何年か前、知人に『母と子におくる教科書が教えない日本の神話』(産経新聞社、出雲井晶 著)の本を薦められ、購入して読んだが、とてもよかった。著者は暖かみのあるイラストも描いており、この挿絵がモノクロなのが残念。いきなり古事記を読め、と要求されても大儀だが、この本は子供ばかりか大人も楽しめる本だった。
まず、日本の国つくりの話が面白い。イザナギ、イザナミの夫婦神が雲に乗り、天沼矛(あめのぬほこ)で海をかき回して矛を抜く。その矛のしずくから大きな 島が出来る。夫婦神が力をあわせて国土を生む神話というのは大変面白い。イランの神話では土地を叩いて領土を広げた王の話があるが、妻と共同作業でなく単 独だ。夫婦で国つくりというのは世界の神話でも珍しいだろう。『宦官』(中公新書)の著者、三田村泰助教授はこの神話をもって、我国が一夫一婦制に落ち着いたのは当然の流れだと言っていた。
短絡的なフェミニストが槍玉に挙げそうなのは、天之御柱(あめのみはしら)を回った夫婦神で、女神のイザナミが先に夫に声を掛けた為にヒルのような子供が 生まれたという話だろう。夫婦神はこの後、また御柱を回り、今度は男神が声を掛ける行為をやり直しているから、女性蔑視の批判が予想できる。
だ が、男女平等を謳った古代神話など世界にはない。有名なギリシア神話の最高神ゼウスは、無数の不貞で妻のヘラを嫉妬させケンカを繰り返すが、妻を殴り、あ る時などは足に大きな重りを付けて吊し上げる折檻を行っている。また、ギリシア神話に登場する英雄たちは際立った力と美に恵まれる反面、怪物的な側面も有 している。何の理由もなしに大量殺人を行い、父母や親族まで殺す。性的衝動は逸脱しており、強姦などは当り前なのだ。一昨年公開された映画「トロイ」のアキレスは女に対しかなりジェントルマンに修正されていたが。
黄泉の国のエピソードもギリシア神話との共通性が見られる。死んだ妻に会いに死者の国に行くものの、あの世の世界の食べ物を口にすると、生者の国には戻れ ないという定めだ。愛しい妻に早く会いたくて、夫がしくじるのも。ギリシア神話では女は大人しく引き下がるが、イザナミは逃げた夫を悪鬼と共に追いかけて くる。悔しさのあまり彼女が「貴方の国の人々を1日に千人ずつ殺す」とまで言う始末。これに対し元夫は「では、毎日千五百人ずつ人間を誕生させる」と宣言 したので、大和民族は滅びずに済んだ。
『教科書~』の最大の見せ場は何といっても、天の岩屋戸(あめのいわやと)の場面だ。乱暴な弟、 スサノオに心を痛めたアマテラスは岩屋に引き篭もってしまう。太陽神が女というのも世界的に珍しいが、このアマテラス、最高神にも関らず極めて大人しい。 神通力がない訳でもないのに、何故スサノオを殺害しなかったのか不思議で仕方ない。インドの女神ならドゥルガーのように、不敵な笑いと共に悪魔を槍で一突きして始末するのに。神代の時代から日本では最高位にある者は、お飾り的存在だったのか。
すねて岩屋にこもったアマテラスの引っ張り出し作戦は、知る人ぞ知る日本最初のストリップ。この時踊ったのがアメノウズメで、 踊り狂った果てに胸ははだけ、乳房は露わ、腰にまとった裳までがずり落ちる。人間の男どもと同じく女の裸を見た男の神々が喜んだのは書くまでもない。私が 子供の頃見た学研図鑑の「日本の歴史」には、この場面の説明と挿絵が載ってあり、「面白い踊りをさせ」られた、アメノウズメはちゃんと服を着て踊ってい た。『教科書~』も“子におくる”と断りがあるためか、女神の胸がはだけ気味だが着衣姿だった。
学生時代に授業でアメノウズメの話をしてくれた 教師がいたが、やたら脱ぐ女神だと説明してくれた。天の岩屋戸ばかりでなく、気に入った男を全裸で待ち伏せしたり、願い事をする時には「みほと(女陰)を 開いて」までやるのだ!さすがにこれは教科書で教えられないエピソードだが、影の薄いアマテラスに比べ古代人らしく大らかだ。
日本神話 を知っている若い人は思いの外少ないかもしれない。是非、我国の神話を読み直して頂きたいものだ。神話など荒唐無稽で馬鹿馬鹿しいと一蹴する人もいるだろ うが、現代人気のファンタジーも荒唐無稽さでは劣らないのだから。神話はデタラメばかりとは限らず、事実をロマネスクで彩っていることもある。
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まず、日本の国つくりの話が面白い。イザナギ、イザナミの夫婦神が雲に乗り、天沼矛(あめのぬほこ)で海をかき回して矛を抜く。その矛のしずくから大きな 島が出来る。夫婦神が力をあわせて国土を生む神話というのは大変面白い。イランの神話では土地を叩いて領土を広げた王の話があるが、妻と共同作業でなく単 独だ。夫婦で国つくりというのは世界の神話でも珍しいだろう。『宦官』(中公新書)の著者、三田村泰助教授はこの神話をもって、我国が一夫一婦制に落ち着いたのは当然の流れだと言っていた。
短絡的なフェミニストが槍玉に挙げそうなのは、天之御柱(あめのみはしら)を回った夫婦神で、女神のイザナミが先に夫に声を掛けた為にヒルのような子供が 生まれたという話だろう。夫婦神はこの後、また御柱を回り、今度は男神が声を掛ける行為をやり直しているから、女性蔑視の批判が予想できる。
だ が、男女平等を謳った古代神話など世界にはない。有名なギリシア神話の最高神ゼウスは、無数の不貞で妻のヘラを嫉妬させケンカを繰り返すが、妻を殴り、あ る時などは足に大きな重りを付けて吊し上げる折檻を行っている。また、ギリシア神話に登場する英雄たちは際立った力と美に恵まれる反面、怪物的な側面も有 している。何の理由もなしに大量殺人を行い、父母や親族まで殺す。性的衝動は逸脱しており、強姦などは当り前なのだ。一昨年公開された映画「トロイ」のアキレスは女に対しかなりジェントルマンに修正されていたが。
黄泉の国のエピソードもギリシア神話との共通性が見られる。死んだ妻に会いに死者の国に行くものの、あの世の世界の食べ物を口にすると、生者の国には戻れ ないという定めだ。愛しい妻に早く会いたくて、夫がしくじるのも。ギリシア神話では女は大人しく引き下がるが、イザナミは逃げた夫を悪鬼と共に追いかけて くる。悔しさのあまり彼女が「貴方の国の人々を1日に千人ずつ殺す」とまで言う始末。これに対し元夫は「では、毎日千五百人ずつ人間を誕生させる」と宣言 したので、大和民族は滅びずに済んだ。
『教科書~』の最大の見せ場は何といっても、天の岩屋戸(あめのいわやと)の場面だ。乱暴な弟、 スサノオに心を痛めたアマテラスは岩屋に引き篭もってしまう。太陽神が女というのも世界的に珍しいが、このアマテラス、最高神にも関らず極めて大人しい。 神通力がない訳でもないのに、何故スサノオを殺害しなかったのか不思議で仕方ない。インドの女神ならドゥルガーのように、不敵な笑いと共に悪魔を槍で一突きして始末するのに。神代の時代から日本では最高位にある者は、お飾り的存在だったのか。
すねて岩屋にこもったアマテラスの引っ張り出し作戦は、知る人ぞ知る日本最初のストリップ。この時踊ったのがアメノウズメで、 踊り狂った果てに胸ははだけ、乳房は露わ、腰にまとった裳までがずり落ちる。人間の男どもと同じく女の裸を見た男の神々が喜んだのは書くまでもない。私が 子供の頃見た学研図鑑の「日本の歴史」には、この場面の説明と挿絵が載ってあり、「面白い踊りをさせ」られた、アメノウズメはちゃんと服を着て踊ってい た。『教科書~』も“子におくる”と断りがあるためか、女神の胸がはだけ気味だが着衣姿だった。
学生時代に授業でアメノウズメの話をしてくれた 教師がいたが、やたら脱ぐ女神だと説明してくれた。天の岩屋戸ばかりでなく、気に入った男を全裸で待ち伏せしたり、願い事をする時には「みほと(女陰)を 開いて」までやるのだ!さすがにこれは教科書で教えられないエピソードだが、影の薄いアマテラスに比べ古代人らしく大らかだ。
日本神話 を知っている若い人は思いの外少ないかもしれない。是非、我国の神話を読み直して頂きたいものだ。神話など荒唐無稽で馬鹿馬鹿しいと一蹴する人もいるだろ うが、現代人気のファンタジーも荒唐無稽さでは劣らないのだから。神話はデタラメばかりとは限らず、事実をロマネスクで彩っていることもある。
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神話はデフォルメしてあるので、どこまで歴史なのか創作なのか曖昧ですが、面白いです。アマテラスは女神ではなく、男性の太陽神(=本当のアマテラス)に仕える巫女のような存在だったという説もありますが、そうすると、かなりつじつまが合うエピソードもあるように思います。(ストリップに興味を示したのは、アマテラスが仕えていた男性神だったのかも)
宦官といえば、日本の宮廷には宦官は存在したのでしょうか?宦官がいない宮廷というのも珍しいような気がします。
作家・井沢元彦氏は「逆説の日本史」で、アマテラスは卑弥呼がモデルだと書いてました。
史実は不明ですが、あんなに弱い太陽神もないから、説得力があります。卑弥呼も実権は弟が握っていたとか。
日本の宮廷に宦官は存在しなかったと思います。アジアで宦官がいないのは日本くらいでしょうね。
遣唐使もこの制度を取り入れなかった。
未だに日本の神話について詳しくないですが。少し前であれば、昔話、お伽話のように、完全な子供だましのように思えていました。しかし、いい年になるにつれ、お伽話にしても、何らかの事実や伝承があるように思えてくるようになりました。日本の神話にしても、何らかの根拠や事実による話であるように思えてなりません。
逆説的かもしれませんが、日本においてはある程度白眼視されても、同性愛に対し認めているところがあります。それゆえに、宦官という制度を認めなかったのでは、とも思います。
日本に限らないでしょうが、子供向きの神話や童話は話をきれいに修正したりする事がよくあります。
だから子供だましになるのでしょうが、カチカチ山などそうですね。私が子供の頃読んだ本には、お婆さんを殺してその肉を汁にして夫に食べさせた、とは書いてませんでした。お婆さんに怪我をさせたタヌキが、最後に謝罪してエンド。
同性愛を認めたことが宦官制度がなかった原因というのは、如何なものでしょう?
中国も同性愛はさほど恥とは思ってなかったようで、同性間のもつれから無理心中を図った者もおり、相手を抱いて入水自殺したとか。