『おいババア』

『おいババア、歩かんやったら横に逸れろ』

難波駅の15m程のエスカレーター。
20歳ぐらいの男の子が、
僕を挟んで前にいるお年寄りに向かって、
そんな事を言った。

おばあさんは、どう見ても80歳を越えていて、
杖を突いていて、フラフラしている。

関西ではエスカレーターは、左側が優先。
止まっているなら右側へ避けるのがルール。

確かに、言ってることは間違ってない。
僕も一瞬、(おっと...止まるんや...)とは思った。

ただ、お前は絶対に間違っている。

おばあさんが小さい声でゴメンねと言いながら、
右側に逸れようとしたけれど、右側は人で
いっぱいで、おばあさんはフラフラしていた。

だから、おばあさんに、
「良いですよ、そのままで。もうすぐですから」
と言ってあげた。実際、あと数秒の問題。

すると男の子が僕の背後から、
「マナーやろ！」と叫んだので、
「目上に対して敬語を使うのもマナーやろ」
と振り向いて怒鳴ってしまった。

ちょっと虫の居所が悪かったのは自覚して
いるけれど、普段こんな公共の場で大声を
出すなんてしないから、自分でも驚いた。

ヤバい奴だったら殴られてたかも。
暫くして足が震えた。

でも、とりあえず、僕が怒鳴ったら、
その子は何も言わずに退いてくれた。

必死のパッチで覚えてないけれど、
周りの目も自分を讃えてくれていた気がする。
気のせいかも知れないけれど。

エスカレーターを上り切って、
おばあさんに、大丈夫ですか？と訪ねた。
大丈夫ですか、って何だよ、と思った。

おばあさんは、ヨボヨボの声で、
ありがとう、という感じのことを言って、
フラフラ改札へ歩いて行った。

死なないか心配だった。

今思うと、余計な事を言ったら怖いぞって
いうのと、どうせならもっと気の利いたことを
言えばよかったなと後悔。

例えば、

「エスカレーターでの数秒も待てんのなら、
お前の人生なんてタカが知れてるね！」

とか、

「そんなマナーより、このおばあさんの方が
先に生まれとるねん！」

あと、「黙れ小童！」とか。

30分経った今でも、顔が熱い。
ナイフとか持ってなくて本当に良かった...。