その一、その二の続き
“信頼”の述べた現代インドのカースト事情は以下の通り。
-40年前からちゃんとした業種や会社では「カースト」関連の詳細を書類上、欄でさえなくなっていて、法律上も禁止です。それを求める会社はまずいません。インド都市部や副都市部や地方都市でも職場ではカーストなんて聞かれません。田舎です。IT会社も同様で、入社する時の申請書類にはまず「カースト」を聞かれる欄もないことだし、当然聞かれもしません…
皮相的建前論の見本さながらである。wikiにもカーストは「1950年に制定された憲法で全面禁止が明記されている」とあるが、日本の賭博禁止法以上に実質的な拘束力がなく、罰則も殆ど伴わないザル法同然なのだ。上層カースト出身が法曹界を占める現状ではそれも当然だろう。再びwikiからIT産業内での実態を引用する。
-高等教育を受けることが出来ない下層カースト出身者は高度な仕事が出来ない上に、仮に優秀であったとしても上層カースト出身者で占める幹部が下層カースト出身者を重要なポストに抜擢することはなく、表面的にはカーストの影響を受けないIT関連事業においてもカーストの壁が存在するのが現状である。
“信頼”のコメント記事は「だれも知らなかったインド人の秘密 その二」だが、独立後の民主体制においても階級への拘りが薄れるどころか、むしろ逆の現象が起きているのだ。この記事の冒頭を挙げたい。
-インド人には、己の権力を誇示することと、そのステイタスを他人に認めてもらうことは強く結びついており、ステイタスの主張は最重要課題となる。民主体制において新たに生まれた機会や不確かさで、誰がどの地位にいるかと人々は敏感になり、むしろステイタスと権力に対する強迫観念を増幅させている、と著者は見る。個人の平等な道徳的価値が大切にされることは滅多になく、教養のある高位カースト者から無学文盲の下層階級まで階層依存社会は及んでいる…
ステイタスをインドでは“オカット”と呼ぶそうで、ヴァルマ氏によればこの言葉を外国語に訳すには難しいニュアンスがあるという。“カースト”の語源自体、ポルトガル語の「血統」を表す語「カスタ」(casta)だし、外国人異教徒の方がこの言葉を使う。現地人ならヴァルナ(種姓)、ジャーティ(出自)が一般的なはずだが、外国人相手なら分かり易く“カースト”という。
インド人同士で「あなたのカーストは何ですか?」と問う必要はない。法律を恐れてではなく、いくらでも探る方法はあるのだ。そのためインド人は初対面でもこんな質問を浴びせることが多いという。父親の職業は?住まいは何処?何処で学んだ?誰と親戚?知り合いに権力者はいる?
一般日本人なら何と不躾な…と呆れるが、これぞカースト確認なのだ。父親の職業や住まいを知れば、カーストがほぼ特定できる。都市部さえ居住区毎にカーストや宗派が違っている有様。インド人は外国人相手にも父親の職業を問う者が少なくないが、これもカースト確認である。この際、父親が医師や公務員と答えればそれなりに敬意を払われるが、正直にクリーニング店主と言った日本人バックパッカーは、たちまち蔑みの眼で見られたという話もある(※クリーニング業は下層カーストのする賤業)。
歌と踊り満載のB級娯楽作品のイメージの強いインド映画だが、重いカースト問題も出てくる。「チャンドラムキ 踊る!アメリカ帰りのゴーストバスター」のヒロインの父はカーストの違う女と結婚したため村八分状態になり、心労で若死する。死後も葬式さえ出してもらえず、妻が村人一人一人に額ずき、式をすることを頼むという壮絶なシーンがあった。
「デリー6 その三」でも書いたが、指定カースト、つまり不可触民の女に迂闊に触れた主人公に祖母や親戚がお清めの儀式をさせる。これは題名通り首都が舞台で、中産階級の人々を描いた作品。21世紀の首都さえこの始末だし、地方は私刑さえまかり通る。
その四に続く
◆関連記事:「文学から見た現代インド」
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突然ですが、インド人の怪しいオッサンを発見しましたのでご覧ください!このオッサンはダレル・メヘンディ(Daler Mehnd)で、頭にターバンを巻くシーク教徒です。しかし、こんな濃い人物は初めてですね、一体どうコメントしていいか分かりません(笑)。
http://www.youtube.com/watch?v=yobkYjbcM7c&feature=related
Daler Mehnd は初めて知りましたが、MVの紹介を有難うございました!
いやー、動画は本当に笑えますね。MVにもお国柄が出てきます。寺院に大宇宙、大自然の背景があったり、まるでインド映画のワンシーンを見ているよう。このおじさんの指の動かし方がいかにもインドらしくて、他国ではまず見られないでしょう。