トーキング・マイノリティ

読書、歴史、映画の話を主に書き綴る電子随想

小説に見る英仏の確執

2012-02-07 21:11:11 | 読書/小説

 隣国との「友好」「理解」をお題目にしているのが日本のマスコミの特異性だが、いかに頭の軽い報道人さえ世界の何処でも隣国とは常に不仲という事実は知っているはず。日本の文化人憧れの欧州の二大国・英仏も、その例に漏れない。英仏の小説からも互いに対抗心と不信を抱いていることが伺えるし、日本人からすれば英仏間の確執は面白い。

 友人に熱烈なジェームズ・ボンドファンがおり、その影響で私も映画はもちろんイアン・フレミングの原作を何冊か読んだ。映画同様原作でも特によかったのが『ロシアより愛をこめて』。この小説の敵役にスメルシュの女大佐クレッブがいる。彼女がラストでボンドを暗殺しようとするのは映画と原作は同じだか、やり方はやや異なっている。原作ではフグ毒を塗った編み棒でボンドを刺そうとする。
 小説には「編み物をする女」という章があり、クレッブを指しているのは書くまでもないが、それ以外にもフランス革命で編み物をしながら断頭台で処刑される人々を眺めていた女たちと重ね合わせている。要するに編み物とお喋りをしながら平然と人の死を見ていた女たちと、冷酷なスメルシュの女大佐は同類だと、フレミングは書いているのだ。

 フレミングに限らず英国の知識人はフランス革命には辛辣な見方をする者が多く、革命時の虐殺を特に挙げたがる。その背景もフランス人気質に求めるし、英国人の書いたコラムからは、大陸の人間は狡猾で流血を好むと言わんばかりの見方が伺える。
 ただ、人道主義のなかった18世紀、罪人の処刑は庶民にとって娯楽であり、英国女も絞首される死刑囚を楽しんでみていたはず。同時代の日本も 打ち首獄門など、町民には格好の見世物だったろう。

 ド・ゴール大統領暗殺を描いた小説『ジャッカルの日』(フレデリック・フォーサイス著)にも興味深い個所がある。英国の高官がフランスとの関係で、あの国とは友好があった例はないし、この先も同じだと考えているのだ。また、治まるところを知らない“ラテン気質”や、 ド・ゴールには何度も“傲慢”の表現がされている。英国人のフォーサイスは祖国をコケにしたド・ゴールに好感を持てなかったようだ。
 フォーサイスの他の小説『戦争の犬たち』でも、陰険な敵役にフランス人が当てられている。アフリカ諸国の独立時で、名指しは避けつつも独立時には自国の息のかかった政治家を擁立、背後で操ることに長けた国に対し、英国政府はヘマを繰り返している…という個所もあり、私は苦笑してしまった。狡猾な国がフランスなのはアフリカ情勢に素人でも分かるし、英国も劣らず強かにやっていたはずだが。

 フランス側にも同じ傾向が見られる。『三銃士』にも「英国人だったら殺しても構わない…」の類の台詞がある。これを言ったのが血の気の多い主人公ダルタニャンではなくリーダー格のアトスなのだから、フランス人の英国に対する感情も知れよう。
 アルセーヌ・ルパンシリーズで私が初めて読んだのは『緑の目の令嬢』。しかし、ヒロインの薄幸の緑の目の令嬢オーレリーよりも、名家の令嬢でありながら影で盗賊団を率いていた英国美女の方が印象的だった。作者は英国女の偽善性を描いていた?『三銃士』に登場する 謎の女ミレディーも、処刑される寸前の言葉は英語だったので、正体は英国人だった?

 フランスのスパイ小説『SAS/プリンス・マルコ』シリーズも、ホモが多いと英国の特徴を挙げ、あまり芳しい描き方をしていなかったのを憶えている。作者 ジェラール・ド・ヴィリエは右翼として知られているそうで、この点ではフォーサイスも同じである。作家としての評価が高いのは英国人フォーサイスの方だし、ヴィリエの『プリンス・マルコ』はエログロが強くてB級作品だった。

 世界の覇権をかけ何世紀も争ってきた英仏両国ゆえ、互いに内心は敵愾心があるのは当たり前なのだ。そして、これら両国の知識人並びに報道人は「友好」「理解」の類の歯の浮くような美辞麗句は言わないのに、英仏崇拝日本人は何故見習わないのか?普段は何かと欧米を引き合いにしたがるのに、他国報道では相も変わらず情調的な友愛モード一色。
 ネットでもこの類はおり、隣国への批判に対し早々「何処にも善人もいれば悪人もいる」「日本人だって悪人もいる」とお決まりの安易な擁護をする。その輩も日本人という証拠はないし、隣国の窮乏した子供には憐憫を強要しつつ、敗戦後の日本人浮浪児には「乞食」 呼ばわりしたりするからお里も知れよう。

 隣国とは潜在的に敵対する関係だし、地政学名言集を17も紹介したサイトの回答№2は大いに納得させられる。回答者はさらにチャーチルの名言 「我が国以外は全て仮想敵国である」を載せていた。良い敵とは死んだ敵なのは、残念ながら国際政治の非情な法則なのだ。

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21 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ブッチ (室長)
2012-02-09 01:05:39
mugiさん、こんばんは、
 仏英の対立感情は、未だに根強いでしょう。英国は、大陸側の仏独が結託して作ったEUに対して、未だに懐疑的に対応していて、特に通貨同盟(ユーロ)には参加していない。

 ところで、昔、ある英国通の日本人がbutchブッチという隠語があると教えてくれた記憶がある。英国人がフランス野郎という、そういう言葉だと言っていたように記憶します。

 今回、検索したり、英語辞書を探したりしても、butchの訳語としては、男女、レズの男役という訳語しか出てこない。
 もっとも、フランスの英雄ジャンヌダルクの活躍を苦々しく思う英国人が、ジャンヌダルクを仏人の代表と見て、あの女は「男役」だったのさ、と言う意味で、フランス野郎=butchと影で呼んでいるとすれば、意味は通じないでもない。

 もっとも、小生があった仏人には、傲慢で、英国人、そして英米人と仲がよい日本人も嫌う人と、凄く知的で、学問に熱心で、しかも、対人関係でも控えめで、英国人紳士と言っても遜色ない人もいたので、なかなか、仏人を一般化して、かしましい、自己主張ばかりのラテン系というわけには行かない気がする。
 その上、北部のイタリア人の中には、やはり知的で、勤勉で、控えめで、好感の持てる人もいたので、欧州人の性格も、必ずしも典型化してみない方がよいのかも知れません。

 しかし、まあ、プロテスタントの英国人の方がどちらかというと日本人と気質が合う。
 ラテン系は、無責任で自己主張ばかり、という、そういう感じがどうしてもする。
 ドイツ人は理屈っぽくて、しかも、演説好きで、長々と演説したがるところが、少し鼻につく。
 まあ、英独仏3国とも、お互いに合わないところ、対立的な側面が今も多いと思う。しかし、一番平凡な凡才が多いように見える英国が、大英帝国時代の新大陸への進出で成功したために、未だに広大な地域に、世界中に、大きな根を張っていて、欧州大陸の田舎者に止まっている仏独を凌駕している、そういう風に感じます。IT時代の国際語が英語となっていることも、英国の強みとなっている。
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RE:ブッチ (mugi)
2012-02-09 21:36:19
>こんばんは、室長さん。

 butchという隠語は初めて知りました。ジャンヌダルクは何度も映画化されており、この作品で英国人が野蛮人として描かれているのは書くまでもありません。欧州在住の日本人によれば、英国の大衆紙がフランス人をFrogと書いたこともあったとか。カエルを食べることにちなんでだそうです。

 没個性的と言われる日本人も実際は十人十色です。それゆえに英国紳士的なフランス人、ラテン的な英国人、ドイツ人がいても不思議はない。民族性を一般化するのは安易だし、日本人論などその典型にしか思えません。貴方の仰る通り私も、どちらかといえばプロテスタントの英国人の方が日本人と気質が合うように感じられます。これも個人差がありすぎますが。

 そして日本人の方も、親英米派と親仏派ではわりと不仲ではないでしょうか?親印派と親中派も関係は良好とは言えないように。これまた個人差もありますが、親英米派はどちらかといえば右派が多いのに対し、親仏派は左派が主流のような気がします。安保騒動を煽ったのも、仏文学者知識人が多かったことを挙げているブログ記事がありました。
http://hkuri.iza.ne.jp/blog/entry/2520586/
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ブッチー2 (室長)
2012-02-10 00:05:58
こんばんは、
 Webster辞書で引いてみると、butchの第1の意味は、タフな男、要するに現代語で言えばマッチョ(+ホモ、同性愛者)があり、次いで、第2に、これを裏返しにした、レズの「男役」という意味もある。
 更に第3として、butchはbutcherの略語で、人という意味、そして第4には、される動物としての豚(hog)という意味もあるらしい。
 要するに、フランス人への侮蔑語として、ホモ野郎でも、男役でも、或いは豚野郎でも、何れでも使えるようにも思えます。
 しかし、何しろ、小生が聞いたのは昔の話で、本当にbutchが仏人を侮辱する用語だったのかとか、隠語としてフランス人を指すのか、確信はありません。そこのところはご勘弁下さい。

 ともかく、小生が言いたいのは、欧州が統合化の道筋を選んだのも、それまでのあまりに不毛な戦争を、二度と繰り返したくない、と言う歴史的決意として、我々も賞賛したい気持ちはあるけど、それでも未だに、対隣国感情において、複雑な心情が消えたわけでもないようだ、ということ。

 ちなみに、あなたが言うように、第二次大戦後の東大仏文学部などは、左派への傾斜が強すぎて、知識人として、マスコミ受けはしたけど、本当の知性としては、失敗した人間ばかり輩出した、という評論が、最近の産経紙にも、右派系の知識人(同じく東大仏文出身)によりなされていたと記憶します。同窓として、恥ずかしい人間ばかりだというのだから、哀れなものです。・・・というか、これはあなたの引用している、平川氏の論文でした、今クリックして、あら、この記事だったと気付きました。本当に、産経紙には、こういう鋭い反省記事もあって、面白いです。
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RE:ブッチー2 (mugi)
2012-02-10 21:37:42
>こんばんは、室長さん。

 これまでの長く不毛な戦争を繰り返さないために、欧州が統合の道を歩んだ理念は私も立派だと思いますが、それでも対立感情は容易には治まらないのは渡欧体験のない私でも分かります。にも拘らず、NHKはじめ日本のメディアでは相も変わらずに理念を強調、日本も隣国との関係改善…と方向に持ってくるから、ウンザリさせられます。
 ネットでも似た様な意見を吐く者がいますよ。やたら『日本人の心』を強調、思いやりを訴えつつ、それでは隣国と同じと利いた風な説教をする者が。そんな者に限り火病と逆切れが酷いし、見え透いた嘘を平気で書いたりするから、日本人成りすましの可能性があります。

 河北新報は未だに仏文学系の知識人並びに文化人のコラムが結構載っています。おフランスといえば、世界文化の中心地と憧れているのでしょう。3~4年くらい前だったか、フランス在住の日本人作家の声など、実に下らなかった。主旨は「格差が進む社会と長時間労働で日本人は幸福なのか」程度であり、この人自身こそあまり幸福そうに見えませんね。

 これはかつての大陸浪人と同じに見えます。より広い海外で一旗あげると意気込んで脱出したものの、成功者はごく僅か。内地で芽が出ず海外渡航しても、あちらでも泣かず飛ばずの類が多いのではないでしょうか。河北などに寄稿するのだから、タカが知れている。
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三銃士の続編 (スポンジ頭)
2012-02-10 22:58:12
 こんばんは。

 はるか昔に三銃士の続編を読んだことがあります。相当時間が経過しているので記憶違いがあると思います。私が覚えている限りだと、若い頃はイギリス人などいくら死んでも構わないと発言していたアトスはを三人の仲間と共に、清教徒革命で捉えられたチャールズ一世救出しようと奔走しますが失敗します。最後はチャールズの処刑台の下に潜んで自分に向けられた国王の遺言を聞き(内容は失念)、自分の額に落ちかかった国王の血を見て気絶してしまいます。決闘や戦争で大勢人を殺しているはずのアトスが気絶したのが不思議だったので印象に残りました。
 アトスが続編で仲間に語った言葉に、国王は自分たち貴族の第一人者だから尊重されるべきと言うのがあり、チャールズ一世を救出しようとしたのもその考えに基づくのでイギリス人に対する反感は変化していないのかもしれませんが、ストーリー全体にイギリスに対する対抗心はほとんど見られませんでした。チャールズ二世の復帰もダルタニャン達の陰の働きがあったことになっています。
 私はイギリス史に関する知識がないのですが、ある程度の知識があればもっと面白く読めたかも知れないと思います。その本を手放してしまったのが今にして思えば残念ですが、三銃士の翻訳は多くても、続編は鉄仮面以外殆ど無いのは、日本の読者にとっては一般的に三銃士と比較すると面白みに欠けるよう見えるのではと感じました。
 ミレディーの息子も登場して4人に復讐しようとし、例の首切り役人が手始めに殺されます。この男はクロムウェルの部下で、自分をウィンターの家から無一文で放り出した国王とウィンター卿を恨み、この男が暗躍したのでチャールズ一世の逃亡も結局失敗し、ウィンター卿も殺されると言う設定になっていたと思うのですが、そもそもミレディーが自分の欲のために人を殺さなければこんな事態にならずに済んだので、彼女の悪影響は後々まで続いたのでした。
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RE:三銃士の続編 (mugi)
2012-02-11 21:20:23
>こんばんは、スポンジ頭さん。

 私も三銃士を読んだのはかなり昔だし、続編は未読ですが、興味深いお話を有難うございました!記事にも書いたように、私が憶えていたのはアトスのイギリス人などいくら死んでも構わないという発言です。それが続編では仲間と共にチャールズ一世を救出しようと奔走したのですか。もちろん国王なので、一般イギリス人とは感情が異なっていたのでしょう。

 私もイギリス史やフランス史に関する知識は教科書以上ではないため、三銃士もどこまで理解できたのか心もとないです。日本では三銃士は結構ドラマ化されていますよね。最近もNHKの人形劇になっていたし、以前これまたNHKでアニメ化されていました。アニメ三銃士でアラミスが女性だったという設定はぶっ飛びましたが。

 続編でミレディーの息子が登場するのも面白いそうですね。確かにミレディーは同性から見てもワルですが、魅力的でもあります。彼女に毒殺されるコンスタンスよりも印象的でした。
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三銃士の続編 その2 (スポンジ頭)
2012-02-14 00:36:12
 2つある三銃士の続編の内、チャールズ一世が処刑される清教徒革命が描かれたのは最初の続編「二十年後」で、タイトルの通り一作目から二十年後と言う設定です。その続編のメイン舞台は貴族の連合体から絶対王政への移行期で発生したフロンドの乱です。当初ダルタニャンとポルトスは王側、アトスとアラミスは反乱軍側で対立するのですが結局仲直りします。ダルタニャンは二十年後も相変わらず銃士隊副隊長、ポルトスは富豪になったものの愛する妻に先立たれ、妻の生前は彼女の身分が卑しいと周囲の貴族から見下され、腹立ちのあまり決闘で数名殺害します。しかし、ポルトス自身爵位を持たない貴族であるため決闘後も周囲と馴染めず憂鬱な日々を過ごしていました。そこを国王側のダルタニャンに誘われ、手柄を立てたら男爵の地位を与えるという条件で王側に参加します。
 アトスとアラミスが反乱軍側に立った理由は忘れましたが、リシュリューの政治上の後継者にして枢機卿のマザランに対する反感が元になっています。アトスは息子が一人いて、その子の手本となるよう今までの自堕落な生活を改めているのですが、表向き捨て子を拾ったとして養子として育てています。なぜならその子の母親はアラミスの元恋人のシュヴルーズ夫人で、ひょんな事で関係を持ち、その結果息子が誕生したからです。夫人はアトスと出会った場所に子供を送り、それをアトスが引き取りました。アラミスは神父になっています。それでも相変わらずの血の気の多さで戦争に参加して人を殺しているのが溜め息をつくところでしょうか。

 かのアンヌ・ドートリッシュはルイ14世の摂政ですが密かにマザランと結婚しており、可憐なイメージが様変わりしていました。ダルタニャンも宿屋の女将さんと同棲しているのですから人は変わるといえばそれまでですが。
 今回の悪役(?)マザランは現実の歴史上の重要度はさて置き、リシュリューと比較すると小物のイメージで描かれ、アラミスはマザランをリシュリューより明らかに軽く見ている描写があります。そしてリシュリューに対する4人の感情が一作目と逆になっており、自分たちは若くてリシュリューの偉大さが分からなかったとリシュリューを賞賛するようになっていました。
 今回はミレディーに該当する悪女は登場しません。登場する女性も歴史上の人物がメインなので荒唐無稽な活躍はさせられないからでしょう。また、前作何かにつけて出ていた決闘場面もなく、その代わりに貴婦人が主催し芸術や哲学を論ずるサロンが新たに登場し、そこは文学や神学談義が行われると同時にマザランに反抗する貴族たちの溜り場となっていました。決闘が減少したのはリシュリューの決闘禁止令の成果でしょうか。

 とにかく歴史上の人物が前回より更に増加し、複雑な筋立てになった物語です。
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RE:三銃士の続編 その2 (mugi)
2012-02-14 22:25:01
>スポンジ頭さん、

 三銃士の続編のストーリーを紹介して頂き、有難うございました!一作目から二十年後の物語なら、登場人物も変わってくるのは無理もありませんね。歴史小説に相応しく、フロンドの乱を背景に時代の移り変わりも描かれているようで、前作とは違った複雑な展開になったとは…

 それにしても、アトスの息子の母がアラミスの元カノというのも面白いですね。アラミスは神父になっても剣を捨てられず戦争に赴くのだから、日本人の感覚では違和感があります。一作同様に彼は恋にも無縁ではない?

 やはり今回の悪役はマザランでしたか。そして、リシュリューが決闘禁止令を出したとは知りませんでした。いくら禁止令を出しても、影では行われていたでしょうけど、決闘場面が減ったのは少し残念。
 リシュリューは枢機卿にも拘らず、三十年戦争時に敵の敵であるプロテスタントを支援していますよね。聖職者でありながら、宗教よりも国益第一の政治家というのも興味深いです。とにかく欧州史にはクセのある政治家が少なくない。
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三銃士の続編 その3 (スポンジ頭)
2012-02-25 23:27:46
 こんばんは。また三銃士の続編の続きをば。

 この二十年後はロシュフォールとボナシューのその後も少々描かれています。まずロシュフォール。彼は前回のラストでダルタニャンと和解して友人になったものの、王家に恨まれてリシュリューの死後投獄されます。そしてフロンドの乱が発生するとマザランに呼び出されて自分に使えるよう命令されますが拒絶。余りにもマザランが小物に見えたからでしょう。当然再投獄のところを脱走、フロンド側に味方します。最後は王家とフロンド側との戦闘中、王家側で参戦していたダルタニャンの側に近づいてしまい、相手が何者か知らないダルタニャンより致命の一撃を浴びてしまいます。その瞬間ダルタニャンもロシュフォールに気づくのですがもはや手遅れ、「自分を恨まないで欲しい」と言うダルタニャンの言葉を聞きながら絶命となりました。
 ボナシューはリシュリューの命令でバスティーユに投獄され、釈放後はパリの裏社会で生き延びていました。以前は小狡い小悪党のイメージでしたが、今は過去に対して良心の呵責を覚えながら過ごしており、心の苦しみが顔に現れている陰鬱な雰囲気の人間に変化しておりました。
 これもフロンド側に雇われて民衆を扇動する役目を負うのですが、彼も最後王家とフロンドの戦争に参加してポルトスに殺されます。ポルトスは相手に見覚えがあるのですがすぐには思い出せず、物語のラストで思い出したものの、一切気にも留めずあっけらかんとしていました。細かいところを気にしないのがポルトスの長所でもありますが、自分の行動で心を痛めていない点、ダルタニャンと大違いです。

 アトスとシュヴルーズ夫人の関係なのですが、夫人は騒動を引き起こして外国に亡命する途中、ある教会で宿を借りるのですが、そこに神父の代わりに留守番をしていたアトスがいました。夫人はアトスを神父と思い込み、元来軽はずみで向こう見ずな性格らしく、神父を口説いたらいい思い出話になるとばかりに口説き、その結果アトスの息子が誕生します。外国の亡命先で夫人は出産するのですが、亡命先で育てられないので教会へ送りつけ、本当の神父は困惑するもののアトスが引き取るのです。なるほど、養子という名目でないと育てるのが困難な状況です(苦笑)。後に夫人も自分が母と言わずに息子と対面し、息子が上品に育ったので非常に喜んでいました。
 アラミスもロングヴィル夫人という新しい恋人が出来ているのですが、アラミスの神父という立場を考えるとかなり不思議です。
 従者たちの内3名は主人に仕えていますが、ダルタニャンの従者、プランシェは主人の元を離れて商売をし、結構裕福になっていました。フロンド派ですが、ダルタニャンには協力します。

 いきさつは忘れましたが、この作品の後半でダルタニャン達がマザランを誘拐してアンヌ・ドートリッシュと交渉する場面があります。前回ではバッキンガムに贈ったダイヤを取り返した恩人であるかの4名も、今作品はアンヌにとって自分の秘密を知っている邪魔者と言う位置づけになっているようでした。アンヌとマザランの結婚はロシュフォールでさえ驚く行動で、一番印象が変容したのは彼女かもしれません。

 >リシュリューは枢機卿にも拘らず、三十年戦争時に敵の敵であるプロテスタントを支援していますよね。
 結構カトリックの聖職者は聖職者よりも軍人か政治家と言う人物が多い印象があります。ユリウス二世はチェーザレ・ボルジアを失脚させたり自分で軍隊を率い戦地に赴いてますし、チェーザレの父親のアレクサンデル六世は権謀術数塗れです。
 全く関係ありませんが、リシュリューにちなんだ戦艦も第二次世界大戦時に建造され、日本海軍とも戦ったそうです。フランス人からしてもリシュリューは政治家で聖職者のイメージはそれほどないのでしょう。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%AA%E3%83%A5%E3%83%BC_(%E6%88%A6%E8%89%A6)
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RE:三銃士の続編 その3 (mugi)
2012-02-26 21:00:07
>こんばんは、スポンジ頭さん。

 またも三銃士の続編の紹介を有難うございました!ロシュフォールとボナシューのその後の人生と最後は面白いですね。ロシュフォールは前作では敵役でも最後にダルタニャンと和解したのに、いかに戦場にせよ結局は主人公に殺害されるとは、波乱万丈のキャラクターですね。
 また、ボナシューもフロンドの戦争でポルトスに殺されたとは予想も出来ませんでした。前回の小狡い小悪党のイメージから、強かに生き延びると思っていました。ポルトスの能天気さは変わらないようですが。

 アトスとアラミスの元カノ・シュヴルーズ夫人の馴れ初めも笑えます。息子が上品に育ったのも軽はずみな母がいなかったこともあった?と思いたくなりますよ。アラミスはアラミスで、神父のくせにまたも“姦淫”している。このような人物が教会で「なんじ姦淫するなかれ」と説いているのを想像しただけで、異教徒には理解不能です。

 仰る通りカトリック高僧は俗界の方でも辣腕を振るい、並の政治家顔負けの人物も珍しくない。ユリウス二世の起こした戦での死者は、チェーザレ・ボルジアのそれをかなり上回るそうです。アレクサンデル六世は権謀術数だけでなく、肉欲塗れでした。チェーザレには同腹の弟妹がおり、その母はれっきとした人妻!俗人の夫がいながら、聖職者の子供を産み続けるのもスゴイ。

 リシュリューにちなんだ戦艦があったとは知りませんでした。検索したら、wikiにも載っています。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%AA%E3%83%A5%E3%83%BC_%28%E6%88%A6%E8%89%A6%29
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