者ばかりではなく、特に味方をした訳でもない第三者が巻き添えを喰らって殺害されるというパターン。勧善懲悪というそれまでのアニメの型にはまらない作品なのだ。

 小学生時代、私はこのアニメを初めて見たが、子供心にも特に惨いと感じたのが第18話「灼熱の巨人タロス」と、22話「怪奇・アーモンの呪い」。巨人タロスとはポセイドンにより命を与えられた銅像で、ペンギンの守り神でもあった。しかし、命を与えられた代償としてトリトン抹殺を命じられ、守り神から一変、体を灼熱させトリトンもろともペンギンたちを殺そうとする。トリトンとポセイドンの争いの巻き添えで多くのペンギンが殺されるが、その中にトリトンが助けた子供ペンギンも含まれていた。子供ペンギンはタロスの弱点をトリトンに教えたため、巨人の手で潰される。まるで大魔神が狂って、悪人ではなく祈りを捧げた少年共々村を踏み潰したようなものだ。オリハルコンの剣でトリトンがタロスを倒すお定まりのラストでも、動物の子供が殺される話は後味の悪さが残る。

 タイトルからして不気味な「怪奇・アーモンの呪い」もこのパターン。こちらの犠牲者は陸の人間。トリトンが立ち寄ったある小島の村人は、アーモンの神を拝んでいるが、その際村人1人を生贄に奉げるのだ。祭壇の上に生贄の人間が横たわり、落とし穴式に祭壇の床が開き、生贄が落ちる仕掛けになっている。昔は世界中で生贄があったことなど、当時小学生の私が知るはずもない。ポセイドン族の怪獣や怪人よりも、儀式に集った人間の方が怖かった。アーモンの神が真に望んでいる生贄こそトリトン。彼を奉げるまでの代わりに村人を生贄にしているのだ。

 島に上陸したトリトンは当然島の大人たちに襲われ、何とか逃げると匿ってくれた少年がいた。それも罠であり、この少年もまたトリトンの隙を突いて短剣を取り上げ、それで彼を刺殺しようとする。少年が同じ年頃の少年に短剣を振り回し、「死ね!」と叫んでいるシーンはさらに怖い。島の少年の攻撃をかわしたものの、結局大人たちに捕まり、頼みの短剣も奪われ、生贄として祭壇に奉げられるトリトン。絶体絶命だがもちろん主人公は死なない。落とされた穴の下は巨大イソギンチャクの口であり、それこそがアーモンの神の正体だった。そして島全体が化け物イソギンチャクの上にあり、この怪物も敵ポセイドンの手下だった。オリハルコンの短剣を持っていたトリトンだけは助かったが、島の住民はトリトンを騙した少年も含め全員死亡。いかにポセイドンに洗脳されていたにせよ、これも惨い結末だ。

 15話「霧に泣く恐竜」も物悲しい。太古の生き残りの恐竜が眠りから島爆発により目覚め、仲間を求め海をさ迷う。トリトンの吹いたほら貝の音を仲間の声と間違え、音のする方に進んでいくと、トリトンを追う敵の鮫人ポリペイモスがいた。邪魔とばかり、恐竜はポリペイモスに斬殺される。そのポリペイモスも任務失敗のため処刑されるも、既に恐竜が海の底で躯となっているとも知らずほら貝を吹き続けるトリトン。
 まだネス湖ネッシーがいると半ば信じられていた頃なので、ここからヒントを得たのかと思ったが、ある女性ファンのHPにあった15話の感想には唸らされた。「あの恐竜はトリトンとピピのメタファーでしょう。仲間を求めて捜し求める。でも誰もいない。二人きり」は鋭い。同じくレイ・ブラッドベリの『霧笛』を読みながら、私はそんな発想は浮かびもしなかった。

 陸の人間や海の生物を容赦なく虐殺するポセイドン族司令官もまたかつては陸の人間だった。トリトンを抹殺しようとする司令官達は地上の支配ももくろむポセイドンにより改造された人々であり、超人的戦闘員に変身した。その背景をこの作品では詳しく描かれてなかったが、任務に失敗すれば死罪という厳しい血の掟も、改造人間ゆえの生きた駒に過ぎなかったのだ。
その②に続く

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5 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
仮面ライダーの影響 (madi)
2009-09-29 10:25:58
設定には仮面ライダーの影響があったのではなかろうかと推測しています。
 視聴率低迷でテコイレがあったことがわかる前後の断絶がありますし。
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ヘパイトス (Mars)
2009-09-29 20:13:10
こんばんは、mugiさん。

某ゲームでは、錬金(アイテムとアイテムを合わせて、新しいアイテムを作る)の触媒として、ヘパイトス火種というものがあります。
が、ヘパイトス自身は醜男で、その妻が何と美の女神、アフロディーテだそうです。
更に、この女神は不倫の最中、彼の罠によって取り込み中のまま、他の神々に晒されたとか。

ギリシャ神話は、かなりエグイですね(笑)。
(このゲームに限らず、RPG(ロール・プレイング・ゲーム)の多くには、「オリハルコン」という金属に、影響を受けています)
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Re:仮面ライダーの影響 (mugi)
2009-09-29 22:01:55
>madiさん

 このアニメは視聴率が振るわず、半年で打ち切りとなっています。その前に内容をかなり変えたそうですが、そのためラストが端折った感じになりました。改めて全編を見返すと、あの短剣は前半はあまり使っていないことに気付きました。設定変更に仮面ライダーの影響の可能性とは、思いもしませんでしたよ。確かに「ライダーキック」や「オリハルコーン」でカタをつけた方が、記憶に残ります。
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Re:ヘパイトス (mugi)
2009-09-29 22:03:56
>こんばんは、Marsさん。

 ヘパイトスはギリシアの男神きってのブサメン、その妻は最も美しい女神というカップルなのも面白いですね。この女神の件の不倫相手はイケメンの神ですが、他にも人間の美男と関係します。妻が不倫しても、ヘパイトスは別れない。あのカエサル家の先祖はアフロディーテと自称していたので、女たらしになるのも当然でしょう。

 ゲームのテーマにもギリシア神話が使われていたのですね。確か、あるゲームの魔王にザッハークがいたはずで、これはペルシア神話。ゲームの世界では世界の神話からキャラクターを取り込むようで。
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訂正 (mugi)
2009-09-30 21:36:24
>Marsさんへ

 妻の浮気発覚後、ヘパイストスは離婚しました。この際、仲介した神がポセイドン、間男から賠償を受け取ったそうです。神々の世界にも慰謝料があるというのが面白いですね。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%98%E3%83%BC%E3%83%91%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%83%88%E3%82%B9
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