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家族のエックス線写真〜ある一家のイラン革命〜 その一

2021-08-29 21:45:03 | 音楽、TV、観劇

 録画していたBS世界のドキュメンタリー、「家族のエックス線写真〜ある一家のイラン革命〜」(8月21日放送)を興味深く見た。日本でも妻が宗教にのめり込み、家庭崩壊するケースはあるが、娘から見たイラン革命下における家族のドキュメンタリーは珍しいかもしれない。以下は番組HPでの紹介。

イラン革命による社会の急激な変化に翻弄され、関係が崩壊していく夫婦の歴史をその娘であるディレクターが様々な映像表現を駆使して描く、異色のドキュメンタリー。
 世俗的な暮らしをおう歌していた父と敬けんなイスラム教徒の母。その関係は、革命によりイラン社会が厳格なイスラム国家へと変貌する中で、崩壊してゆく。実写とイメージ映像を組み合わせた独特の映像表現で、家族の目線からイランの激動の時代を描き、世界最大のドキュメンタリー映画祭IDFAでベスト長編ドキュメンタリーに選出された話題作。原題:Radiograph Of A Family(ノルウェー 2020年)

 実はこの夫婦、恋愛結婚で結ばれている。父フセインは裕福な家庭に生まれ育ち、スイスに放射線医学の研究のために留学していたインテリでもあった。フセインはイランに帰国した際、やはり良家の娘で美しいターイと出合い恋に落ちる。何度かデートの後にフセインはプロポーズ、2人の結婚は認められ、正式な夫婦となった。

 尤もフセインは学術研究のためにスイスに戻らねばならず、夫を追ってターイも渡欧する。それでも敬虔なムスリマ(イスラム女性)のターイはスイスに行く前に悩んでいた。果たして異教徒の国に行ってよいものか?
 そこで敬愛するアーヤトッラーシーア派高位宗教指導者の称号)に手紙を書くが、アーヤトッラーの答えはお構いなしだった。但し、ちゃんとへジャブを被って髪や体を隠し、イスラム法に則った食事をすることも書かれていた。

 スイスに来たターイが驚いたのは、街の至る所に肌を露出した女性がいて、人々は祈りをしていなかったこと。スイス人はともかく、スイス在住のイラン人さえ現地人の様な世俗的な暮らしをおう歌していたのだ。夫の従姉妹たちもスイスに住んでいたが、彼女らも水着を着たりして西欧式の暮らしになじんでいた。ターイが強い違和感を覚えたのは書くまでもない。
 それでも夫婦仲は良く、外国生活が長かったためかフセインのフランス訛りのあるペルシア語にちなみ、ターイはムッシュー・フセインと呼び、以降は夫をムッシューと呼ぶようになる。

 ある時ターイは夫に誘われスキーに行くが、慣れないため転倒、背中を激しく打ち付ける。この事故でターイの背骨は歪んでしまい、その後の夫婦関係も歪んでいく。後にターイはスキーをしたことへの神の罰と考えるようになったというが、たかがスキーをしただけで神はこんな罰を与えるのか?
 やがてターイは妊娠、彼女は祖国に戻って子供を産むことを熱望しており、夫もその願いを受け入れ、夫婦で帰国する。そして生まれたのが娘フィルゼ、このドキュメンタリーの監督である。

 せっかく祖国に戻っても、テヘランはまるでスイスの様に世俗的な風習に染まっていて、ターイを酷く失望させる。イラン革命前のテヘランの街が映ったが、これがあのイラン?と思うほど。西欧式ファッションの女性が闊歩し、街に貼られた映画ポスターはインド映画さながらで、肩を露わにした美女が描かれている。
 子供が生まれたにも関らず、ターイは自分は何者でもないと暮らしに虚しさを覚えるようになる。但し生活は不自由せず、夫婦が暮らす家は夫の祖父から贈られたもので、部屋にはシャンデリアや絵画、彫刻が飾られていた。

 そんな折、ターイはイラン革命に大きな影響を与えたと云われる社会学者アリー・シャリアティーの教えを知る。このドキュメンタリーで初めてアリー・シャリアティーという人物を知ったが、ホメイニだけが革命思想家ではなかったようだ。
 シャリアティーは講演の中で純粋なイスラムの信仰を取り戻すことを主張していたという。講演に行ったターイはその思想の虜になり、夫婦関係は亀裂を深めていく。
 講演の様子が映っていたが若者が多く、聴講者には女性が多かったのは驚く。参加している女性にはヘジャブで頭や身体を覆った姿が目立ったが、洋服を着た若い女性も結構見かけた。

 実は革命前のイランはイスラム主義者、左翼、ナショナリストが三つ巴状態だった。左翼には女性も多く、彼女らがヘジャブを被らないのは言うまでもないが、革命後にはそんな女性たちは一掃される。
その二に続く

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