トーキング・マイノリティ

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いい人と思われたい症候群

2017-08-20 21:10:21 | 世相(日本)

 一般に日本の芸能人は政治的発言をしない傾向があるが、昨今は政権批判をする大物も結構出てきた。2017.7.17付の痛いニュースには沢田研二の変貌ぶりを紹介する記事が載ったが、記事中のコメントに2014.7.15付ネットニュースのリンクがあった。
 それによれば、沢田は公演中、「あっかんアベ―」と安倍政権を批判する発言をしていたとあった。さらに2014.3.3付の毎日新聞には、次の発言をしていたことも載っている
マスコミに過剰な情報を流して無理に振り向いてもらっても何にもならない。好感度ランキングがやたら大事にされて、今の芸能人はみんなが『いい人と思われたい症候群』になっている。こういう雰囲気が嫌いなんだよ

 中高年世代なら、沢田の「イモジュリー事件」を憶えているかもしれない。wikiは1975、76年の2度の暴行事件を軽く触れているが、その詳細を記したサイトがあり、「イモジュリー事件」は76年。新幹線乗客からイモ呼ばわりされたことに激高、暴行したと云われる事件である。
 当時十代の私は熱心なファンではなかったが、それでも沢田の歌は大好きだった。事件を聞いて、やはり芸能人はおごり高ぶっている…とガッカリした。尤も40年も昔のことなので今は丸くなったと思いきや、2015.2.5付のネットニュースにもコンサート中に客を怒鳴りつけたことが載っている。芸能サイトの情報全てが正しいとは限らないが、既に名声を確立、生活に困らぬ裕福な芸人なら、いい人と思われずとも全く差支えない。

 今年3月、茂木健一郎も同じ趣旨の発言をしており、件の発言全文を表示したサイトもある。以下は私の気を引いた発言。
上下関係や空気を読んだ笑いに終止し、権力者に批評の目を向けた笑いは皆無
日本の『お笑い芸人』のメジャーだとか、大物とか言われている人たちは、国際水準のコメディアンとはかけ離れているし、本当に『終わっている

 ザ・ニュースペーパーのように権力者や社会への風刺が十八番のコント集団もいるのだが、茂木は知らなかったのか、或いは無視したのか?但しザ・ニュースペーパーは、地上波テレビはもちろん衛星にもあまり出ていない。
 そして茂木は“国際水準”というフレーズを余程気に入っているようだが、彼のような脳科学者がコメンターとして頻繁に登場する日本のバラエティ番組こそ、“国際水準”(実態は欧米水準)とはかけ離れており、本当に『終わっている』と見ている視聴者は確実にいるはず。

 その2カ月後、情けないことに茂木はお笑い業界批判を謝罪している。その顛末を紹介したニュースサイトもあり、学歴では遥かに劣るはずの売れっ子お笑い芸人等に吊るし上げを食い、許しを請う始末。脳科学者なら発言への反応は予測がつきそうなものだが、想像力ではお笑い芸人にも及ばぬようだ。画像からも表情には知力や覇気がまるで感じられず、所詮は芸人仲間にいい人と思われたい症候群のインテリ芸人に過ぎない。

 これまでも政治的発言をする芸人はいたが、政権批判、殊に首相非難は昨今の風潮。もちろん権力者に批評の目を向けることは大切だし、首相称賛一辺倒の芸人がいたら私でもドン引きする。しかし、お笑い芸人や歌手が利いた風な口調で政権非難をするのを不快に思う一般庶民も少なくないだろう。
 彼ら芸人の背後にはスポンサーやメディアの影が伺えるし、意図的な代弁者と見ているのは私だけでないはず。今年2月、タレントの遥洋子が芸能人コメンテーターはスポンサーの顔色を伺って発言を変えていると指摘したことがある。芸能ニュースサイトでも取り上げられていたが、遥は事実を指摘したに過ぎない。首相ならいくら罵倒しても問題ないが、メディアには『いい人と思われたい症候群』でいなければ、仕事を干されるのだから。

 かつて芸人はと蔑まれたが、芸人の地位が低かったのは欧州も同じであり、芸能性を評価されるのは近代以降なのだ。『ローマ人の物語』で、裁判の証人として信用されない職業が2つ挙げられていたことを思い出す。それは奴隷商人と役者だった。大規模な奴隷制度のあったローマで奴隷商人が信用されていなかったのは興味深いが、役者も同じ立場だったのは意外だった。
 著者はその理由を記していなかったが、役者が常に興行主の顔色を伺い、発言を変えていることを古代ローマ人は熟知していたはず。これでは証人に値せず、興行主には媚びまくるのが芸人なのだ。大物芸能人というだけで安易に信頼する現代人と対照的にローマ人は賢明だった。

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 「新聞、ТVに出ている人だから…

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